ナニシン

@q10

第1話

...


いつもは外で工事をしているのに

今日はしていない



部屋で仰向けになり、天井を見ている青年


フラッシュ-

女性の声「それでも私は大好きです」


...



嘘つけよ



ひどく、つらい言葉だった





***


走っている橘。


道は石畳、街灯はまばら。

大通りから少し外れた道。人気はない。


橘「え????」


橘「え???????」


橘「はぁ、はぁ」


橘「う」


彼は転ぶ。


橘「った」

橘「はぁ...はぁ...」


男「ほら」


橘「はぁ...はぁ...」


顔を上げる橘


橘「...はぁ...はぁ...」


男は街灯で照らされている。顔が見えない。

彼は手を差し伸べている


男を見ている橘


橘「え?」


男「...」

 

 「素質があるな」


橘「...?」


-一日前-


都会の中の道。中規模なビルの前で、

青年、橘聡たちばなさとる (27)はスーツを着て立っている。顔を伏せて前を向いてはいない。


橘は素早く顔を動かす。

歩く人の顔をチラッと見てはすぐ伏せる。


通行人「??」

通行人は怪訝な顔をして橘を二度見。


橘「ふぅ...」

橘は意を決してビルに入る。


橘は下を向いて踊るように進み、人とぶつかりそうになりながらエレベーター前へ向かう。


***


ビル6階。

面接用の小部屋がいくつも並んでいるフロア。

橘は何とか受付を済ませた後、部屋の奥へと通され、小部屋に案内される。


小部屋の中には、面接用の机と向かい合っている椅子が2つあり、彼は椅子に座る

橘「...」


前を見るでも下を見るでもなく目線が固定されている。


トントントン-


橘「はい」



女性面接官「失礼します」

黒のパンツ、黒の革靴、白シャツにカーディガンを羽織っているスタイルの良い女性が入ってくる。


橘「こんにちは」


橘は机に会釈。


女性面接官は席に座り-

女性「本日は、よろしくお願いします」

橘「あ、はい。宜しくお願いします」


絶妙に顔は見ない橘。


女性「それでは、履歴書と職務経歴書を頂戴いたします。」

橘「はい」


紙を受け取り-

女性「それでは、自己紹介とご経歴の紹介をお願い致します。」


橘「えぇー...橘聡...と申します。27歳...です。経歴は-」

角度的に女性の胸に視線を落として紹介をする橘。そこから目線は動かない。


橘を見ている面接官。

女性面接官「...」

少し動揺している。目線が上下に動いている。


女性面接官「...」


女性面接官「あ...はい...」


橘「はい」


橘の目線が胸から動かないのが気になる面接官。


女性面接官「え...えぇー...それでは...次に...」


胸をガン見の橘。


女性面接官「...」


彼女は胸をカーディガンで覆う。


橘「...」

目が少し動く橘。


橘「...」


彼は女性をチラ見してすぐ視線を戻す。


女性面接官「...」


橘「...」


ん?


***


橘はチープな一人暮らしのマンションで暮らしている。県営住宅で家賃は安い。彼は仕事を辞めたばかりで貯金はある。かつては一流企業に勤めていた。


翌日の土曜の朝。

彼は立っていた。


橘「...」


自分のマンションの駐車場に。


上はシャツ、下はスウェット。手提げの簡素な鞄を持っている。色はシック。


橘「...」


夏のある日。外に出れない程ではない気候。


橘「胸見てないんだけど...」


橘「...」


橘「...」


周りをキョロキョロ

さっと首を前に戻す。


橘「...ふぅ」


彼は自分の車に乗り込む。















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