第24話 ばあばの訪問ラッシュ ― 七色の小鬼たち、はじめての節分
朝の光はまだ冬特有の冷たさを宿していたが、家の中だけは春のように明るかった。
節分――七つ子にとって、そして莉緒と瑛士にとっても初めて迎える大切な行事の日。
まだ生後2カ月の子たちが鬼のお面をかぶれるはずもない。
しかし莉緒の母・美沙子が色とりどりの布で手作りした「小鬼衣装」が、この日の主役になる予定だった。
しかも――七つの洋服は、それぞれのメンバーカラーで誰のものか一目でわかるように作られている。
陽日は赤の小鬼。
海聖は青の小鬼。
美結は黄色、
紬生は緑、
奏良はオレンジ、
椿希は水色、
氷華は白い小鬼。
七色の鬼が部屋に並んだら、絶対に可愛いに決まっている。
それだけで親が倒れそうだ。
***
◆ 朝の支度 ― 七人の「変身」
「さぁ、みんな。今日は節分だよ〜。ちょっとだけ鬼さんに変身しようね」
莉緒は声を弾ませながらも、1人ずつ丁寧に衣装に着替えさせていく。
まだ首が完全に座っていない赤ちゃんたちだから、動きは慎重そのものだ。
最初は陽日。
赤いフードをそっと頭にかぶせると、陽日はぱちりと目を開けた。
「……あっ」
「ね、かわいいでしょ? 陽日は赤が一番似合うね」
隣で見ていた瑛士は、すでにデレデレだった。
「待って……莉緒……写真……いや動画……いや両方……!」
「落ち着いて、瑛士。まだあと六人いるよ?」
「無理だ。可愛すぎて心臓が何回あっても足りない」
瑛士のデレモードは完全に犬の尻尾を振っている幻が見えるほど。
莉緒は苦笑しながら海聖の青鬼衣装に取りかかった。
フードをかぶせると、海聖はすやすや眠ったまま微動だにしない。
「ねぇ見て瑛士……青い小鬼が寝てる……」
「う……天使……いや天使より可愛い……いや妖精……いや……語彙力なくなる……」
続いて美結の黄色、紬生の緑、奏良のオレンジ、椿希の水色、そして氷華の白を着せていく。
七色が整列した瞬間――
瑛士は完全に崩れ落ちた。
「莉緒……俺……今日死ぬかもしれない……可愛すぎて……」
「死んじゃダメ! 授乳もミルクも、七人のケアもパパが必要なんだから!」
「頑張る……七人のためなら頑張る……」
***
◆ ばあば、到着
きっちり午前10時。
インターホンの音とともに、莉緒の母・美沙子の明るい声が響いた。
『莉緒ー! 来たわよーっ! 開けるわよー!』
「……あ、来た。ばあばのテンションがいつもより高い」
「可愛い孫×7だからね……」
玄関が勢いよく開き、美沙子が飛び込んでくる。
「どこ!? 七色の小鬼どこ!? 早く見せなさい!!」
「お、お母さん落ち着いて……」
しかし止まらない。
美沙子は七色の小鬼たちを見た瞬間、涙をぽろぽろ流した。
「かわぁ……っ!!! 七人とも似合ってる!! ひゃぁああ!!」
「お母さん、声! 声大きいよ!」
「ごめん、でも無理……こんなの見せられたら大声出るわ……! うちの孫が世界一よ……!」
興奮のあまり写真を連写し続ける美沙子。
その後ろから、莉緒の父・誠一がゆっくりと入ってきた。
「お、おばあちゃん暴走しすぎだろう……」
「……誠一さん、今日は無理よ。可愛い小鬼が七人もいるんだから」
「まぁ……確かに……これは……すごいな」
誠一はカメラを取り出し、娘と孫たちを見て穏やかに微笑んだ。
「莉緒、よく頑張ったな。こんなに可愛い七人を……誇りだよ」
その声に莉緒が胸を熱くする。
七人を抱えながらの妊娠・出産は、命がけだった。
両親の言葉が心に染みる。
***
◆ 写真撮影会、開幕
「じゃあ撮るわよ! 莉緒、瑛士くんもそこに座って!」
美沙子はまるでプロカメラマン。
