晩秋

少し明るくなった頃、外に出る

鼻から、昨日とは違う空気が流れ込んできた

「懐かしい」

冬のかおりが

雪とともに暮らした祖父母の家を思い出す


肌でもその気配を感じながら

昨日歩いた、かつての繁華街を歩く

初めてじゃないのに、初めてのような

なのにどこか懐かしい

奇妙な感覚に襲われる


これまで仕事ばかりしてきた

全力で情熱と命の時間をかけてきた

家族、趣味、旅、テレビ、ネット…

何一つ目をくれる気にもならなかった

それが当たり前だった


今、私には何1つない

たったひとつ、大事にしてきたものを奪われ

私自身には何もないことに

この歳になって気づく

余計に情けない


「ここが雪景色になる頃にまた来たい」

珍しい感情が沸き上がる

色鮮やかにそして高貴に装う山々に

小学生の頃のくらしが重なる


自分が大切にしたいものに

今まで気づかなかっただけなのかもしれない


太陽は冷えきっていた街に活力を吹き込む

新しい1日が始まる

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