第33話 初日の出の時ぐらい静かにしてくれよby弓彦
クリスマスから数日が経ち、あっという間に大晦日の日となった。
「十二月は大変だな。この前までクリスマス一色だったのに、今は別のイベントで大騒ぎだ」
「年を開けるのに苦労するんですね」
アルスとムーンは正月の飾りを付けながら、こう会話していた。一方で、弓彦は和室で正月の支度をしていた。
「ふぅ、門松の用意はできた。後は鏡餅だな」
弓彦は和室の隅に鏡餅を多き、こう言った。その時、アルスとムーンが部屋に入ってきた。
「あ、餅がある」
「鏡餅って言うんだ。一応正月の飾りだ」
「お餅が飾りですか。少し変わってますね」
ムーンが鏡餅に近付き、こう言った。
「ま、これも日本特有の文化なのだろう。とりあえず掃除や準備は終えたし、私は剣の修行をやるとするか」
「じゃあ私は受験勉強してます」
「分かった。俺は部屋にいるからなー」
その後、三人は別々のことをやるために散って行った。
その日の夕方。アルスたちは年越しそばをすすりながらテレビを見ていた。
「今日の夜中の天気は晴れ。初日の出を見るには絶好の日ですよー‼」
と、お天気キャスターが笑顔でこう言った。初日の出と聞き、アルスは疑問に思った。
「初日の出? 弓彦、何だそれは?」
「新年一発目の日の出を見ることだよ」
「いつもの日の出と変わっているのか?」
「変わらないよ。だけど、新年だから見る人が多いんだよ」
「そうか……でも面白そうだな。弓彦、私達も行くぞ!」
アルスがこう言うと、ムーンが「私も付いていきます!」と叫んだ。
「じゃあ夜中に近所の山に行くか。そこで初日の出を見れるはずだ」
「そうか。楽しみだな!」
と、アルスが笑顔でこう言った。その話を、隣の家の世界は盗聴器で盗み聞きしていた。
年明けの夜中、弓彦とアルス、ムーンは防寒着を身にまとい、近所の山へ向かった。
「うわー、寒いですねー」
「夜中だしな。風邪に気を付けろよ」
「大丈夫だ。いざとなったら魔法で寒さを飛ばしてやる」
「頼もしいな」
そんな会話をしていると、電柱の横から世界が現れた。
「あら弓彦君、偶然ね」
「何が偶然だ。そこで待っていたろ」
「とにかく、一緒に行きましょ? 日の出が昇ると同時に、私達も絶頂へ達しましょう」
「一人でやってろ」
アルスは魔法の檻を作り出し、世界を封じ込めた。
「ちょっと待って! 何これ、出れないんだけど!」
「そりゃそうだ。檻だからな。そこでじっとしてろ」
その後、三人は檻の中で騒ぐ世界を放置し、去って行った。去っていくアルスたちを見て、世界は叫んでいた。
「ちょっと待って‼ 新年早々放置プレイは嫌ァァァァァァァァァァ‼」
数分後、アルスたちは近くの山へ到着していた。すでに数人のカメラマンが、カメラを構えて初日の出を撮影する準備をしていた。
「結構人がいるなー」
「暇なんですかね?」
「そんなこと言うな、叱られるぞ。この作者が」
そんな会話をしていると、誰かが声をかけてきた。
「あらー。アルスたちも日の出を見にきたの?」
「御代会長」
声をかけてきたのは御代だった。横には三毛と日枝がいた。
「皆もきてたんですね」
「毎年日の出を見るのが私の家の恒例行事なのよ。皆とは偶然会っただけ」
「そうなんですか」
「もしかして、雍也先輩もいるんですか?」
弓彦がこう聞くと、三毛が指をある方向へ向けた。そこを見ると、雍也がナンパをしている光景があった。
「こんな時にナンパしてるんですか……」
「本当に懲りない人だよね。あれで今年三年……」
三毛はため息を吐きながらこう言った。
その後、御代たちと合流したアルス達は、持ってきたレジャーシートを下に引き、日の出が昇るのを待っていた。
「弓彦、今何時だ?」
「四時四十分。そろそろだな」
「なんか楽しみですね」
