第15話 去りし日の記憶
静かな森の中では三人の人影が激しい攻防を繰り広げていた…
「暗黒魔法・暗園の監獄」
「くっ…裂断魔法・朧月」
広範囲の捕縛魔法が襲い、ヒナタはその魔法を裂断魔法で対応していく…そしてその隙をゼノンが化け物じみた槍捌きでヒナタを攻撃する…
「帝国式槍術・斑突き」
「虎白流・柳返し」
ゼノンが連続の突きをする際に起きる溜めを見極め槍を上空に向かって受け流す…その突きは雲に風穴を開けた
「虎白流・一刀葉月」
ヒナタは、負けじと刀を振り下ろしゼノンに一太刀浴びせようとするものの…
「暗黒魔法・影の狩場」
ギプスが、地面から無数の影の槍で攻撃しゼノンの間合いをカバーする。
(この広範囲の攻撃を可能としているのは、あの強大な魔力…そして何より…)
「帝国式槍術・天牙」
「くっ〜ぅ…」
(この突きの威力…受け流すので手一杯、間合いを詰めようにも…)
「暗黒魔法・黒い誘いの手」
ギプスは、展開した影の狩場からさらに魔法を重ね掛けし、ヒナタがゼノンの間合いに入る前に攻撃魔法を繰り出し逆にゼノンがその隙を狙って間合いを潰す…
(あの、暗黒使いが邪魔をしてくる…どうする…)
「小僧、我々を相手に考え事とはいい度胸だ…帝国式槍術・六門突き!」
「虎白流・藪雨」
ヒナタは、槍の上に刀を被せ連続突きをさせないように槍の内側に入りそのまま刀を滑らせ肩に向かってゼノンの間合いに入り刃を斬りつけた。
「おい、ゼノン!」
「安心せい!掠り傷だ」
「………驚かすんじゃねえよ!」
「しかし…小僧、その刀捌き我々相手に対したものだ…だが自分の身体をよく見てみろ」
ヒナタの身体には沢山の掠り傷ができており、致命傷には至っていないものの傷口からは血がでていた。このままでは、敗北するのは明らかであった…
「見る限り、固有魔法を二つ持っていると見たがその他の八大属性を恐らく使えないのだろう…近接戦闘だけであったのなら、私を含めた騎士団の団長クラスだが、貴様の魔法はあきらかに近接戦闘型だ、勝ち目はないぞ…」
(流石、元帝国の騎士団長強さも洞察力も尋常じゃない…このままじゃあ完全にジリ貧だ…)
「…何故逃げないの…」
「どうしました。レイナさん…」
「…どうみたってあなたの今の抵抗は無駄に等しいわ、あなたがどれだけ強くてもゼノンには勝てない、相手は特級騎士それにまだ全力も見せていない彼にあなたが勝てるはず…」
(…あぁ、レイナさんはゼノンの事をよく知っているから今この瞬間、諦めてしまっているのか…)
「……諦めるって楽ですよね」
「こんな状況で何を言っているの…」
「でも、何だかんだ言いながら結局人は諦めきれない生き物なんですよ」
「………」
「あぁ、駄目かってそう言いながらも進み続ける強さを持っていたり、どんだけ人生に絶望していても立ち上がる事ができたり、誰かに寄り添ってあげることができたり…正直僕は、自分を含めた人間が大嫌いです。でも、そんな姿をみた時に自然と笑顔になれるんです。だから僕も勇気を貰って力強く前進することができるんです…矛盾こそが人を繋ぐ力になると僕は考えています」
「……!」
「今の僕は逃げようとは思いません。背を向けて逃げてしまえば必ずそれを後悔してしまう時がくるとそう思うからです」
レイナは、ヒナタのその真っ直ぐな姿を見て亡くなった姉の姿を思い出す…
「(レイナ…迷いなさい、悩みなさい。そうする事であなただけでなく周りの人が一緒になって成長し、よりいい世界を作る事ができると思うから…私の夢は民が笑って暮らせる世を作ること、その世界をいつかあなたにも見せてあげるわね)」
「姉さん…」
「話は終わりか…私のとっておきの魔法で貴様を屠ってやろう。魔道武装・雷神の槍」
「キヒヒヒッ、俺の腕を奪った事をせいぜいあの世で後悔して死にやがれ…極大魔法・暗転黒竜陣」
ゼノンは、紫色の雷を纏った槍を持ち、ギプスは上空に大魔法を展開しヒナタに攻撃を仕掛ける…
「小僧、あの世で私にこの魔法を使わせた事を誇るがいい…」
(この人は、この森を消し炭にでもするつもりなんですかねぇ…僕も刀がボロボロだし、錬成魔法を使っている暇もなさそうだ)
「死ねぇ〜小僧」
「キヒヒヒッ」
二つの魔法が周囲を吹き飛ばしていく中、ヒナタは一歩づつ前進した…
(ツバキ…)
〜四年前〜
僕は二年もの間、聖国でツバキをひたすら探した…彼女が聖国で癒しの聖女と呼ばれていることを知り聖教会本部に忍び込み、彼女が戦場にいることを知り、聖国の本陣の監視をしていた
「……あれは」
顔に布を巻いた美しい赤い髪の少女が修道服を着て、真っ白な天幕で負傷者の治療にあたっていた。ただ、周りを親衛隊に守られており、今の僕では敵わないとわかり、どさくさに紛れて彼女をどう攫うのかを考え。帝国と聖国の戦争中に連れ去ることに決めた…
(どこだツバキ……どこなんだ)
