第34話 賢者の試練~テスト編~


 ついにこの時がきた。


 ムーンは心の中でこう呟いた。この日のために、ムーンは頑張って勉強をしてきたのだ。


 今日は高校受験の日。アルスと弓彦が通う高校の受験日なのだ。


「ムーンちゃん、落ち着いてやれば大丈夫よ」


 出かける前、弓彦母がムーンにこう言いながら、受験のお守りを渡した。


「これお守り。受かるといいわね」


「はい! 絶対に受かってみます‼ では行ってきます!」


 意気揚々と、ムーンは玄関を開けて出かけて行った。




 校内にて。受験日は用がある生徒以外は休みのはずなのだが、なぜか弓彦とアルスが校内にいた。


「何で俺たちが呼ばれたんですか?」


 せっかくの休みが潰され、不満げな弓彦が呼び出した張本人である御代にこう聞いた。


「先生からカンニング対策として見回りしてほしいと頼まれたのよ。一部の先生が病気で倒れたらしいのよ」


「それは分かります。前にも言ったかもしれないけど、俺とアルスは生徒会の人間じゃあないですよ」


「いや、私は生徒会に入ったぞ」


 アルスは生徒会の腕章を、弓彦に見せびらかしながらこう言った。


「お前いつの間に!」


「とりあえず私の推薦でお前も生徒会に入れたから」


「何勝手なことやってんだこの勇者はァァァァァ‼」


 勝手に生徒会に入れられたことを知った弓彦は、大声で叫んだ。


「だから、今の二人は私の部下よ! じゃあ今から別々で行動するわ。皆、私の言った教室で待機し、テストの監督をせよ‼」


 その後、御代は生徒会の生徒たちに教室の場所を告げ始めた。




 弓彦は御代に言われた教室へ行き、テストが始まる時を待った。弓彦は席に座る生徒達を見て、自分が受験生だった頃を思い出していた。


 俺もこの学校に入るために頑張ったっけな。


 そんなことをしみじみ思いだしていたら、後ろにいた誰かが弓彦の頭を叩いた。


「イタッ! 誰だこんなことしたの?」


「私ですよ。わ、た、し」


 叩いたのはムーンだった。弓彦はむすっとした表情でムーンにこう言った。


「まさかお前がこの教室で受験を受けるとは」


「私は言われた通りにきただけです。それより、どうしてあなたがここにいるんですか?」


「御代会長に呼び出されたんだよ。ほんとは休みだったのに、俺いつ生徒会に入れられたんだ?」


 小言を言う弓彦を無視し、ムーンは自分の番号札と同じ番号の椅子へ座った。


 それから数分後。担当の先生が教室に入り、受験生達に問題用紙と回答用紙を配り、こう言った。


「では今から受験を開始します。各テストの時間は五十分間。開始の声と同時に回答を始めてください。なお、私語やカンニング行為があった場合、失格にする可能性があるので行わないでください。落とし物をした場合は手を上げ、私か後ろにいる当校の生徒がくるまで待ってください。では、時間開始までもうしばらくお待ちください」


 その後、緊張感が教室中を包み込んだ。ムーンも少し表情が硬く、手汗も出ていた。その緊張感は、後ろで見ている弓彦にも伝わっていた。


「では……始めてください」


 先生の声と同時に、受験生達は解答用紙と問題用紙を広げた。それから、誰一人言葉を発することなく、テストが進んでいった。




 そんな中、学校の外ではショーミとイータが歩いていた。


「何だ今日は? おかしいぞ、JKが一人もいない」


「当たり前です。今日は高校受験。高校生たちは家で勉強してるか、外で遊んでいます」


「外で遊んでいる。じゃあ我もJKたちと一緒に遊んでこよーっと‼」


 空を飛ぼうとしたショーミの翼を掴み、イータはショーミを地面に叩きつけた。


「何すんだ⁉ というか、段々私の扱いが雑になっているぞ!」


「知りませんよそんなこと! それより、早くバイトの面接へ行きましょう。変なことしたらぶっ飛ばすからな」


「上司に言うかそのセリフ?」


 そんなことを話しながら、二人は面接へ向かった。




 数時間後、テストは無事全て終了した。「もう余裕で合格だろこれwww」と思う者や、「たのむ……合格してくれ」と神に願う者、「もうどうでもいいやあっはっは!」とあきらめた者、「大きな星が付いたり消えたりしている。ハハハ……彗星かな? いや違う。彗星はもっとばぁーって動くもんな。うーん、暑苦しいなぁ。おーい、出してくださいよー!」と精神崩壊する者がいた。


