第41話 ガルドの犯した償うことができない大罪
「はっ……はっ……はっ」
「姫さん待って!」
「レイナさまっ……」
城内を駆け抜ける足音が石造りの回廊に反響していた。
「ありえない。いや、ありえる。あいつのあの様子からして最悪のことが……」
「姫さん、いったいなにが……」
「レイナさまっ。ご説明を……」
レイナの顔は蒼白だった。
赤い騎士服が肩にずり落ちるのも構わず、彼女は無我夢中で父のもとへ向かっていた。
「お願い……間に合って……!」
そして、ガルドだが……。
「ガルド待て!」
レイナが部屋から出て行ったのを確認するとすぐさま追跡を開始した。
「レイナ狙いか⁉」
「違う……お前に見せたいものがある。だから、レイナ姫と同じ方向に向かっている」
その目には、怒りでも、悲しみでもなく、奇妙な満足の色が宿っていた。
「くっ……!」
レイナは扉を開け放つと、そのまま中へ飛び込んだ。
そして――――。
「嘘よね……」
目の前に広がった光景に彼女はその場に膝をついた。
父、現国王オーグスト三世の寝台は静まり返っていた。
医師と思われる人物が2人、目を伏せて立っている。
「お父さま……?」
――――返事はなかった。
「お、おい、まさか……」
フランツが後ろからゆっくりと進み出る。
王の寝顔はあまりにも静かで、あまりにも穏やかだった。
だが、その安らかな表情がすでにこの世の人ではないことを如実に物語っていた。
「……亡くなられました。今朝方、息を引き取られたと……」
「我々は必死に処置を施しましたがいかんともしがたく……申し訳ない」
医師が絞り出すように言った。
「……うう、うわああああああああん!」
レイナの泣き声が寝室に響き渡った。
「嘘よ……! そんなの……! なんで……なんで」
彼女は父の枯れた手を握りしめ、何度も呼びかけた。
レイナと父である国王はそこまで良好な関係ではなかった。
騎士団に入ろうとするレイナを止めようとしたことがきっかけでこじれたとか、それ以前から関係が破綻していたとか、様々な噂があるわけだが、とにかく関係はあまりよいものではなかったというのは周知の事実である。
だからといって心の底から王の不幸を望んだりするほど関係が悪かったわけではない。
平たく言えばただの仲の悪い親子。お互い不器用で本心を伝えきれなかったがために起こった悲劇である。
「ガルド。やりすぎだ……」
フランツがガルドを睨みつけた。
「お前、ここまで……やる必要があったのか……!」
「ふっ、やる“必要”があったかと聞かれれば……あるさ」
ガルドは口の端を歪め、笑った。
「私の道は最初から一本道だった。退路など最初から用意していない」
「なに……?」
「お前が生きて帰ってきた時点で私は詰んでいた。ならば、せめて……最後にすべてを壊すしかないと思ったのだ」
「狂ってるな……!」
リリアが吐き捨てる。
「あいつ騎士団長の皮をかぶったただの狂人だ……!」
「違うぞ。王都のギルドマスター、リリアよ。私はずっと“本気”だっただけだ。王という椅子を本気で取りに行った。たかがフランツひとり、殺しておけば終わるはずだった……だが、それすら叶わなかった」
「そこまで言って……まだ自分の非を認めないのか?」
フランツの声は静かだった。
だが、そこには怒りの芯がこもっていた。
「認める? 誰が? お前にか? この私が……!」
「――――ガルド」
フランツは一歩前に出た。
「正直に言おう。俺は……お前を見限った」
「……!」
「かつての仲間だった。実力もあった。誰よりも誇りを持っていた。だが、今のお前には……見るべきものがなにもない」
「ぬうぅううう……!」
ガルドの肩が震えた。
「ガルド。お前はもう人間じゃない。人の道理から外れたただの獣だ」
「黙れ……黙れフランツ! お前がいなければ俺はっ……俺は……!」
「結局、お前は他人を踏み台にしなければ立てない男だった。それが……すべてだ」
その言葉にガルドは狂ったように笑い始めた。
「フハ……ハハハ……! ははははははははっ……!」
「な、なによ……急に笑いだして……!」
レイナが涙を拭いながら眉をひそめた。
「お前ら……わかってねぇよ……俺がこんなことで終わるとでも……!」
「……ガルド?」
「俺は……最初から“これ”を切り札にしていたんだよ!」
その瞬間、ガルドの懐から――――小瓶が飛び出した。
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