能力無し? いいえ、隠しスキルで無双します

シロの探検隊

第1話 ──落ちこぼれの召喚者

眩しい光に包まれ、意識が浮き上がる。

 次の瞬間、俺は見知らぬ大広間の中央に立っていた。


 重厚な石造りの壁。高い天井には巨大なシャンデリア。

 そして、俺を取り囲む豪華な衣を纏った人々。


「これ……異世界召喚ってやつ、か?」


 思わず呟く。

 目の前には玉座。その上には白銀の王冠を戴いた中年の男が座っていた。


「異界より来たりし勇者よ! 我が国ファネリアの救済のため、力を貸してほしい!」


 ……やっぱり異世界召喚だ。

 俺の名前は篠崎 蓮(しのざき れん)。二十歳。

 大学へ向かう途中、気づいたら光に飲み込まれていた。


 パニックになる……かと思いきや、驚くほど冷静だった。


(落ち着け。こういうのは最初が肝心だ)


 周囲を観察すると、騎士らしき者、魔法使いらしき者、神官らしき者までいる。

 RPGのキャラ選択画面を思わせる光景だった。


 女王の隣に控えている金髪の少女が一歩前に出た。

 歳は十五、六か。澄んだ翡翠色の瞳が印象的だ。


「私は第一王女、リアナ・ファネリアです。勇者を召喚できたことを、心より感謝いたします」


 丁寧に礼をするリアナ。だが、口調とは裏腹に、目は俺を値踏みしている。


 まあ当然だろう。正体不明の異世界人だ。


「まずは、あなたの力を測らせてください。『鑑定儀式』を行います」


 リアナの声に合わせ、魔法陣が足元に浮かび上がる。

 淡い光が俺の身体を包み、天へと伸びる。


「──鑑定、開始!」


 神官が杖を掲げた瞬間、俺の頭上に真っ白な板が現れ、文字が浮かんだ。


 周囲がざわつく。


「えっ……嘘だろ……」「ありえない……」「まさか……」


 リアナまで言葉を失っている。

 嫌な予感しかしない。


「な、何が書いてあるんだ?」


 問うと、リアナは震える声で読み上げた。


――ステータス――

名:篠崎蓮

職:召喚者

ランク:F

能力:無し


「……は?」


 能力無し?

 しかもFランク?

 最低じゃねぇか。


「おい、勇者じゃねぇのかよ」「こんな奴に何が出来る」「召喚の魔力が無駄だ」


 騎士たちが嘲笑する。

 神官ですら首を振る。


 王が立ち上がり、スッと視線を逸らした。


「……失敗か。下がらせよ」


 失敗?

 下がらせよ?


 はあ? 勝手に召喚しといてそれか!


「待てよ! 俺にも事情が──」


「黙れ!」


 怒号と共に槍が向けられる。

 周囲にいた兵が俺を取り囲み、乱暴に腕を掴んだ。


「くだらぬ無能など必要ない。城から追い出せ」


「追放、ですね」


 リアナの声は冷たく、さっきまでの丁寧さなど欠片もなかった。


 ――追放。


 来て早々これかよ。

 そもそも俺、帰れるのか?


 不安が胸に広がる。



 王城から放り出され、俺は一人、石畳の街を歩いていた。

 懐は空。装備も無し。

 所持しているのは、日本から持ってきたスマホだけ。


(電波……当然、無い)


 だが、画面は動く。

 アプリも開ける。

 バッテリーは満タンのまま、減らない。


「……これ、無限電池か?」


 少しだけ希望が湧いた。

 地図アプリを開こうとした――が、当然地図は無い。

 異世界なんだから当たり前だ。


 だが、謎の通知が表示される。


《召喚者ログインを確認》

《スキル『ゲート』を起動しますか?》


「ゲート?……能力無しじゃなかったのかよ」


 半信半疑で「YES」をタップした。


 次の瞬間、目の前に黒い穴が開いた。


「うわっ!」


 吸い込まれた。



 気がつくと、俺は薄暗い洞窟にいた。

 周囲の岩壁は紫色に脈動しており、どこか生物的だ。


(どこだここ……?)


 足元には魔法陣。

 どうやらゲートは転移魔法らしい。


「とりあえず、出るか……」


 歩き出した矢先、足元の岩がうごめいた。


「ギチ……ギチギチ……!」


 黒い影が飛び出す。


「うわっ、なにあれ!?」


 それは、犬ほどの大きさがある巨大な蜘蛛だった。

 毒々しい赤い目、黒い外殻。

 間違いなくモンスターだ。


(無理無理無理!)


 逃げようとした瞬間、スマホが光った。


《モンスターを検知》

《スキル:召喚 が使用可能です》


「召喚!? 使えるのか!?」


《対象を選択してください》


 スマホの画面にリストが現れる。

 だが、まともなものはほとんど無い。


■スライム(E)

■ウサギ(F)

■黒猫(F)

■骸骨兵(E)


 ……弱そうだが、迷ってる暇はない。


「骸骨兵! 召喚!」


 画面をタップすると、俺の前に紫の霧が立ち込めた。

 その中からボロボロの鎧を纏ったスケルトンが現れる。


「ガァァ……!」


 蜘蛛が吠え、飛びかかる。

 瞬間、スケルトンが剣を構え、斬り払った。


 ガギン!


 甲殻が砕け、蜘蛛は地面に倒れる。

 スケルトンが追撃し、頭部を貫いた。


 蜘蛛は痙攣し、黒い液体を撒き散らして消えた。


「勝った……?」


 スケルトンは俺を振り返り、跪く。


「……マジかよ」


 心臓が高鳴る。

 俺のスキルは、ステータスに表示されなかった隠された能力なのかもしれない。


《召喚者ランクがFからEに上昇しました》


「ランク……上がった!?」


 追放された俺は、知らぬ間に力を得ていた。


(やってやる……この世界で)


 最低ランクから、成り上がってやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る