 そんな中、ムーンはと言うと……。


 結構楽だった。


 心の中でムーンはこう思っていた。この日のためにムーンは受験対策の本を読み漁っていたのだ。それも一冊ではなく、何十冊も。最初は分からなかったが、教科書を見てすぐ内容を理解していった。その結果、彼女の頭の中には中学三年間で習うこと、すべてが頭に入っていた。


「よー、気の抜けた顔してるぜ」


 と、弓彦が声をかけてきた。


「結構楽だったから気が抜けたんですよ」


「名前は書いたか?」


「もちろん。受験前に言われたこと全て守ってますよ」


 ムーンはそう言うと、立ち上がってこう聞いた。


「お姉様はいます? 合格確定と伝えたいんですが!」


 それを聞き、弓彦は少し困った顔をして返事をした。


「あのなぁ、受験はテストだけじゃねーぞ、面接もある」


「あ……そうでした」


「もし、面接でやらかしたらそれだけで不合格ってこともあり得るからな。特にお前は変な魔法使うから、なんか変なこと聞かれても絶対に使うなよ」


「分かってますよ」


「はいはい。面接は明日だから、緊張して答え噛みまくるなよー」


 と、弓彦はこう言って教室から出て行った。




 それから数分後、学校の外では面接から帰ってきたショーミとイータが歩いていた。


「あんたが面接官に欲情するから、私まで不採用にされたじゃないですか‼」


「仕方ないだろ! だって面接官って基本おっさんだろ⁉どうして今日に限って我好みの美女が面接官なんだ? 襲うに決まってるだろ‼」


「そういう考え方を止めてください‼ この変態‼」


「上司に向かって変態っていうな‼ 泣くぞ‼」


 この時、ショーミの目には学校から出てくるアルスと弓彦とムーンの姿が映った。


「おお‼ 勇者と賢者ではないか‼ とりあえず姉妹丼で我を癒してくれー‼」


 と、変なことを言いながらショーミは校内へ入ってしまった。


「お姉様、変態がきました」


「受験で皆ピリピリしてるというのに……お前という奴は……」


 アルスは突進してくるショーミの顔面を左手で掴み、強く握りしめた。


「オブッ‼ ちょ……やめ……なんかメキメキ言ってる……」


「明日は面接の日なんだ。あまり物騒なことを起こすなッ‼」


 アルスの右手から、強烈なアッパーカットが放たれた。アッパーを喰らったショーミは、鼻血を出しながら宙へ舞った。その時、こんなことを思っていた。


 燃え尽きたぜ……真っ白にな……。


 その後、バカはグラウンドへ車○落ちした。




 帰り道、ムーンはテストのことをアルスに聞かせていた。


「そうか。やはり楽だったか」


「ええ。対策さえ練れば楽な問題ばかりでしたね」


「お前の頭の中どうなってんだよ?」


「ありとあらゆる知識とお姉様への愛で詰まってます」


「あっそ。こんなこと聞いた俺がバカだった」


 弓彦は呆れてため息を吐き、こう言った。


「そうだ。明日は面接だが、大丈夫か?」


 アルスはムーンにこう聞いた。ムーンは少し考え、返事を出した。


「多分ですね。でもあの魔王や変な人が教室に入ってこない限りは大丈夫だと思います」


「変な人……ねぇ」


 それはないだろうと、弓彦は思っていた。今日は世界の襲撃もなく、平和な一日だった。明日も何事もなく、過ぎていけばいいのだが。弓彦は心の中でそう思った。

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