二十二話 確かめさせて
父が捕まって、私を部屋で休ませたフレッドは事情聴取されていた。本来なら、私が話すべきなのだろうが、フレッドが警察になんとか言って私が事情聴取されるのは後日になった。私は震えていた。泣いていた。でも、それもフレッドのブランケットの中で落ち着きを取り戻した。脳にアラートが鳴る。これを書き留めろと。作家魂は厄介なものだ。フレッドと出会った時もそう。トラウマのフラッシュバックと恐怖で手が震える。でも、引き出しから万年筆を取り出し、ノートを開いた。そして、さらさらとノートに出来事を書き留めた。
その時、声がした。
「エリーゼ」
フレッドの声だ。私は手を止める。
「入ってもいいかい?」
私は「えぇ」と声を出せばフレッドは扉を開けた。フレッドは私を見るなり安心したように顔を穏やかにした。私に抱きついてきて「何してるんだ?」なんて言うから私は笑って「今日のネタをまとめてるのよ」と言えばフレッドは笑った。「君らしいな」と私の髪をいじるから、私はふと思いついた。
「ねぇ、フレッド」
フレッドは私を見つめる。曇りのない、美しいターコイズ。
「私に触れて」
そう言えばフレッドは顔を赤らめて距離を取った。照れてる。フレッドは遠慮がちに私の髪を私の耳にかけたり、頬を撫でたりした。それにこっちまで恥ずかしくなって言った。
「違うわ」
フレッドは手を止める。その手を握ってフレッドの頬にキスをした。
「抱いてって意味よ」
フレッドはベッドから落ちた。体を痛めてるくせに落ちるから痛そうに小さく悲鳴を上げてる。お尻をさすって私を見上げる。ターコイズは困惑している。それが愛おしい。
あぁ、私すっかり。
フレッドは立ち上がった。そして、私の肩を掴んで言った。
「だめだ。君にそんなことできない」
すっかり父の言葉を得て、私にそういうことをするのはタブーみたいな感じに思っているフレッドにすこし苛ついた。なによ、あの時は私を抱きたいって言った癖に。
「フレッド」
フレッドは私を見る。
「違うわ。貴方となら、愛を確かめられると思ったの。愛し合えると思ったのよ」
まるでロマンス小説ね。酷く甘ったるい言葉に目が回った。フレッドは顔を真っ赤にしてパンク寸前。私はフレッドの頬を指でなぞって笑った。
「可愛い坊やだこと」
フレッドは真っ赤の顔のまま私を睨んだ。そして、ベッドに侵入してきた。
「そう言う君は、随分と初心なレディだな?」
「まぁ、どういう意味?」
フレッドは私の頬を撫でてターコイズいっぱいに私を映した。そこに映る私は顔を真っ赤にしている。私ってば。
フレッドは、私に抱きついてベッドに横になった。そして、優しくキスをした。その温もりが、その包容感が、その接触があまりにも愛おしくて大切で暖かくて、私は泣き出しそうだった。
「ねぇ、フレッド」
フレッドはターコイズを細めている。
「まだ震えてる」
フレッドはターコイズを揺らして私を見る。
「まだ、君は恐れてる?」
何を、とは言わない彼に私は笑った。
「俺は、君が震えてたらいつでも抱きしめるよ」
随分、文学的なことを言うようになったのね。私は、涙を一粒零した。それはフレッドのベストに吸い込まれていく。
「ありがとう」
父の声は、もう聞こえてこなかった。
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