第15話 VS金狐のロゼリアス
(クオンはともかくとして、他の皆は心配だ。はやくこいつを片付けて助けに行かなきゃ。……――っ!)
研ぎ澄まされた槍のような何かが突き出され、ルフィリオはすんでのところで回避する。
普段は冷静な判断力のあるルフィリオだが、この時ばかりは焦っていた。自身の故郷が襲撃され、妹達が危ない目に遭い、所々で火が上がっているからだ。敵も尋常じゃないほど強力であり、誰が死んでもおかしくない。
早く片を付けて他の者達の援護に行きたいと思っているが、目の前の魔人がそうはさせてくれない。
「よく躱すな。さすがはエルフと言った所か」
何とかしたいルフィリオの心情を嘲笑うかのように、目の前の金髪の魔人は人を馬鹿にした薄ら笑いを浮かべ、余裕な言葉を並べる。
その態度に、ルフィリオは余計に苛立ちを募らせる。
(……感覚にズレがある。何とか回避できるけど……やりづらいな)
エルフの精鋭として勇者一行に推挙されたルフィリオは、高位の魔人と充分渡り合える実力を持つ。しかしそんなルフィリオも攻めあぐねていた。金髪の魔人の“怨嗟”の影響だ。
金髪の魔人、“
ナガミミ大森林に君臨する大妖精の鱗粉と似た能力。それ故にルフィリオはロゼリアスの怨嗟の能力に耐性を持っていた。
だが耐性があるだけで無力化できるわけではない。少しずつではあるが、徐々にルフィリオは感覚を狂わされつつある。
そんな状況にルフィリオは焦りと苛立ちを募らせていた。
(長期戦はダメだ。速攻でカタを付ける……!)
「《
スピード重視の加護で、早期の決着を狙うルフィリオ。しかし焦るが故に冷静な視点を欠いていた。
いけ好かない金髪の魔人、その首元を目がけて風よりも早く駆け抜けて剣を振る……が、頭でイメージした動きと実際の動きがズレる。剣は空をすり抜けて、そのまま勢いよく転倒してしまった。
感覚が狂わされたまま高速移動をするのは、飲酒運転をするような危険行為だ。普段のルフィリオなら気付けたはずであったが、今の彼女は冷静じゃない。
受け身を取ってすぐに立ち上がるが、その簡単な動きすら少しぎこちない。
「くっくっ。まるで子供を相手にしているかのようだな」
苛立つルフィリオとは対照的に、余裕を見せて小ばかにしてくる魔人。自分から攻撃する気もなく、弄ぶ気満々な事を隠そうともしていない。
「……!?」
ルフィリオがギリリと痛々しい音を立てて歯ぎしりをした後に、大きな音が鳴った。マスラオと七冥人オルカリアの戦闘による音である。
ロゼリアスよりもずっと強力な魔人と互角に戦うマスラオの姿を見て、ルフィリオはほんの少し笑みをこぼした。勇者マスラオの大きく逞しい姿は、見るものに勇気を与えてくれる。
ゆっくりと息を吸って、長く息を吐き出す。幼い頃に父に習った方法で平常心を取り戻す。
(相手の魔人は、口調と言い表情と言い……こっちを舐めてくれてる。利用しない手はない。……今切れる最高の手札はこれだ)
「《
剣を地面に突き刺し魔力を込めると、サッカーボールくらいの大きさの土の球が六個浮かんだ。まるで同じ衛星軌道上にあるかのように、ルフィリオの周囲をクルクルと周る。
「ふむ。何かやる気だな? 乗ってやろう」
ロゼリアスは右手で防御魔法を張り、左手で攻撃やけん制用の魔法を使用する。そして最も厄介なのが、鞭のようにしなり、槍のように鋭く穿つ
彼の本領は近距離~中距離戦で発揮される。自身の強みを押し付けるべく、ルフィリオに肉迫した。
「《
魔人の左手から放たれる炎魔法を阻むように、土の球が一つ弾けて宙に丸い土の盾が展開された。
土妖精の加護で作り出される土の球は、主に防御で使われる。土の球が敵の攻撃を感知して、自動で土の盾を展開するのだ。その防御力は、高位の魔人の魔法を防ぐのに十分な強度を持っている。
同時に突き出された尻尾をギリギリで躱し、ルフィリオは後ろに飛んで距離を取る。彼女が再度地面に剣を突き刺して、土の球が一つ補充された。
ロゼリアスは近接戦闘は自分に分があると判断し、どんどんと距離を詰め、積極的に攻撃を仕掛ける。ルフィリオの防御を支えているのは土の球で、その補充をする暇を与えなければ自分が勝つと判断した。
そうして間髪入れず繰り出される攻撃の中、ロゼリアスは防御用で使う右手でも攻撃魔法を使うようになった。ルフィリオは防戦一方で、反撃するそぶりが無いからである。
