第9話 電車の揺れと、白い紙カップ

電車の揺れが、いつもより穏やかに感じた。

つり革を握りながら、ぼんやりと窓の外を見る。

ガラス越しに流れていく街並みは、いつもと変わらない。


駅を3つ過ぎる頃、隣のサラリーマンがあくびをした。

そのリズムに釣られて、自分も口を開けそうになる。


ポケットの中でスマホが震えた。

メッセージアプリの通知を確認して、「ああ、今日だったか」と小さく呟く。


会社に着くと、LED照明の下、パソコンの起動音がいつもの朝を告げる。

誰かの「おはようございます」が遠くに聞こえた。


コーヒーメーカーのスイッチを押すと、昨日よりも早く湯気が立ち上がった。

その小さな“違い”を気に留めるほど、彼は繊細ではない。


「おはようございます、田島さん。」


振り向くと、さとみがマグを手に立っていた。

派遣社員とはいえ、仕事の手際は社内でも一、二を争う。

気がつくし、誰にでも柔らかく笑う。

お嬢様育ち、という噂もあるが、本人は何も言わない。


「おはよう。今日も早いね」


「田島さんが遅いんですよ」


そう言って笑う声は、LEDの光よりも明るかった。


時々、昼休みに一緒にランチへ行く、そんな仲。

彼女の話題はいつも軽やかで、聞いているだけで時間が早く過ぎる。

ただ、今日はいつもより少し静かに感じた。


モニターに新しいメール通知が届く。


——件名:「システム開発部 新規案件の打ち合わせについて」


コーヒーを一口飲み、

「また忙しくなりそうだな」

マグの中のコーヒーが少しだけ冷めていた。


そのすぐ後ろで、北川がスマホを取り出す。

ロック画面には、———見覚えのある特徴的な白い紙カップ。



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読者さま、いつも応援ありがとうございます!


淡々と進んでいますが、この先物語は激しく進んでいきます。


楽しんで読んでいただけるよう、より磨きをかけてまいりますので、温かい目で見守っていただけると嬉しいです!

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