12 百人中百人目
ゴールデンウィーク八日目、日本、関東上空。
ミライたちは、加古川のプライベートジェットで、明日行われる第二回アカシックレコード検索大会の会場、大阪市民ホールに向かっていた。
「ついに明日が本番ですね、緊張してきました」
「ああ。ミライさん、もう体調は大丈夫なのかい」
「はい、万全です。どんな任務でも任せてください!」
「良かった。じゃあ早速、当日の動きを確認しよう」
そう言って、加古川は作戦の説明を始めた。
「前提として、当選者たちは会場近くのホテルに待機させられて、会場である大阪市民ホールには一人ずつ順番に案内される。僕らのターゲットの中で一番早いのは、百人中五人目、編集長の石原だ。会場近くで待機して、あいつが現れたら僕があらゆる手段を行使して止めることになっている。次は三十六番目の高瀬。これもアスヤ君が単独で止めるということでいいんだよね?」
アスヤはこくりと頷く。
「問題は百人中百人目、一番最後の在本君だ。これまでの二人とは違い、本人を直接止めるわけにはいかない。そこで前言ったように、アカシックレコードで自分の情報を非公開にする方法を検索し、それを実行することで、ミライさんに関する一切の情報を隠蔽する方針でいく」
そこまで言って加古川は言葉を切り、ばつの悪い顔をした。
「それでちょっと謝らないといけないんだけど、どうにかして検索権を手に入れようと当選者に交渉したり、高瀬の様にダークウェブを探ったりしたけどダメだった、ごめん。残されたのは違法な手段だけど、仕方がない。それを実行しよう」
「違法な手段って……?」
ミライはごくりと唾を飲んだ。
「ホールに侵入して会場の電源を落とし、ホール内が騒然となっている隙にアカシックレコードを操作する。これしかない」
「そ、そんなことできるんですか?」
「それは賭けだね。施設の警備は厳重だ。侵入できる抜け道がないかを探してるけど、どうも図面だけでは限界がある。それは現地に行って確かめるしかない。侵入できたとしても、電源を操作できるサーバールームに入るには、その手前の警備員をなんとかしなくちゃいけない。
そこで、ミライさんには迷子のふりをしてもらって警備員をサーバールームから引き離してもらう。その隙に僕が侵入する」
「なるほど」
ミライが頷く。
「そして停電中にアカシックレコードがある大ホールに向かい、操作を完了するという算段だ。アスヤ君にも警護としてついてきてもらいたい」
「よしきた」
アスヤが言う。
ミライは頭を下げて言った。
「私の問題なのに、二人に色々と手伝わせてしまって申し訳ないです。しかも、こんなに危険が伴う作戦を」
加古川は慌てて両手を振った。
「いやいや、いいんだ。検索権を手に入れられなかった僕に責任があるし、そもそも僕らはチームなんだ。できることはやらせてもらうよ。それに、捕まりはしないさ。恐らく電源復旧までに五分以上かかる。非公開の操作を終えてもおつりがくるくらいだ。十分逃げられるさ」
「ああ、俺も隠蔽工作班の一員に加えてもらったんだから、手伝わせてくれよ」
アスヤが笑顔で言う。
ミライは二人の顔を交互に見て言った。
「分かりました。二人とも、明日はよろしくお願いします」
* * *
窓の外の夕陽を、石原は目を細めながら見た。
明日のことを考えると、内から笑いが込み上げてくる。
なんといっても、明日はアカシックレコード検索大会なのだ。計画は前々から練っている。それを実行するだけだ。
スキャンダル記事が出て、絶望している加古川を想像し、石原は下卑た笑みを作った。
* * *
通されたホテルの部屋のベッドに座り、高瀬は一息ついた。
ふと窓の方を見ると、闇夜が広がっていて、少し先に半球状の建物が見える。大阪市民ホールだ。あそこに、あのアカシックレコードがある。そう考えて、高瀬は身震いした。
ついに明日、カミアドの最終回を読むができる。邪魔が入ったとしても、絶対に読んでやる。そして、画像を保存し、そのままそれを世界にばらまいてやる。
高瀬は深呼吸をして、拳を握り締めた。
* * *
同じホテルの別の部屋で、一人の男子中学生がベッドで横になっていた。彼の在本君である。
彼は中々寝つけずに態勢をコロコロと変えた。落ち着こうとしたがどうにも興奮が冷めやらない。
明日、色々なことが明らかになるのだ。
宇宙人が存在するのかどうか。
邪馬台国はどこにあったのか。
そして――。
彼はあるクラスメイトのことを思い浮かべる。
きっと、上手くいくだろう。そう信じて今日は眠ろう。
彼はゆっくりと目を閉じた。
日付が変わろうとしていた。ついに、第二回アカシックレコード検索大会が幕を開ける――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます