第33話 光が消えたら、化粧がはげた聖女が呼び捨てにしてきた

【RankLive配信画面】

視聴者:1,200人/コメント欄:#呼び出し受けた

[カメラ:ドローン自動追尾/常時配信ON]


(視聴者1,200人?)

(なんか視聴者増えてないか? 昨日の影響か)


 昼過ぎ。

 ギルドで簡単な昼食を食べ終わると、神殿から正式な使いが来た。

「聖女イリス=ノアール様が面会を希望されています」とのこと。


(うう、断りたい……)

(でも断ったらマジで殺されそう)


【コメント】

「逃げて凡神!」

「寝落ちの奇跡・第二幕w」


 断る選択肢はなかった。

 ドローンカメラは自動で追尾モードに切り替わる。


 外に出ると、白い石畳が陽に照らされ、まぶしいほどに光っていた。

 その奥、神殿の扉がゆっくりと開く。


 聖堂の奥、白い光がゆらめいた。

 ステンドグラスを透かして差し込む陽が、

 金の粒になって空気を漂っている。


 その光の中に、女が立っていた。

 白衣の裾が静かに揺れる。

 長い髪は陽を弾いて、まるで一筋の光の滝のようだった。

 指先まで無駄がなく、所作ひとつひとつが絵画みたいに整っている。


 肌は透けるように白い。

 目は淡い蒼。

 けれど、澄んだ水の奥に、どこか濁りのような色が混じっていた。


(……これが、聖女イリス・ノアール)


 ドローンのカメラが自動でズームを切り替える。

 光がレンズをかすめて、画面に虹のようなフレアが走った。


【コメント】

「リアルで光エフェクト出てるぞ」

「まぶしすぎて画面が焼ける」

「これもう宗教PVだろ」


 イリスがゆっくりと振り返る。

 その瞬間、微かな香が風に乗って届いた。

 甘いのに、どこか冷たい。

 まるで聖水に花を浸したような、非現実的な匂い。


「──凡神ユウマ様、ようこそお越しくださいました」


 声は柔らかく、透明で、空気を震わせるように響いた。

 けれどその響きの奥に、わずかな棘があった。

 礼儀よりも、支配に近い何か。


(……凡神って呼ばれた? タイトル扱い?)


【コメント】

「呼ばれたw」

「聖女の声、音響効果かかってない?」

「凡神、もう完全に神扱いで草」


 イリスは、ゆるやかに振り返ると、かすかに微笑んだ。

 その目だけはカメラのレンズを正確に捉えていた。


 「少し……二人で話したいの。配信を止めてもらってもいいかしら?」


 「え? あ、はい」


 俺がドローン端末の録画を切ると、聖堂の照明がふっと落ちた。

 それに合わせて、神殿の光源も順に弱まっていく。

 音楽も消えた。


(え、どういうこと?)

(配信時のみ光と音楽の演出がある仕様なわけ?)


「こういう照明、長く浴びてると頭痛くなるの。

 昨日、三時間ぶっ通しで朝ミサ配信してて……」


 ……音も光も、神々しさも。

 あれほど荘厳だった聖堂が、急に現実に戻った気がした。


 頬の光沢は、光で飛ばされていた化粧の層。

 よく見ると、目の下に薄く隈がある。

 完璧な白肌のはずが、近くで見ると少し荒れていて、粉が浮いていた。


(あ……光でなんか飛ばしてた?)


 鼻筋のハイライトが濃すぎて、むしろ影になっている。

 唇も、配信で見たときよりずっと赤い。

 神聖さじゃなくて――必死に作った神聖っぽさ。


「ユウマ」


「はい?」


(え、呼び捨て?)

(さっきと違くない??)


***


カクヨムコン11に参加しています。

読者選考では、皆さまからいただく「★」が大きな力になりますので、応援いただければうれしいです!


転生したら【平凡】スキルで、女神に雑に送り出されたけど、気づいたら異世界トレンド2位になりました(本作)

https://kakuyomu.jp/works/822139838989360870

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る