#2 懐疑

「今日未明に起こった、新都心エネルギー開発センター爆発事件については今もなお、行方不明者の捜索が行われています。」


耳を突き破る爆発音。

自分に落ちてくるコンクリートの瓦礫。

目を瞑りたくなる眩い光。


目の前にいた同僚に手を伸ばしたその瞬間、

シャッターが落ちるかのように暗闇に引きづり込まれた。


手は届かなかった。


鮮明に浮かび上がるその記憶に、冬野友樹は手を握りしめていた。

ベッドの布がその状態のままとなってしまうかの如く、きつく。


「春山巡査はまだ見つからない。」


病室で目が覚めた数分後、上司に彼は告げられた。


冬野たちは行方不明事件の捜査線上にあがった「新都心エネルギー開発センター」の潜入に入り、その場所に踏み入れようとした最中この爆発に巻き込まれたのだった。


信じられなかった。

目の前にいた彼が見つかっていないこと。

自分があの時手が届いていれば...


そのまま病室にはいれなかった。

冬野の頭の中ではぐるぐるとあの一瞬の出来事が繰り返されていた。


アナウンサーの声が病院のフロアに鳴り響く。

その音に対して、患者やその付き添い者全員の顔がそのテレビ画面に向かっていた。


「くっそ...。」


そのまま彼は出口に向かい、館内着のまま外へ出た。

少しまだ寒いその気温など、彼には関係なかった。

ただ、同僚の春山が見つかっていないことが信じられなかった。

俺だけ生きている、見つかっていることへの罪悪感が心を侵食していた。





『新都心エネルギー開発センター』

数年後にある外国との環境問題会議を踏まえ、

持続可能エネルギーの開発を目的とした機関と聞いていたが、近年行方不明者が増加しておりその捜査上、この付近がもっとも多いことからアンテナがはられていた。


そんな施設の潜入捜査がとうとう今日行われることになったのだ。

そして俺たちは裏道を見つけそこから踏み入れようとしていた。


冬野は少しずつ、爆発が起きるまでの導線を思い出しながらその場所へ向かう。


はっと下を向きながら歩いていたが顔を上げる。


「、、、嘘だろ。」


感覚で顔を上げたその場所は、

記憶の最後にいた場所に見えるところだった。


目の前にある近未来的な建物――――はなかった。

自分たちがみていたのは夢だったのかと思う程、その場所には瓦礫の山だけしかなかった。

ただ、間違いなく記憶の最後の場所はここだった。


「、、、。」


足をそっと前に踏み入れる。

冬野は自分が数分前にいたその場所にたった。


「――――おかしい。」


刑事の感か、

その場所は不思議なくらい綺麗にされていた。

あのとき、瓦礫が降りかかってきた。

それは間違いない、、、。

しかし、瓦礫の一つもその区画だけなかったのだ。


「春山は生きてる――――。」





『行方不明者、発見!!』

『付近のコンビニ店員、秋本俊と身元が判明!』


冬野の背後で救急車の音がとまる。


「秋本、俊。」


この名前は覚えておかなければと感じた。





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