誰に対しての「悪巧み」なのか
「ジョーよう。それはうまくいかねぇと思うぜ」
とは、私のアイデア――というか「悪巧み」を聞かされたゲルトおじさんの第一声である。
巨大熊に対する備えは出来たものの、今だ問題は解決せずに、そろそろ雪が積もり始めるころだ。
今はレルの同行も拒否できるようになっている。
何しろ各村への伝達と、狼煙の準備はとっくに終わっているからね。《聖女》二人が並んで村を訪れる必要は無くなっているわけで。
各村の協力が想定以上にスムーズだったことも、レルの同行を拒否できる理由でもある。
やっぱりこの地方の《聖女》が揃っていたことが大きかったんだろう。
そういう意味では、功労者のレルを拒否するのは心苦しいものがあったのだけれど、それだけレルを大事していると思ってもらいたいところだ。
何しろ私と言えば、ここ最近ゲルトおじさんの馬車にずっと乗って、あっちへこっちへと移動しまくる毎日なのだから。
時には泊りにもなるので、レルでは中々それには付き合えないだろう。
村全体が家族みたいなハラー村であれば、ゲルトおじさんが一緒で安心できるけれど、ロート村のレルにとってはねぇ。
レルが良くても、ご両親は心配すると思うし。
さらに私の「悪巧み」が本格化するなら、さらに各村への移動が頻繁になるだろう。
移動の時にロート村を通ることになるので、レルとは変わらず会うことになる。だから、そこまでハブにした雰囲気にはならないだろうし。
それで私は今、久しぶりにハラー村に帰るところだ。
その道すがら、ゲルトおじさんに「悪巧み」のアイデアを披露したというわけ。
まぁ、最初は拒否されるだろうと覚悟を決めていたので、これぐらいは想定内。
まずは「うまくいかない」理由を聞いてみよう。
「考え方は良いと思うよ。ただそれ、ザーギのロルフがやったことあるらしくて」
ロルフさんというのは、ザーギ村の猟師で村の顔役でもある。要するにゲルトおじさんと似たようなポジションということだ。
「やったことがある? それでどうなりました?」
それを聞いて、私は弾んだ声を出してしまった。
それは間違いなく朗報だからだ。
「だから上手く行かなかったらしいんだよ。つまりあれだろ? 毒を仕込むとかそうい考え方じゃないのかい?」
そしてゲルトおじさんの説明は想定内だった。
私の「悪巧み」は、
――「冬眠に備えた熊に、それにふさわしい寝床を提供して、その寝床に熊を誘い込んで仕留める」
という計画のように聞こえただろう。
実際、そういう風に聞こえるように切り出したから、これもまた狙い通り。
けれどそれは、違う。
ゲルトおじさんどころか誰にも本当のところは説明しないけどね。
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