第4話

 視察から戻ると、両親は王都に立っていて、自邸に彼らの姿はなかった。今年も逃げ切った。私は小さくガッツポーズをした。それから二人で治水事業の立案を考えた。考えたと言っても私はお茶を飲みながら、前世の知識をモーリスに伝えただけだ。


「素晴らしい案だね。プリシラ様。」


「誰でも思いつくことです。」


「きっと公爵閣下も喜んで下さると思いますよ。」


「――今年も娘を社交に連れていけなかったことを、今頃残念がっているわよ。」


「そういえば、プリシラ様は婚約や結婚についてどう思っておられます?率直に教えてください。」


 モーリスが明るい青色の私の瞳をじっと見つめる。


「率直って、そりゃ貴族の義務だということくらい私だって分かっているわよ。」


「では、どうしてどんな令息が来ても興味を示さないのですか?」


「だって面白くないんだもん。私の理想は怠惰な生活の継続。公爵を引き継いであれをしたいこれをしたい、あなたと愛し合って幸せな家庭を築きたい、とか。どれも興味がないの。」


「なるほど。怠惰な生活の継続ですか。プリシラ様らしいですね。」


「ええ、そうよ。できれば結婚なんてしないで、領内の小さな屋敷をもらって、朝から晩まで引きこもっていたいわ。」


「――じゃあ、僕と婚約しません?」


「はあ?!」


「悪い話じゃないと思うんですよ。私は、プリシラ様のその性格をよく存じています。だから、あなたが今のようなことを言っても、幻滅しません。それに、ご両親のように無理に社交に付き合わせることもありませんし、あなたに愛を求めることもありません。もちろん、プリシラ様がこの家の嫡子なので跡継ぎ作りには協力していただかないといけませんが、あなたが自由な時間をとれるように乳母や教育係はたくさん用意します。」


「いきなり言われても……。」


「いきなり公爵閣下が素性の分からない人間を連れてくる方が、人見知りのあなたは困るのではありませんか?幸い、私のことを閣下はそれなりに気に入って下さっています。私たちが婚約したいと言えば喜んでくださると思います。」


 条件を反芻する。今まで考えたことがなかったけど、彼はゲームと違って『書生』。義兄ではない。こんな理想的な結婚の条件はなかなかないと思った。


「そ、そうね。――あの不毛なお茶会から解放されるのは魅力的ではあるわ。」


「では、交渉成立ということでよろしいでしょうか?プリシラ様。」


「ええ。」


 社交シーズンが終わってしばらくすると、両親が領に戻ってきた。もちろん釣書を何枚も携えて。モーリスはすぐに治水事業の立案と、私との婚約を願い出た。両親は驚いた様子だったが、「プリシラが望むなら」と最後には納得してくれた。

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