「ああ。いつも見る日の出とは、少し違う気がするな」
アルスはムーンにこう言った。そして、時が流れた。
「日の出だ!」
カメラマンの一人が、大きな声でこう言った。その時、アルスたちはその方向を一転に見つめた。
「おお!」
「すげーなこれ」
アルスや弓彦の目には、日の出がゆっくりと昇っていく光景が焼け付いていた。カメラマンのシャッター音が周囲に鳴り響いている。そんなことを気にせず、アルスたちは日の出を見つめていた。
「いやー、いいもん見れたわー」
と、満足そうに御代がこう言った。
「俺は見れなかったんですけどね……」
ボロボロになった雍也が、体を引きずりながらこう言った。その時だった。
「何だうるさいなー。人が寝てるってのに静かにできないのか?」
近くにあったテントから、ショーミが現れた。
「ゲッ、ショーミ‼」
「おお勇者‼ こんな所で会えるとは奇遇だな! というか会いにきたのか? 我と交わりにきたのか?」
「そんなわけないだろ‼」
「照れるでない照れるでない‼ さぁ、新年一発目のフィーバータイムと行きましょうか‼」
ショーミは着ていた服を脱ぎ、アルスに飛びかかった。
「おい、痴女がいるぞ!」
「正月早々、いいもんが見れた!」
「今のうちにレンズに納めておけ!」
周りにいた変態カメラマンが、痴女というかショーミの動きを追いかけ、カメラで撮影していた。
「撮った写真を何に使うんですかね?」
「考えない方がいいぞ」
バカな光景を見ていた弓彦とムーンはこんな会話をしていた。
「ふははははは‼ 待て勇者‼ 恥ずかしがるでない‼」
「はぁ……新年早々バカ騒ぎを起こして……」
アルスはセイントシャインを呼び出し、装備した。
「初日の出に向けてぶっ飛ばしてやる‼」
「かかってくるがいいというか、我の方から行くぞォォォォォ‼」
ショーミはアルスに抱き着こうとし、飛びかかった。だが、アルスは大きくセイントシャインを振り回し、ショーミに攻撃した。
「ブベラッ‼」
セイントシャインに命中したショーミは、日の出に向かって吹き飛んで行った。
「新年早々、あの変態と会うとはな……」
アルスは額に流れた汗をぬぐい、こう言った。
帰り道。弓彦はあくびをしながら歩いていた。
「新年早々大きなあくびをするな」
「そりゃそうだろ。だって夜中に起きたんだぜ。帰って二度寝しよ」
「私も寝ます。ふぁあ……」
ムーンも目をこすりながらあくびをしていた。そんな二人を見て、アルスは笑っていた。その時、アルスはあることを思い出し、弓彦にこう言った。
「そう言えば忘れてた」
「なんか忘れ物か?」
「違う違う。挨拶だ」
アルスはこう言うと、咳払いをして弓彦にこう言った。
「新年あけましておめでとう。今年もよろしくな」
この言葉を聞き、弓彦は少し照れ臭そうにこう返した。
「ああ。今年もよろしく」
その時だった。世界の声が聞こえたのだ。
「弓彦君……今年もよろしくー。だから……この檻何とかしてー」
世界は魔法で作られた檻の中で、涙を流しながらこう言った。
「あ、やべ。魔法解除するの忘れてた」
アルスは檻の魔法を解除すると、それと同時に世界が弓彦に飛びかかった。
「さぁ、新年一発目のフィーバーと行きましょうか。放置された時からずっと興奮していたの。グフフ、グフフフフフ。さぁ、一緒にイキましょう! 弓彦君‼」
「お前も魔王と同じように発情すんなァァァァァァァァァァ‼」
アルス渾身のツッコミの魔法が、世界に襲い掛かった。攻撃を喰らった世界は、悲鳴を上げながら青い大空へぶっ飛んで行った。
「変態共は相変わらず変態だな‼」
「そりゃそうだもん。だって変態だもの」
ため息を吐きながら、弓彦は心の中で思った。新年早々こんな目にあって疲れたと。
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