第8話 出発

〜七年前〜


「ちょっと、ヒナタ遅いわよ」


「遅いぞ、ツバキ様を待たせるな」


「二人が早すぎるんだよ!」


 貴族街のすぐ外れにある川沿いに彼岸の花が咲き誇るなか、三人の少年少女が辺に座っていた…


「ツバキ様、やはりヒナタは軟弱者です」


「もうマモル、そんな事言っちゃだめよ」


 薄い赤色の髪をした少年がそういった。


 彼はマモル・タチバナ、少女に仕える分家の同世代の少年である。


「…二人とも、僕みたいな貧民街の子供と遊んでいてもいいんですか?」


「あら、貴方はそんな事を気にしていたの?」


「私達は、そんなくだらないことを気にしてはいない。たまたま名家に生まれただけでお前と同じただの人間なんだ、それにこの日々も悪くない…」


「…マモルは、中々恥ずかいことを言いますね」


「無礼な奴だな…それよりお前こそ、例の師のもとにいなくてよかったのか?」


「……修行を倍やれば許してもらえると思います」


「ヒナタも大変ね…」


「しかし、固有魔法を二つも持っているなんてな、すごい才能じゃないか」


「八属性の魔法は使えないんですけどね…二人は光と炎ですよね?」


「私達は代々力を継承してきた一族だからな、普通の属性魔法とは違うんだ」


 マモルは、そういって手のひらから金色の炎をだした。


「私は、治療がメインでマモルの炎はとても強力な魔法なのよ」


「僕なんて、完全に近接特化の魔法なので正直二人が羨ましいですよ…」


「師の世話になっているみたいだが、この世界では15歳で成人だ。成人を迎えたらどうするつもりだ?」


「…とくに何も考えてはいなかったですね」


「それじゃあ、私に仕えるのはどう?」


「いいんですか?」


「他の誰が何を言おうがツバキ様に逆らえる人間は家臣愚か…ご家族にも存在しない」


(苦労してそうだな…)


「それに、私は友として歓迎するぞ」


「……ありがとうございます」


「それじゃあ、誓いをたてましょう」


「なるほど、たしかにこの時期は彼岸花が咲いているのでちょうどいいですね」


「何故、彼岸花に誓いをたてるのですか?」


「あぁ、ヒナタは知らないのか…このヤマトの国では古くから彼岸の花に誓いを立てる風習が残っているんだ」


「へぇ〜、それはいいですね」


僕達三人は、お互い近づき誓いを立てた。


「私は、全ての民が笑って暮らせる世界をつくるために…」


「私は、イチジョウの最強の炎使いになりみなを守るために…」


「それじゃあ、僕はこの世界で誰よりも強い最強の剣士になるために…」


 僕達は三人で指切りをした…あの時は、少し恥ずかしかったけれど何よりも幸せで、この幸せがずっと続けばいいとそう思っていた…




「おき…おきなさ…起きなさい」


 夢の中で、女性の声が聞こえてきた…


「ん……ツバキ?」


「寝ぼけていないでさっさとそのアホ面をどうにかしなさい」


 目を覚ますと白いワンピース姿のレイナさんが荷物をまとめて僕を待っていた。


「レイナさん、おはようございます」


「早くしないと遅刻するわよ…」


「わかりました」


 あれから一週間が経過し、今日は精霊の契約のために8日間の郊外活動に行く日だ。


「忘れ物は、大丈夫かしら?」


「多分大丈夫です」


「行くわよ」


 僕達二人は、集合場所である広場に向かった。



「は〜い、こっちですよ〜」


 広場に行くとカルナ教授がバスの前で出席を確認していた。


「おはようございます」


「えぇ、おはよう。名前は?」


「ヒナタ・アカツキです」


「レイナ・アルカナ」


「ヒナタくんとレイナさんね…確認しました。乗車してください」


 学園の精霊契約は5組にわかれ行われる。外界の世界にある精霊の森に行かなければ精霊に出会う事はできない。ついでに精霊の森はラトリア王国にあるため、バスで空港まで4時間、飛行機で王国まで18時間と長距離の移動となる。


