じわじわと進めてみる

 とりあえずザーギ村のロルフさんがどういう経験をしたのかを、細かく聞いてみることにした。

 今は馬車に揺られるだけで、基本的に暇だからね。


 毛皮のコートに毛皮の帽子と防寒対策もばっちりなので寒くはないけれど、体温を上げるためにも話し続けることは決して無駄でも無いし。

 だからこそゲルトおじさんも話に付き合ってくれるのだろう。


 やはり、このタイミングで話を切り出したことは正解だったようだ。


 ゲルトおじさんの話だと、ロルフさんが語ってくれた失敗談は、ロルフさんの段階ですでに伝聞状態だったようだ。


 熊に寝床を提供する、という作戦が行われたのは十年以上前の話で、実行者もロルフさんではない。

 十年程前にザーギ村全体でやってみた、という感じらしい。


 十年前のことなので、当然ターゲットは現在の巨大熊ではない。


 で、その寝床に誘い込む為かどうかまでははっきりしなかったけど、とにかく寝床に用意しておいた食料に関しては毒草を仕込んでおいたらしい。


「けど、それがばれたんだろうな。熊は用意した寝床に近付きはしたものの、結局そこで冬眠はしなかったみたいでな」

「餌を取られただけ? 毒草は捨てて?」

「それはそれで、大人しくどこかで冬眠したきっかけにはなったんだろうけど……」


 結局、人間の畑を襲う事を覚えたその熊を退治できたのは、翌年になってからの事らしい。それも結構な被害がでたとのこと。


 中々、ヤクい話ではある。


 しかし、私の考える「悪巧み」は毒殺ではない。

 そもそも毒殺という考え方は子供らしくない……子供が毒殺を繰り返す推理小説読んだことあるけども!


 ――というわけで、まずは毒殺を否定する。


「じゃあ……冬眠するための寝床を用意するだけか?」

「そうですよ。ザーギ村は大変でしたけど、今なら兵士の皆さんが戦ってくれるわけですから。いる場所がはっきりわかれば、戦いやすいんですよね?」


 ゲルトおじさんの表情が引き締まる。

 兵士だった頃の感覚が甦ったのだろう。


 好きなポイントに敵を誘い込めて、さらに今はカルト卿という打撃力がある。

 打撃力に関しては魔法が使えるという前提だけど、使えない場合でも、この計画を即座に却下するまでの判断は下せないはずだ。


 そういった逡巡に、私はそっと「悪巧み」を差し込む。


「それに加えて、寝床をあっためたら良いと思うんですよ」

「……それは、どういう事だ」

「何となく暖かいで良いと思うんですけど、それでも熊はその場所を選ぶんじゃないかと思うんです。おまけに餌まであるとなれば――」


 そういった環境を人間に当てはめて想像して欲しい。

 そんな寝床に逆らえる生き物はいないと理解できるだろう。ましてや冬の話だ。


「……ちょっと考えてみるか」


 うん、まぁ、私が今言った方法って「冬眠させる」とは逆なんだけど。暖かくしたら「冬眠」にはならないからね。

 でも。これで納得してくれれば「悪巧み」も仕込みやすい。


 ――とは言っても、まだまだ第一段階。

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