第3話

 モーリスが来てから、たまにそうやって私の時間が奪われることはあったが、引きこもり生活に大きな変化はなかった。両親は私を溺愛していたが、この引きこもり生活のことはよく思っていなかった。前世の両親より口うるさく、社交の場に連れ出そうとするので、本当に嫌だった。


「プリシラ!!今年こそ王都に行くわよ。社交シーズンなんだから、お友達を作らないと。もう引きこもりはやめて頂戴!」


「いいえ、行きたくないわ。令嬢同士の会話ほど、退屈なものってないもの。」


「どうして、あなたはそうなの?小さい頃は他のご令嬢とも遊んでいたじゃない?」


「え、だって。嫌なものは嫌なんだもん。」


「――奥様、お取込中のところよろしいですか?バイブリーの街で先日起きた水害の視察に行こうと思うのですが。」


 モーリスが母娘の会話に割り込んできた。


「あら、モーリス。主人から聞いているわよ。どうしても今日、私たちは王都に行かなくちゃいけなくてね。助かるわ。ありがとう。」


「ご相談ですが、プリシラ様もお連れしてもよろしいでしょうか?きっと領民も嫡子のプリシラ様が支援物資をお届けになれば、喜ぶと思うんです。」


「そうね。確かに領内の政治は大切よ。でも、この子は……。」


「お母様!私、バイブリーに行ってきます。」


 助かった。令嬢たちの腹探り合いよりは、バイブリーで慈善活動として食べ物を配った方がましだ。


「じゃあ、決まりですね。プリシラ様、準備をしましょう。」


 モーリスから、バイブリーの街について説明を受けた。二人で地図を覗き込みながら、地形、歴史、風習――モーリスは私でも分かるようにかみ砕いて説明してくれた。


「なるほど、それで水害が起こりやすいんですね。」


「ああ、それでプリシラ様はどうしたらいいと思う?」


「治水。この川をまっすぐにして、周りを土で囲めばいいんじゃないかしら?そして、この辺の農村には水路を設け、水を届ける。」


「素晴らしい案だね。今回の被災地視察が終わったら、公爵閣下に進言しよう。他領の治水についても、例をあげた方が良いと思う。プリシラ様も一緒に調べてくれる?」


「ええ。そのくらいのことでしたら。」


 ああ。前世の記憶をもとにうっかり賢いことを答えてしまった。たまにモーリスはこうやって私を試すような質問しかけてくる。気を付けていたのに。


 それから、持参する食料品も一緒に考えた。食料は被災地でも食べやすいものがいいということで、押し麦と干し肉を選んだ。


「じゃあ、行こうか。プリシラ様。」


 私は基本外出はしないのだが、稀にどこかに出かける時は、必ずモーリスのエスコートだ。彼にエスコートされるのもすっかり板についた。


 被害の状況や被災民の話は予めモーリスから聞いていたので、初めて会う人間たちだけど、上手く話すことができた。それに皆、「プリシラ様が来てくださった」「ありがとうございます!」と大袈裟に騒ぐので、悪い気分はしなかった。前世から人見知りが激しい私としては大きな成長だ。ただ、モーリスのことを私の婚約者と勘違いする者がいて少し困惑してしまった。

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