第5話 チート能力つけ放題を手に入れた俺の末路
「――また死ぬのか。俺は」
暗闇の中、意識だけが浮いている。体はもう消えている。ああ、これが三回目の「走馬灯タイム」ってやつだ。
毎回思うけど、このシステム、本当に律儀だよな。死ぬ間際に人生を振り返らせるとか、誰得システムなんだよ。
まあいい。映画のエンドロールみたいなもんだよな、暇つぶしだと思って、付き合ってやるか。
俺の三回目の人生は、常にイージーモードだった。
「もしもあの時、AとB、どっちの道を選んでいたら?」
――なんて、後悔はない。俺はどちらを選ぼうが、最終的に大成功する運命を持っていたからだ。
チート能力つけ放題という能力だ。人生スタートの時に自分のキャラを作成するだろ?その時に便利なスキルをいくつか選べるんだ。
このスキルの中でも、ずるいほど便利なのがチートスキルって呼ばれてる。たとえば、無限回復、鑑定、状態異常無効スキル。ちなみに鑑定って言うのは、 敵やアイテムの情報を瞬時に把握できる能力だよ。
チートスキルは超役に立つけど、それだけ貴重なスキルで普通は2つしかつけられない。そもそも、どのスキルがいいとか選べず、ランダムで決まるんだ。
俺は三回目のスタート時、幸運にもチート能力つけ放題を手に入れた。まさかそんなスキルがあったなんて、知らなかったよ。かなりレアじゃん!そして様々なチートを自分にセットした。
この世界の神さま、サンキュー!ありがとね!
他には不死身なんてスキルもあったけど、さすがにこれは俺も遠慮したぜ。だってさ、漫画やアニメの中で『不死身』って大体ろくなことが起こらないよな。
そしてキャラのステータスはルックスに全振りした。これで俺のキャラクターが完成だ。
出来上がった3Dキャラを360℃いや、360度ぐるりと回してチェックする。キラーン!うん、イケメンで背が高くって、ボイスもいい!
【スタート】してよろしいですか?
YES / NO →YES
俺の三回目の人生は、こんな感じで始まった。イージーな人生まっしぐら。俺は転生したばかりの高校生、チェックのズボンにグレーのブレザー。ストライプのネクタイと胸のエンブレムがおしゃれ。しばらくは楽しい学園生活を楽しむ。
やがて、こんな選択肢が訪れる。
A: バンドを組む友人と夢を追って上京、路上ライブなんかやっちゃう。
B: 親の希望した、地元の有名大学の法学部へ進む。
普通の奴なら夜も眠れないほど悩むだろう。だが、俺の場合、Aを選べば路上ライブで大成功、その後スカウト、デビューで一流アーティストになれる未来。Bを選べば若くして政界のトップに立つ未来が確定していた。
だから、AでもBでも、正直どっちでもいい。特にこだわりないしな。
クラスメイトが悩んでいるのを「青春だねぇ」なんて見てる自分。なんか、オヤジ臭くてげんなり。
結局、俺はBの進路、地元の大学を選んだ。理由は特にない。強いて言えば、法学部のキャンパスの方が、近所に美味しいラーメン屋があったからだ。
四月になり大学入学、もちろん試験はチートのおかげで合格。
チート能力名:知識吸収(ブック・イーター)本を食べればその分の知識が吸収される。
高校時代の友人とは別れたが、大学ではチート能力名:コミュ力MAXが突然覚醒、パワーを発揮し、男女の友人に囲まれ、彼女もできた。
結果?二十代で政界の頂点に立ち、その後は世界中を飛び回り、やりたいこと、手に入れたいもの、全てを楽々クリアした。女優と結婚、タワーマンションも、誰もが羨む地位も、すべてが自動的に手に入った。
もちろん周りからは、うらやましがられたよ。
はじめは楽しかった。
けど――何かが物足りないんだ。
妻はいつも優しい、でも、試しに別れてみたらどうだろうか?
違う人とならもっと幸せになれる?