七人を一列に並べ、色の配置まできっちり調整する。
「赤は中央、青は左、美結の黄色は明るいから右側……氷華は白だから背景と重なるわね……」
「お母さん……本当にもう……」
「はい撮るよー! 小鬼さーん、こっち〜!」
アー
ウー
七人それぞれ違う声をあげながら、手足をばたつかせる。
「陽日くんは足が元気ねぇ! 海聖くんは寝たまま動かないのねぇ! あら美結ちゃん笑った!?」
スマホのシャッター音が止まらない。
「莉緒、これ……アルバム何冊いるんだろうな……?」
「考えないようにしておこう……」
***
◆ はじめての「アー」「ウー」――そして瑛士の陰謀
撮影がひと段落すると、父・誠一が氷華を抱っこした。
氷華は白い小鬼の衣装が一番似合う子だった。
「ほぉ……氷華は落ち着いてるなぁ……」
「アー」
「おお、声出たな。かわいいなぁ……」
莉緒は嬉しそうに眺めた。
一方、瑛士はというと――
陽日を抱っこしながら耳元でずっと囁いている。
「パパ……パパ……パパ……最初の言葉はパパ……ほら言ってごらん……パパ……」
莉緒が呆れた。
「瑛士、何してるの?」
「刷り込みだよ」
「ええぇぇ……」
美沙子も笑いながらツッコむ。
「いいじゃない、年頃の男の人がそんな顔でパパやってるの、珍しいわよ! 微笑ましいわ〜」
「お母さん、違うんです。これはもう
「パパ……パ……パ……言って……陽日……」
「無理だから!」
陽日はケラケラ笑うだけ。
七色の小鬼はまだ言葉を覚えるのに時間がかかりそうだ。
***
◆ 豆まきはできないけれど
「節分っていったら豆まきだけど……七人抱えて豆は危ないよね?」
「そうだね、まだ誤飲しちゃうし……」
「だからね!」
美沙子がバッグから取り出したのは、
特大の紙工作鬼お面と
カラーボールの豆(大サイズ)。
「さすがお母さん……! 気が利く!!」
「でしょ!」
紙の鬼にボールを投げるだけでも節分気分は味わえる。
「莉緒、やってみよう」
七人をリビングのベビーソファに並べ、
両親と美佐子、瑛士が並んでボールを投げる。
ぽすっ
ぽふっ
当たるたびに七つ子たちはアーウーと声を出して笑う。
どうやら楽しんでいるようだった。
「かわ……天使……」
また瑛士が溶けた。
***
◆ 夕方 ― ばあばたちの帰宅
「じゃあ私たち、そろそろ帰るわね。ご飯の用意もしなきゃいけないし」
「今日は来てくれてありがとう、お母さん、お父さん」
「当たり前でしょ。七人の成長、毎回見に来るわよ!」
美沙子は七人にキスをして、去っていく。
誠一も優しく頭を撫でてくれた。
ドアが閉まると、家は再び静かになった。
***
◆ 夜 ― 二人だけの静かな時間
「莉緒」
「なに?」
「今日、俺……また死ぬほど幸せだった」
「……わたしもだよ」
瑛士は莉緒の頭にそっと手を置く。
優しい犬のような眼差し。
「七人が笑ってるだけで……なんか……全部救われる気がするな」
「うん。うちの子たち、本当に可愛いね」
「それと……パパって言わせる作戦……諦めてないから」
「まだ言ってるの!?」
二人は笑い合う。
七色の小鬼たちはベビーベッドで並んで眠っている。
家族の未来はまだまだ大変で、まだまだ幸せで、まだまだ始まったばかり。
瑛士はそっと氷華の白いフードを直しながら、小さな声で囁いた。
「みんなの成長、全部見守るからな……莉緒と一緒に」
七色の鬼たちが静かに眠る夜。
節分の1日は、温かい家族の思い出となって刻まれた。
【次回第25話】
赤ちゃん初注射で、ギャン泣き大騒ぎ。
お母さん、お父さんヘトヘトです。
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