「さて、全員集まったところで説明させていただきます。本日の参加者は215名の戦闘学部の皆さんが精霊の森へと行きます。必ず集団での行動を心がけるようお願いします。でないと…帰ってこれなくなりますからね」


 精霊の森は常に霧で覆われており、別名迷いの森とも言われるほど例年たくさんの行方不明者をだしている。


「ここから、共和国の空港まで4時間だから、その間にトイレなど済ませておくように、それでは出発します」


 バスが動きだし、最初はみんな緊張していたものの1時間後には皆楽しくお喋りをはじめていた…


「それにしても、相変わらず共和国は栄えているわね…」


「中立国家ですからね。ここ400年はとくに大きな戦争はないみたいですし、人が集まるのも自然だと思います」


「あなたはこの国は初めて?」


「えぇ、共和国の街をみるのも今日が初めてです」


「…ここまでどうやって来たのよ」


「その…馬車で学園まで直接来ました」


「…私の記憶だと王朝から共和国までかなりの距離があったはずだけれど」


「えぇ、学園まで来るのに2ヶ月かかりました」


 レイナさんは、信じられないものを見るような目で僕を見た。


「やっぱり、あなた…かなりの変人よね」


「…僕にも、色々と事情があるんですよ」


(それもこれも師匠のおかげで…それにしても、レイナさんのワンピース姿は目のやり場に困る…)


「今、不快な視線を感じたのは気のせいかしら?」


「えっ、いや僕はけしてレイナさんの身体を見ていたわけでは…」


「…変態」


「うっ…」


レイナさんは、睨みつけるようにこちらを見た。


「あなた、王朝から出たことはあるの?」


「急にどうしたんですか?」


「どうみても長旅に慣れているような感じがあなたからするのよ…」


「わかります?」


「少なくとも、私はそう感じたわ」


「まぁ、昔聖国には一年ほどいたことはあります」


「何をしにいったのかしら?」


「………まぁ、色々と…」


「まぁ、王朝から聖国だと馬車で一週間ほどで着くから観光地としてはちょうどいいかもしれないわね」


「レイナさんは、帝国から出たことはないんですかか?」


「私は、帝宮から出たことはないわ」


「帝宮?」


「…まさかあなた気づいていなかったの?」


「何がですか?」


レイナさんは、呆れたように僕にこう言った…


「…はぁ〜、自分で言うのもなんだけれど私は帝国の第二皇女よ」


「…………ん?」


「呆れた…あなたの頭の中を一度見てみたいものだわ」


「僕…もしかして斬首ですか?」


「私と同部屋ということがお父様に知られたら間違いなく斬首よ…」


「…ま、まぁ、そうじゃないかとは薄々気づいてはいたんですけどね…」


「…あなたって、嘘が下手よね」


(ちくしょう、誰だ部屋割りを決めた奴は!)


「ん?もしかして、このバスの席決めって…」


「同部屋同士が同じ席にいるようね」


「おかしくないですか?」


「私もバスに乗車した際に思ったわ…」


「どうみても、男女別々の席なんですが…」


「どうやら、男女で同じ部屋だというのは私達だけみたいね…」


(それを可能とする人って…まさか)


 ヒナタの頭の中には一人の老婆と師の姿が思い浮かんだ…


(絶対に師匠と学園長の仕業だ…)


「私は、気にしてはいないわ」


「…何故ですか?」


「あなたが変な気を起こすなら、遠慮なくその首を刎ねるか、氷漬けにすればいいだけだもの…」


 ヒナタは、青ざめた顔で外の景色をじっと見つめるのであった…


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最後まで読んでいただきありがとうございました。


誤字や脱字などがありましたら遠慮なく教えていただければ幸いです。













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