別れる / 別れない
どうせどっちでも、それなりに幸せなのだから、別れないほうが面倒がなくていい。
俺はこの時点でホッとした、よかった不死身スキルをつけなくて。あれをつけていたら、延々この人生が続くわけだ。
今はようやく人生の終わり。目をとじるとおなじみの走馬灯に駆け抜けたチートな人生が流れていく。まるで映画のエンディングロールのように。
「もしも、あの頃に戻ってやり直せるとしたら?」
人生を終えるその瞬間、俺の頭に浮かんだ「もしも」は、人生の分岐点なんかじゃなかった。
「もしもゲームスタートの時、チートつけ放題を選ばなかったら?」
そうだ、これだよ、ああ、ホントに後悔。
あの時これをつけたばかりに。
もしつけなかったら、俺の人生もっと楽しかったんじゃ?ワクワクしたんじゃないかって俺は今、後悔しちゃってる。
「もしもあの時……こうしていたら?」
うーん、小学校六年生の頃、隣りの席のあの子に消しゴム借りたのに、ありがとうを言えないまま、返したことが、ふと頭に浮かぶくらい。髪型がおかっぱで、近所の黒猫に似てる子だった。
消しゴムのお礼をいいそびれたなんて、余りに些細過ぎる後悔。
これが俺の望んだチートつけ放題人生の末路だよ。
あの頃に戻ってやり直したいなんて、情熱的な後悔は何一つ浮かばない。成功のレールの上を走ってきたんだ。まるでさ、親の敷いたレールをそのまま走るみたいにさ。
ただ、あの消しゴムの一件だけが、やけに鮮明なくらいかな。
そして、意識が途切れて――ゲームスタートに戻った。
「……これ、何週目の人生だっけ?次は四周目かぁ、さぁ、リスタートだ。チートはどうする?キャラメイクは?」
チート能力は、この世界をゲームに変えてしまう。選択肢はすべて正解、結果はすべて大成功。
でも、今になって思うんだ。
チートを捨てて、不安の中で、自分で選んで、失敗して、たまに立ち止まって……そんな平凡な人生が、一番スリルがあって、一番楽しかったんじゃないかって。
次の人生では、失敗して思い切り後悔してみたい。あの時、別の道を選んでいたら、と本気で悩んでみたい。
チートなんて全外しして、不完全で、不器用で、ダサい人生がいい。
チートなんかいらない。その方が、きっと面白いから。
【スタート】してよろしいですか?
YES / NO →YES
俺は迷わず、チートなし、キャラメイクお任せでYESを押した。
四周目、行ってきまーす。
※
眩しい教室の光……。ポカポカする窓際の席。窓の外、グラウンドからは体育のダンスの音楽が聞こえる。腹減った気がする。
「あれ?今日の給食、なんだっけ」
給食室からカレーの匂いがする!
ああ、これはゲームじゃない。もちろん、異世界転生でもない世界。
俺だけの俺のリアル人生。
隣の席のおかっぱの女の子が、俺の方をじっと見てる。席替えしたばっかで名前が浮かばないけど。
この間、この子が本屋でゲーム「ライフ・ランド」の攻略本をうれしそうに買ってたの見たんだ。あの本って、一番データが詳しいやつ!その時、なぜか俺は本棚に隠れてこそこそしちゃったんだよなぁ。
こっちを見ていた彼女が小さい声で俺に言った。
「あの……消しゴム、貸してもらえるかな?」
「え?ああ、どうぞ」
なんだ、消しゴムか。き、緊張した……。
俺が消しゴムを差し出すと、彼女は「ありがとう」って、にこって笑った。
えへへだね。
チートなんてない。確定された未来もない。
ただの小学校六年生の、ただの日常。
――次が、俺の本当の人生の、最初の選択だ。
休み時間に
話しかける / 話しかけない
※
エブリスタの超妄想コンテスト応募作です。
でも、これこそ、ノベルアップのSSコンテスト向きだったかも。なんせ児童書SSなので。
ちなみに、エブリスタコンテスト、今日また落ちました。連敗記録更新だ!
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