僕は、両軍が戦っている二年間の間何度も戦場に行きツバキを探した。ヤマトの人間とバレないように錬成魔法で仮面を被り、刀ではなく剣を手に取り戦った。当然、そんな不審な人間を両軍とも味方だと思うはずもなく二つの軍に襲われながら、銃弾の雨に撃たれようが、様々な魔法を身体にうけようがその日のうちに治療し、次の日には戦場に向かい一人で戦い続けた…そんなある日、聖国の本陣の旗を見つけ白馬に跨った赤い髪の少女を見つけた。
「…ツバキ〜!」
僕は、群がる兵を押しのけて必死に叫びながらその場へと走った…到着し、目に写ったのはツバキが聖国の兵に剣で胸を突かれる姿だった…
「……ふ、ふざけるなぁ〜!」
必死に周囲にいる兵を薙ぎ倒し、彼女を抱え本陣の裏にあった森林地帯へと逃げた…
「ツバキ…ツバキ!」
「…その声は、ヒナタ?」
「あぁ、僕だよやっと会えた!」
「…遅いよ」
「ごめん…その前に回復魔法で刺された箇所を治療しないと!」
「…ヒナタ…顔を覆ってる…布をめくってみて」
僕は、そっと彼女の布をめくった…
「…なんですか…どうしたんですか…その目は…」
ヒナタの目に写ったのは目を焼かれ、痛々しい傷跡が残るツバキの顔だった…
「私ね…拉致されたあとどれだけの回復力があるのか目だけじゃなく身体中を切り刻まれたの」
「誰が…そんな事を…」
レイナの現状を見て、ヒナタには言い表せようがない怒りが溢れていた。
「…ねぇ…ヒナタ…マモルはどうしてるの?」
「……元気にしてますよ」
「…相変わらず、嘘ばっかり」
「…何でわかるの?」
「目が見えなくても声でわかるわよ」
「…ごめん」
「そっか…皆死んじゃったか…」
「……これからは僕が守るから…だから一緒に帰ろう…ヤマトへ」
「……無理よ」
「そんな事…」
「…ここまで来たということは、あの戦場の海を越えてきたのでしょう…」
「……」
「…やっぱり…ヒナタのことだから絶対無茶ばっかりして傷だらけになりながら私を探したのよね」
ツバキの言う通り先程無茶をしすぎたせいで今まで受けたの傷口が開き、ツバキを連れ出す際にも沢山の兵士や近衛騎士からの攻撃を受けており、ヒナタの身体は、文字通り傷だらけであった…
「こんな傷、すぐ治るよ…」
「ねぇ…ヒナタ顔に触らせて…」
「うん…」
ヒナタは、仮面を取りツバキの両手をそっと自分の顔に寄せた…するとツバキは、顔を近づけヒナタに口付けをした。
「…!」
(魔力が流れ込んでくる…!)
ヒナタの身体中の傷は塞がり、出血が止まるとともに疲労までも回復していた。
「……何を!」
「…これが私の最初で最後のキス…」
ツバキは、笑いながら僕にそう言った…するとツバキの身体は回復をやめ、大量の血が溢れ出した。
「…そんなの、そんなの駄目だ!」
「ヒナタお願いがあるの…」
「いやだよ、一緒に帰ろうよ…」
「一つは…この戦争を終わらせること…世界中は…今も憎しみであふれてる…みんなが笑って暮らせる世の中をヒナタが作って…」
「……ツバキ」
「二つ目は…貴方が幸せになること…すぐにこっちに来たら…マモルと一緒に…引っ叩いてやるんだから…」
「……ツバキ!」
「三つ目は…私達の魔法を…誰かを助ける為に…使って…」
「………」
「最後に…私を…貴方の手で…弔って欲しいの…」
「……わかったよ」
「ヒナタ…一人にさせてしまうことになってごめんね…私も…もっと三人で一緒にいたかったな…」
「…僕もだよ」
「…こんな傷だらけでごめんなさい…」
「ツバキは…出会った時から綺麗だから…大丈夫だよ」
ツバキは、目を焼かれ涙を流せずにいた…その代わりに僕の涙がツバキの顔に滴り落ちていく…
「私は…この世界が…大嫌い…でも…ヒナタや国のみんなことは大切だから…憎めないの…だから…みんな幸せであってほしいの…」
「……僕が君の代わりにその夢を実現するよ…」
「……ありがとう…ヒナタ…ねぇ…」
「……ん?」
「大好き…………」
ツバキは、笑いながらそう答え…それからツバキは二度と口を開くことはなかった…
僕は仮面を被り直し、ツバキを抱え戦場へと歩いた…その時の気持ちは、友の約束を果たせなかった気持ちと初恋の少女を失った気持ち…様々な感情が入り混じりぐちゃぐちゃになっていた…
「いたぞ!」
「よくも聖女様を…」
そして気づいた時には…聖国の兵士がゲスな笑顔を浮かべながら僕を囲んでいた。
(…そうか…ツバキの暗殺を…こいつらは知っていたのか…本陣の兵士全てが共犯者か……なんの為にツバキが……)
僕の感情を表すように、継承した炎は黒色へと変わり、自然とその名を口にしていた…
「……第一魔法・ゲヘナ…」
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最後まで読んでいただきありがとうございました
誤字や脱字がありましたら教えていただければ幸いです。
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