第14話 開戦②
〜エルミエル共和国では〜
遺跡の調査を終えたゲンジとケイシーは、十一年ぶりのデートを終え、喫茶店で会話を楽しんでいた…
「あ〜、楽しかった…げんちゃんとこうして過ごすのは久しぶりね」
「そうだな…」
「もう、久しぶりの奥さんに会ってもしかして緊張してるの?」
「そ、そんな事はない。ただ…俺は、お前さんにどんな顔をして今過ごせばいいのか分からんだけだ」
「…もしかしてあの時、一緒に共和国に来なかったのを気にしているの?」
「……お前さんと離れて十一年…普通、こんなに待ってくれる嫁さんなんていないだろうて…」
「……あの子がヤマトから旅に出たあと、共和国から学園の学長に就任する事をお願いされ、私はそれを断らなかった…げんちゃんは、ヤマトを捨てきれず残ることを選んだ」
「その時、お前さんは俺が会いに来るのを待っていると言ってくれた…離婚もしないで、ただ待っていてくれた…」
「そうね…でも私は人生を共にするならあなたしかいないとそう思っていたもの、今でもあなたを愛しているわ」
「……お前さんは、歳を重ねるごとにいい女になっていくな…」
「あら、今頃気づいたの?」
「いいや…昔からそう思ってるよ…」
「も、もうげんちゃんったら…」
二人がそんな、話を繰り返し幸せな時間を共有していた…
「全く…あなたは弟子にも、そう素直であればいいのに」
「な、何のことだ…」
「本当は、あの子に人生をもっと楽しんで欲しくて学園に送ったんでしょう…」
「バカ弟子はもっと同世代の人間と関わるべきだ……昔あいつは、元々ヤマトのイチジョウ家に成人を迎えたら仕えると言って張りきっててよ、俺もそれを応援し、最後まで見届けるつもりだった…」
「イチジョウって、あの継承の一族の…でも彼等は…」
「あぁ、何者かの手によって一族全員が殺された…そして、その場にヒナタもいた。あいつは、その後置き手紙を残し二年近くもの間、家から出ていった」
「………手紙にはなんて?」
「ただ一文だけ、「聖国に行ってきます」と…」
「何故、あの子は聖国に?」
「…癒しの聖女を知っているか?」
「えぇ、突如現れた光魔法の使い手で二年半という短い期間で数万の兵士を死ぬほどの傷を負っても元の状態に戻したという聖国の赤髪の花でしょう。それがどうしたの?」
「その、名前は?」
「たしか…カメリア・シャリア…ん?…カメリアってたしかヤマトで椿の花を意味するわよね…まさか!」
「あぁ…ツバキ・イチジョウが聖国の癒しの聖女、彼女は聖国に拉致されていたのだ…」
「じゃあ、イチジョウの御息女は聖国の人間が拉致したということ?」
「それが、聖国はあくまでも彼女をとある人間から購入しただけらしい…」
「では…一体誰が?」
「…わからん」
「でも、彼女は四年前にあの戦いで…」
「あぁ…聖国では黒炎の悪魔が殺したことになっているが…話は全てあいつから聞いた」
「何故あんなに優しそうな子が黒炎の悪魔なんて呼ばれるように…」
「黒炎の悪魔か…あいつが黒炎の悪魔だと…違うあいつは…ヒナタはそんなんじゃあない」
「………」
「ヒナタは、ただの迷子の子供だ…」
「あの子を皇女と同じ部屋にしたのは、何故?」
「あの戦いでは、ヒナタは沢山の兵士を殺し帝国や聖国はあいつを恨む市民が多い…皇女には、ヒナタの内面だけではなく内側も知ってほしいのだ」
「それでも、戦争は殺し合う場所よ…殺らなきゃ殺られる。生きるために殺し合うそんな場所であの子も一生懸命だっただけでしょう…仕方ないわ」
「…あいつは、言っていたよ「戦争だろうと生きる為だったとしても人殺しは所詮人殺しに変わりないんです。奪った命を背負わなければ僕は本物の怪物になってしまいます」だとよ」
「…誰に似たのかしらね」
「そうだな…今のヒナタが黒炎を使用すれば誰も敵うものはいないだろうな…」
「あの子の魔法はそれほどに?」
「魔法…いやあれは呪いに近い…ヒナタの最後の魔法は…」
〜精霊の森 最奥〜
「誰だテメェ…」
「あなた方に名乗る名は残念ながら僕は持っていません。ただ、この場で僕が言えることは…彼女を離せ」
「そのローブからするにレイナ様と同じ学園の生徒であろう。まさか、我々二人を止めに来たと?」
「そうだと言ったらどうしますか?」
「辞めておけ小童…命は無駄にするものではない」
「おいゼノン、何生ぬるい事を言ってやがる…そこのお前もナメんじゃねえぞ俺ら二人は特級の騎士をも殺せるほどの実力者だ、それをただの学生ごときがわざわざ追いかけてきただと?」
目の前にいるギプスという男は完成に怒っている。もう一人のゼノンという槍使いは、僕の出方をみている。そんなところか…
「何故来たの…」
「ん?」
「二人ともあなたが敵うような相手ではないわ…何故来たの…」
「………」
「今すぐこの場から逃げなさい!」
「誰が逃がすかよっ…!」
僕は、一瞬でギプスという男の距離を詰めレイナさんを抱えている反対側の右腕を斬り飛ばし、抱える力をなくした腕から落ちていくレイナさんを抱え元いた場所に戻った。
「ぎゃ〜ぁ〜、腕が俺の腕がぁ〜」
(早い!)
ギプスの腕から血が噴き出し、ゼノンは目の前にいる学生が只者ではないことに気がついた…
「あなた…今何をしたの?」
返り血で汚れたレイナは、何が起きたのか理解できていなかった…
「すみません。レイナさん、血で汚してしまって…あとで弁償します」
僕はレイナさんをそっと降ろし、目の前の二人に対し刀を構えた。
「……小僧…一体何者だ…」
「ただの学園の生徒ですが…何か?」
「…テメェ、よくも俺の腕を…ぶっ殺してやる!」
「落ち着かんか若造…しかし、今の動きでわかった小僧貴様、戦場で戦った経験があるであろう」
「何言ってやがるゼノン、こいつが戦いの経験があるとでも言いてぇのか!」
「…あの動きは間違いない、周囲がよく見えているだけでなく、その冷静さにその身のこなし、とても学生ごときができるような動きではない…どうだ」
「…たしかに僕は戦場に行ったことはありますが、それと今のこの状況になんの関係があると?」
「気をつけろギプス、あの小僧只者ではない…」
「安心しろ、さっきは油断してただけだ…次はないあいつを俺の魔法で串刺しにしてやる!」
「話は終わりですか?」
「…っナメんなぁ〜!」
こうして、ヒナタの戦いの火蓋は切って落とされるのであった…
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字や脱字がありましたら、教えていただければ幸いです。
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