第9話 魔石

 あれから、無事に空港に着いた僕達は飛行機が出発するのに1時間半も余裕があった為、30分間の自由行動を言いわたされていた。


「私は、お土産コーナーをみるつもりだけれどあなたはどうするの?」


「僕は、休憩所で大人しく待つつもりです」


「そう…」


 レイナさんはお土産コーナーへと向かい、僕は休憩スペースにある椅子に座ることにした。


「…何故、学園長がここにいるんですか?」


「やっぱり、気づいていたのね」


 僕は、隣の席に座っているスカーフに身を包んだ老婆に話しかけた。


「直接会うのは、これが初めてね」


「会えたことは嬉しいんですが…たしか今日は学園会議の日では?」


「それなら、シェイプシフターという擬態が得意な精霊に任せてきたわ」


(…あなたは学園の長では?)


「言いたいことはわかるけど、あなたは顔にですぎよ」


「そんなにわかりやすいですか?」


「えぇ、とっても」


「実は色んな人から言われているんですよね…」


「あら、それはとても素敵なことよ」


「そうですか?」


「だって、嘘が下手だということは何よりも純粋な証拠だもの…」


「…ありがとうございます」


 ヒナタは、照れながら学園長に礼を言った。


「さて…今日、ここにいる理由はあなたにお願いがあって来たの」


「そのお願いとは?」


「今、世界各地でイーブルベクターを名乗るテロ組織が活動しているのは知ってる?」


「たしか…魔族を崇拝する犯罪組織のことですよね。数多くの犯罪者が所属していて、騎士団や魔法師団でも手に負えなくなったっていう…」


「えぇ…その幹部の強さは、一等上級騎士から特級騎士以上だと言われているわ」


「その、組織と今回の郊外活動になんの関係があるんですか?」


「これをみてちょうだい」


 学園長が手渡したのは一枚の赤い石が写った写真だった。


「この写真に写っているのはその組織の一人を捕まえた際に手に入れた。紅魔石といった古代文明のアーティファクト一つで実際に五千前の正邪決戦で魔族が使っていたとされている七つある魔法石の一つよ」


「その効果は?」


「全ての魔物を操る事を可能とする能力…」


「…!」


「この魔法石は、大量の魔力が含まれていて一欠片でもその効果を発揮するわ」


「何故、そんな危険なものをテロ組織が持っているんですか!」


「それが、国を挙げて調査を進めているけどわかっていないのよ」


「アーティファクトは、ダンジョンや古代遺跡でしか手に入れる事ができないはず…」


「恐らく…九つある国のどれかが彼等の発掘と調査を支援している可能性が高いわ」


「ダンジョンには、計り知れないをどの資源がありますし、しかもどちらとも地上に生息している魔物より危険なのがうようよいますからね」


「そしてもう一つ…」


「まだ何かあると?」


 もう一枚の写真が手渡され、次は緑色の魔石が写っていた。


「この、魔石の名前は精霊石…」


「まさか…」


「そのまさか、この魔石の効果は精霊を封印して無理やり従わせるという能力よ」


「………最悪だ…」


「お察しの通り、彼等が精霊の森にいる可能性があるということ…」


「それで…僕に何をやれと?」


「あなたには、生徒達を守ってほしいの…あの子達はまだ沢山の未来を秘めている私達にとって宝物のような存在であり、守るべき子供達よ。それにまだ彼等に戦闘は早すぎる」


「…何とかしてみます。他ならぬ学長の頼みですから…」


「ありがとう」


 学園長は、笑顔でそう答えた。


「さてと、私も行くわね」


「どちらに?」


「今日は、げんちゃんがこの国に来る予定なのよ」


「師匠がこの国に?」


「この国の遺跡をあの人と調査するつもりよ」


「師匠は、飛行機代が払えるほどのお金は持っていないはずでは?」


「もしかして聞いていないの?」


「何をですか?」


「げんちゃんは、あなたが学園に来たと同時に朝廷の剣術指南役になったのよ」


「………は?」


「全くあの人は、弟子には何も伝えていないのね」


 ヒナタは、どういった顔をすればいいのかわからなくなっていた。


「…まぁ、久しぶりの夫婦揃って過ごすことができるわけですから、たまにはゆっくりしてみては?」


「そうさせてもらいわ」


「そういえば…」


「どうしたの?」


「何故、帝国の皇女と同部屋にしたか聞いてもいいですか?」


「あぁ、レイナさんのことね」


「彼女を知っているんですか?」


「帝国のパーティーに招かれた際に私から彼女に学園に来るように勧めたもの…」


「そうなんですね」


「あの子は、自分の派閥に嫌気が差していたみたいでね。同部屋を誰にしようか一番迷ったのだけれどちょうどあなたの話をげんちゃんに聞いて白羽の矢が立ったわけ…」


「師匠は、なんと?」


「「あいつは、女に手を出す勇気もない臆病者だから皇女と同部屋になっても大丈夫だろう」と書いてあったわ」


「……僕、残ってもいいですか?」


「あら、会いたくなった?」


「あの人に一太刀浴びせようかと…」


「気持ちはわからなくわないけれど、残念ながら今更郊外活動を取り下げることはできないわ」


「クソ〜!」


 ヒナタは、この時初めてゲンジに怒りの矛先を向けた…


「あら、もう時間だわ」


「…えぇ、師匠によろしくお伝え下さい」


「あなたの事もしっかりと伝えておくわね」


「お願いします」


「それじゃあ、失礼するわね」


 学園長は、幸せそうに師匠のもとへ向かった。


「僕も行こうかな…」


「先程のご老人とは、知り合いなの?」


ヒナタが後ろを振り返ると、レイナが立っていた。


「…レイナさん、一体いつからそこに?」


「ついさっきよ。もうすぐ集合時間だからあなたを呼びに来てあげたのよ」


「あぁ、ありがとうございます」


「それで、さきほどのご老人は誰?」


「昔の知り合いの知り合いです」


「そう…それじゃあ、今その手に持っている二枚の写真を見せてちょうだい」


 ヒナタは、右手に持っている写真を咄嗟にポケットにしまった。


「これは…その…えっと…僕の幼少期の頃の写真なので見せられません」 


「余計に見てみたいわ」


「お願いします、本当に勘弁してください、どうかこの通り…」


 僕は、レイナさんにヤマトの秘伝である土下座をしながらお願いした。周囲にいた他の人達が変なものを見るような目でこちらを見ていた。


「ちょっと、人前でやめてちょうだい…」


「それじゃあ…」


「…わかったわ、聞かないことにしてあげる」


「ありがとうございます!」


「いいから、早く立ってちょうだい!」


 僕は、言われた通り立ち上がった。


「行くわよ。集合時間に遅れるわ」


「わかりました」


 二人は、急いで飛行機の便に向かうのだった…



___________________________________________________


最後まで読んでいただきありがとうございました。


誤字や脱字があった際は、遠慮なく仰っていただければ幸いです。


 本日もありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る