第34話 聖女インフルエンサーに脅迫されてコラボだと!?
「──あんた、いい根性してるわね。私の招待に応えず寝落ちとか」
声が違った。
あの透明な響きじゃない。低くて、現実味のある、素の声。
喉に掠れが混じり、夜更かしした配信者の声だった。
しかもちょっと怒ってる。
「ええええええ?」
(な、なんかキャラが変わった)
(てか、さっきまでのは全部、演出?)
イリスは滑らかな仕草で髪を払う。
金糸みたいな髪が光をはじいて、ふわっと漂った香りまで神聖っぽい。
なのに言ってる内容は、どこか現場の愚痴みたいだった。
「フォローするのがどんだけ大変だったと思ってるの?」
「ええと、フォロー?」
イリスはため息をついて、自分のRankLive端末をスワイプした。
画面には昨夜の配信ログ──鐘が鳴り、神殿が光に包まれ、コメント欄が祈りで埋まっていた。
「あなたの間抜けな寝顔に光エフェクトかけて、神殿の鐘鳴らして、奇跡演出。
導かれし凡神ってタグ、私が手でつけたのよ。
コラボ相手が寝落ちって、プロ意識ゼロにもほどがあるでしょ?」
(間抜けって)
(確かに寝落ちは悪かったけど)
(いや、てか、勝手に呼び出してたのそっちじゃん)
(でも……たぶん、これ言っても通じない気がする)
「……すみませんでした」
イリスは満足げにうなずいて、ドレスの裾を整えた。
光の粒が彼女の動きに合わせて舞い上がる。
その姿はどう見ても聖女だった。
でも、次の一言で全部ぶち壊れた。
「まあいいわ。結果は出たし。再生数、今朝の時点で六十万超えたから」
(言い方が完全に企業広報)
(この人、奇跡を演出って言ったよな……?)
(いや、どの口で導きとか言ってんだ)
「ええと、それで俺になんの用ですか?」
「あなたにとっていい話だと思うけど。コラボしてあげようと思って」
「え、なんで? 俺と??」
「あなたは素人くさいし、ランキングは98位で格下だけど。
私、最近伸び悩んでるの。信者は増えてるのに、熱量が下がってる。
だから――真逆を並べてみようかと思って」
「真逆?」
「完璧と凡庸。光と影。聖と地味。
そういうの、数字動くんじゃないかなって」
(凡庸、影、地味って俺? まぁ、地味だけど)
(……聖女てか、むしろ闇落ちインフルエンサーか)
(煽り神といい、トップランカーてろくなのいないな)
(バージルさんやリナさんは人間できてたけど)
イリスは微笑みながら、一歩近づく。
照明の光が彼女の頬を撫で、金糸の髪がちらりと揺れた。
神々しいというより、狩人みたいな笑顔だった。
「どう? あなた、私と並んでみる気ない?」
一拍。
神殿の空気がやけに澄んで聞こえる。
「ないです」
「……は?」
イリスの笑顔が、音を立てて固まった気がした。
背後のステンドグラスの光まで、一瞬で温度を失う。
何も言わない彼女の目だけが、じわじわと鋭くなる。
「いや、あの、俺は平凡ですし……映えとかもないし……」
(てか、この人とのコラボとか大惨事の予感しかしない)
(俺は平穏に生きたいんだ)
イリスは何も言わなかった。
ただ、じっとこちらを見ていた。
その目が笑ってない。
光を反射する瞳の奥で、わずかに焦げつくような色が動いた気がした。
(……やばい。完全に怒ってる)
(てか、なんで黙るんだ。怖い)
数秒が永遠みたいに長く伸びて、イリスがようやく唇を開いた。
「……そう」
俺が一歩引いた瞬間、イリスは微笑を崩さず端末を掲げた。
画面には「準備完了」の文字。
RankLiveのロゴが淡く輝く。
背景に仕込まれたサムネが一瞬だけ映る。
タイトル:【#光の試練 ― 聖女VS神の裏切り者】
(え、裏切り者!?)
(俺のこと!??)
「ねぇ、ユウマ」
イリスの声はやわらかく、甘い香りに包まれているのに、
その内容は刃物のようだった。
「はいって言えば、コラボ開始」
「……」
「いいえって言えば、あなたは聖女イリスの登録者四万人の敵」
(やめろ、そういう二択はだいたい詰みだ)
イリスはゆっくりと笑った。
その瞳の奥に、光が細く揺れる。
「どっちを選んでも数字は動くのよ。
でも、あなたが導かれることを選んだ方が平和でしょ?」
RankLiveのロゴが、ピコンと点滅した。
まるで返答を待っているかのように。
俺は、乾いた喉を無理やり動かした。
「……Yes。コラボ、します。むしろ、させてください」
イリスが満足げにうなずいた。
***
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転生したら【平凡】スキルで、女神に雑に送り出されたけど、気づいたら異世界トレンド2位になりました(本作)
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