第30話 聖夜狂騒曲
雪が空から降り注ぐ。その雪がイルミネーションで彩られている町をもっと美しくさせていた。防寒具を身に着けた人々の笑顔を見て、アルスは不思議に思った。
「周りの人、うきうきした顔をしてるな」
「あー、そうだな」
今、アルスは弓彦と街に出かけている。理由はただの買い物である。クリスマスの存在を知らないアルスは、弓彦の服の裾を引っ張ってこう聞いた。
「何かイベントがあるのか?」
「ああ。この時期になると、クリスマスってのがあるんだよ」
「何だそれは? 卑猥な意味か?」
「そんなわけねーだろ、祭りみたいなものだよ」
「祭りか、この世界は祭りが好きだな」
「ほんと、俺もそう思うよ」
弓彦がそう言うと、アルスは周囲を見回した。
「男女のペアが多いな」
「カップルだろ。イルミネーションをえさにデートをしてるんだろ」
「デートか……では、私も弓彦とデートをしてるってことだろうか」
アルスのこの言葉を聞き、弓彦の顔が真っ赤になった。
「んなわけねーだろ‼ 俺とお前は母さんに頼まれた買い物をしてるだけだよ!」
「そんなにムキにならなくてもいいと思うが」
「とにかく、買い物は終わったし、帰るぞ」
「そうだな」
二人は会話を終え、バス停へ向かった。
数日後、校内の掲示板でこんなものが貼られていた。
生徒会プレゼンツ。校内限定カップリング対抗クリスマス大会。
「御代会長、まーた変なこと考えて……」
弓彦はため息を吐いてこう言った。その横にいたアルスは、はしゃぎ始めた、
「大会か! クリスマスは本当に面白い祭りだな‼」
「いや、御代会長のことだし、何らかのイベントにこぎつけてこんな大会考えたと思う」
「その通りよ!」
二人の後ろに現れた御代が、仁王立ちで説明を始めた。
「せっかくのクリスマス、なんか面白そうなイベントをやらないと皆がつまんないわ。だから私が先陣切ってこう言うイベントを考えたのよ‼」
「許可は得たんですか?」
「もちろん! そうだ、人数合わせで弓彦とアルスも出なさい!」
御代に指さされ、弓彦は困惑した。
「えええ⁉ 俺とアルスが⁉」
「校内で有名な勇者が参加するとしたら、皆が注目するわ‼」
「別の意味で注目されます‼」
「そんなこと知るか! とにかく! 当日ちゃんと出ること、いいわね?」
とまぁ、そんな感じで無理矢理二人は参加することになりました。
家に帰り、アルスはそのことをムーンに話していた。
「ぜッッッッッたいに反対です‼」
「そうか? 面白そうなのに」
「私は面白くありません! せめて、私とお姉様のペアで参加できたらいいんですが」
「異性同士ではないとペアは組めないんだ」
ムーンは頬を膨らませ、弓彦に詰め寄った。
「いいですか? お姉様とペアを組む以上、絶対に勝ちなさい‼」
「おいおい……そんなこと言われたって……」
「もし無理なら、私が裏で工作をします」
「それはダメだムーン。反則負けになる」
「ですが」
ムーンはアルスに近付いた。アルスはよしよしと言いながらムーンの頭をなで、こう告げた。
「いざとなったら魔法を使うさ」
「アルス、それも反則だ」
弓彦はアルスにこう言った。この様子を、隣の家の世界は盗聴器で聞いていた。
てなわけで、イベント当日。イベントに参加するバカップル連中がグラウンドに集まった。人際目立つのが、やはりアルスと弓彦のペアだった。
「おい、勇者がいるぞ」
「あれって一年の子よね」
「居候って話を聞いたよ」
「やっぱり結ばれてたんだ」
そんな声が弓彦の耳に聞こえた。
「うう……やっぱり付き合ってるように見えるか……」
「気にするな弓彦。そろそろ日枝さんの挨拶が始まるぞ」
その後、日枝がお立ち台の上に立ち、挨拶を始めた。
「バカップルのバカの皆さん、本日はこのイベントに集まっていただきありがとうございます」
「最初の挨拶酷くね?」
弓彦は静かにこう言った。
「今回はあなた方の仲の良さを競ってもらいます。いいですか?世の中にはベストパートナーというものが存在します。○羽○と○村○、ハ○テとナ○、キ○トとア○ナ、ロ○ドとコ○ット、エ○ルとマ○タ、クラ○ドとティ○ァ、キ○とラ○ス、シ〇とルナ○リア、な○はとフェ○ト、ヴィ○ィオとアイ○ハ○ト、フー○とリ○ネ、コ○アとチ○などなど!」
「途中から変なカップリングになってるぞ、同性同士になってるぞ!」
「細かいことはいいんだよ!