両手で繰り出される炎魔法、鋭く突き出される狐の尾。土妖精の加護や剣で防ぎ、躱し、相手がより前かがみに攻めてくる時を待つ。
「ハアッ!!」
「ぐっ……!」
心臓を狙った狐の尾の一突きを、何とか宝剣で防ぐ。しかし勢いに押されてルフィリオの剣が弾き飛ばされてしまった。
ロゼリアスはこの時点で勝利を確信した。土妖精の加護の土球は、剣を地面に突き刺す事で補充する――そう認識していたから。剣のないルフィリオの防御手段が尽きると思って、一気に勝負を決めに来た。
――その隙をルフィリオは待っていた。
土妖精の力を借り、土の球を形成するのに剣は必要ない。剣を地面に刺して土の球を補充してたのはブラフだ。
ルフィリオは地に付けた両足に多量の魔力を込めて土球を六つ展開する。
ロゼリアスの攻撃は三つの土の盾が防ぎ切る。そして残った三つの土球の使い道は――。
「《
妖精魔法の使い方には二種類ある。
一つは使用者にバフをかける加護の魔法。そしてもう一つは、妖精の力を解き放つ、攻撃用の怒りの魔法だ。
現在のルフィリオは感覚を狂わされており、正確な狙いで敵を攻撃できない。しかし土妖精の怒りによる攻撃は、ルフィリオの前方百八十度に乱射される、強烈な岩石の散弾であった。
「ぐぶあああッ!?」
下手な鉄砲であったとしてもこれだけの数を撃てば間違いなく当たる。防御を捨てて攻撃をしていたロゼリアスは、近距離で放たれた散弾に成す術もなく身を貫かれた。
(まだだ! 私が倒したと錯覚してるだけかもしれない!)
「《
雷妖精の加護は雷を剣に纏わせ防御を貫く効果があるが、怒りはクオンの
(……どうだ?)
防御用に再度土妖精の加護を展開し、周囲に立ち込めた土煙が静まるのを待つ。
「ふう……中々やるものだ」
「……!」
金髪の魔人は衣類に着いた土埃を払い、忌々しそうな目でルフィリオを睨んだ。
(クソ、あれで倒せないのか……! カウンター狙いはバレた。ならもうダメージ覚悟で攻撃を仕掛けるしかない。死ななければ何とでもなる!)
骨を絶たせて命を断ち切る。その覚悟を決めてルフィリオは雷妖精の加護を纏い、剣を構えた。今度は防御にも意識を回すであろうロゼリアスの、防御魔法を貫く算段である。
「ハアアァァッ!!」
ルフィリオは駆ける。次の一撃で勝負を決めるために。
ロゼリアスもそれを迎え撃つために走り出し、そこにルフィリオの防御不可能の剣が突き刺さる――……。
――そんな幻を、ルフィリオは見せられていた。
防御を捨てた渾身の一撃。攻撃を受けることも覚悟していた……にもかかわらず、敵の攻撃が自分に当たっていない。違和感がルフィリオの脳を駆け巡った。
その思考を遮るかのように、剣を伝って来た液体が、ゆっくりとルフィリオの両手を包んだ。赤い液体が持つ温もりが、彼女の狂いつつある五感を、そして正気を取り戻させる。
「……? ――ッ!!」
そして目線をあげて、自分が剣を突き立てた相手の姿を見て……ルフィリオは生気を失った。
「お、とう……さん……?」
「ル、フィ……リオ……?」
攻撃を向けた相手は間違いなく相対していた魔人のハズであった。しかし実際に目の前にいるのは自身が憧れ、目標にしてきた偉大で優しい父だった。
腹部に刺さっているのが自分の剣で、それを握っているのは他でもない自分。彼女の頭はその現実を受け入れられず真っ白になった。
「はっ、ぅ……。あ、あああ……アアアアアアアァアっ!!」
ルフィリオの慟哭が森を駆けた。
――金狐のロゼリアスの“怨嗟”の能力は相手を夢現に陥れる。そして主だった効果は二つある。
一つは自身を視認している者の五感を狂わせるもの。ロゼリアスを見る時間が長いほどこの効果はより強く作用する。
もう一つは幻覚を見せる狐火。彼の放つ炎魔法を一定以上の時間見続ける事で発動する。これによってルフィリオは一時的に魔人の幻覚を見せられ、父を攻撃してしまったのだ。
当のロゼリアスが土妖精の怒りで重傷を負い、雷妖精の怒りの放電により既に絶命していた事を知らずに……。
☆あとがき(定期)☆
読んでくださってありがとうございます。
♡や☆、コメントなど、執筆の励みになります。
気が向いた時でいいので、これらをくださると幸いです。
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