弓彦のツッコミを無視し、日枝は説明を続行した。
「今から二人三脚を行ってもらいます!ただし、今回はただの二人三脚ではありません。コース上ありとあらゆる場所に障害を設けました!」
コース上を見てみると、平均台や網などの障害物が置いてあった。それを見て、弓彦は小声で運動会かよと呟いた。
「では参加者のバカップル‼ 準備を終えた組からスタートラインに立ってください‼」
その後、弓彦はスタッフから手ぬぐいを渡された。
「手ぬぐいなんてもらってどうするんだ?」
「お前、二人三脚ってやったことあるか?」
弓彦は念のためにと思い、アルスにこう聞いた。
「一応な。クリスルファーにもそういう大会があったぞ。確か、二人一組で行う競争だよな。で、中央の足を縛って走る。二人の息が合わないと先へ進まないめんどくさい競技があったな」
「そうそれだ。今からそれをやる」
「面白そうだな」
会話を終え、弓彦は自分の右足とアルスの左足を手ぬぐいで縛った。
「いいか? 1で外の足、2で内側の足を前に出すぞ」
「あ……ああ。やっぱり結構難しそうだな」
アルスと弓彦は、ぎこちない動きで何とかスタートラインに立った。この動きを見たほかの参加者は、この勝負……貰ったと心の中で思っていた。
「では……始め‼」
日枝が持つ空砲が鳴り響いた。その瞬間、参加者たちは一斉に走り出した。だが、アルスと弓彦は出遅れてしまった。
「あわわわわ……弓彦、ちょっと待ってくれ」
「おわっと! アルス、掛け声に合わせろって言っただろ」
「すまんすまん、少し慌てた」
アルスはこけそうになったが、何とか態勢を整え、弓彦と肩を組んだ。
「注目されてる以上、恥をかきたくないから少し本気出すぞ」
「そうだな。勇者である以上、どんな事にも負けるわけにはいかない!」
その後、二人は息を合わせて走り出した。
その頃、障害物のあるエリアで小さな悲鳴が響いていた。
「ごめんなさいね……」
世界は手にした鈍器で、障害エリアのスタッフの頭を叩いて気絶させていた。
「本当に許せないんです……何で弓彦君が私じゃなくてアルスとこのイチャラブなイベントに参加してるのか分からないんです。ここは私が弓彦君とペアを組む流れでしょう? なのにどうしてアルスと参加してるか分からないんです。だから、アルスをぶちのめして私が弓彦君とペアになるしかないんです……だから、邪魔なスタッフはさっさと眠りなさい!」
そんなことを言いながら、世界が暴れまわっていた。
で、別の方でもスタッフの悲鳴が響いていた。
「お姉様は私のお姉様です……それなのにあの野郎はお姉様といい感じ!」
ムーンが大地魔法で植物を発生し、触手でスタッフを縛っていた。
「や……やめてぇ……その触手でエロ同人みたいなことをするつもりだろ⁉」
「男にそんなことしません‼ そんな気持ち悪いこと、しませんししたくありません‼」
「じゃ……じゃあ離して……さっきから変な液体が服にかかってるんだけど……これって溶ける奴?」
「違います。無害なので気にしないでください。そんな事より……あの男をぶちのめして私とお姉様がペアになるため……頑張らなければ‼」
ムーンも暴れまわっていた。
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