お姉ちゃんと釣り竿と羞恥プレイ


(朝の木漏れ日。鳥の声が聞こえる)


リリサ「ティナー、起きなさーい!」


ティナ「……ふがっ。もう朝……?」


(寝ぼけながら鏡を見る)


ティナ「(やっぱり……夢じゃなかったんだ……)」

(鏡の中には昨日と同じ、美少女の姿)


リリサ「まずは顔洗って、歯を磨いてらっしゃい。そのあと朝ごはんね。」


ティナ「はーい……(完全に母親ムーブだなこの人)」


――数分後、朝食後のリビング。


リリサ「じゃあ今日はこれ着て。昨日言った通り、ご近所さんへの挨拶と街の案内をするから。」

(差し出されたのは、淡いパステルイエローのフリフリワンピース)


ティナ「え!? またワンピース!? ズボンとかないの!?」


リリサ「似合ってるんだからいいじゃない。」


ティナ「そういう問題じゃなくて!!この格好で人前は……その、さすがに……恥ずかしいっていうか!」


リリサ「大丈夫。自分が気にしてるほど、他人は興味ないわ。」


ティナ「だからぁ!!そういう問題じゃないんだって!!……はぁ……」

(諦めの深いため息)


リリサ「じゃあ行きましょうか。まずはお隣のホビットのおじいちゃんとおばあちゃんの家ね。……あ、そうそう、大事なこと言い忘れてたわ。」


ティナ「?」


リリサ「くれぐれも“転生した”ことは秘密にしておくように。もしバレてしまったら……」


ティナ「しまったら……?」


リリサ「あなたも私も――打首ね。」


ティナ「はあぁあ!?!? なんで!?!?」


リリサ「転生魔法は違法だからね。だからバレないように。ちゃんと中身も女の子のフリしてね。」


ティナ「なんでそんな危険なことしてんの!?!」


リリサ「なんでって……一人は退屈だし、何より妹がずっと欲しかったのよ。

 可愛い服を着させて、髪をアレンジして、『可愛い!』って遊びたかったの。」


(沈黙)


ティナ「……」


ティナ「(この人……やばい人だ……下手に逆らったらアカン……)」



---


――しばらくして。湖畔沿いの道を歩く二人。


リリサ「わかった? ちゃんと“女の子して”ね?」


ティナ「(俺だってだてに三十年以上生きてきたわけじゃない。

フリくらい余裕でできるわ!)」


ティナ「任しとき!」


――ホビット夫妻の家の前。藁葺き屋根の昔ながらの日本家屋の様な家。


ホビットおばあちゃん「あら、リリサちゃんいらっしゃい。」


リリサ「こんにちは、おばあちゃん。今日はちょっと挨拶に。

 ティナという子なんですけど、私の遠い親戚で。しばらくうちで預かることになったんです。」


(リリサの影から、ひょっこり顔を出すティナ)


ティナ「(女の子のフリ……女の子のフリ……)」


ティナ「こ、こんにちは! ですわっ!」


(リリサ、吹く)


リリサ「ブッ!!……ご、ごめんなさい、この子ちょっと人見知りで……!」

(肩を震わせながらティナを肘で小突く)


ホビットおばあちゃん「あらあら、めんこい子だねぇ。立ち話もなんだからお上がり。」


リリサ「ありがとうございます。でも今日は買い物もあるので、また今度伺いますね。」


(おばあちゃんに見送られ、家を離れる二人)


ティナ「……“ですわ”はダメか……」


リリサ「うん、致命的に似合わないわね。」


ティナ「うるせぇ!!」


(リリサ、くすくす笑う。ティナ、顔を真っ赤にしながら歩く)



---


(石畳の通り。朝の市場は人で賑わい、香ばしい焼きパンの匂いが漂う)


ティナ「ほぇ〜、アニメとか漫画で見たような街並みだー!」

(レンガ造りの家々、並ぶ屋台。目を輝かせるティナ)


リリサ「迷子にならないようにね。ちゃんと着いてきて。」


ティナ「はーい……

(観光テンションで完全に子供扱いされてる気がする……)」


---


(町役場)


(リリサが手続きを済ませ、名刺サイズのカードを手渡す)


リリサ「はい、これがあなたの住民カードね。」


ティナ「氏名……ティナ・フローレンス。

 性別、女性。種族、エルフ。……生年月日……XXXX年5月3日?」


リリサ「今年で13歳ね。見た目的にもそのくらいじゃないかしら。」


ティナ「13歳……JC1年生か……はぁ……」


リリサ「小学生が良かった?」


ティナ「違わい!!」


---


(数十分後、雑貨屋。)


リリサ「部屋の置物とかどうする? あなたの好みに合わせていいわよ。

 ほら、このぬいぐるみなんてどう?」


(リボンをつけたクマのぬいぐるみを持ち上げるリリサ)


ティナ「女の子扱いすんな! ぬいぐるみなんていらん!」


(店内をぶらぶら。ふと壁際に目をやると――釣竿が立てかけられている)


ティナ「(釣竿……! よく休日に行ってたっけ……

 この世界でも釣りができたら、少しは気晴らしになるかも!)」


ティナ「ねぇリリサさん、この釣竿欲しいな。昔から釣りが趣味だったんだ。」


リリサ「釣竿? 置物は?」


ティナ「置物は……ほら! 女の子の自覚がまだなくて、

どういうのがいいか分かんなくてさ。

でも趣味の釣りができれば、この世界でも楽しく生きていけるかなって!」


(リリサがじっとティナを見つめ、少し考えて――ニヤリ)


リリサ「ん〜なるほどね。じゃあ――可愛くおねだりして?」


ティナ「……へ?」


リリサ「だって釣りってあんまり女の子っぽくないじゃない?

でもあなたの気持ちもわかるから。だから、可愛くおねだりしてくれたら買ってあげる。」


ティナ「お、お願いします。リリサさん……」


リリサ「え? なんて? 聞こえない〜」


ティナ「(絶対聞こえてる!! この人わざとやってる!!)」


ティナ「リリサさん! お願いします! この釣竿買ってください!!」


リリサ「まず、“リリサさん”ってやめて。」


ティナ「え? じゃあ“リリサ”?」


リリサ「違う。“お姉ちゃん”。」


ティナ「……は?」



リリサ「さっきの住民登録で、私たち姉妹になったでしょ?

 妹が姉を“お姉ちゃん”って呼ぶのは普通でしょ?」

(自分の住民カードを見せる)

氏名:リリサ・フローレンス


ティナ「いやいやいや! 無理無理!!

おっさんが年下の女性に“お姉ちゃん”呼びなんて!

キャバクラ常連のおっさんみたいじゃん!!」


リリサ「じゃあ残念、釣竿は諦めなさい。」


(沈黙。ティナ、顔をひくつかせる)


ティナ(小声)「……って……ちゃん……」


リリサ「何? 聞こえなかった。」


ティナ(顔真っ赤・涙目)「この釣竿!!買って!!お姉ちゃんっっ!!」


(リリサ、胸を押さえて震える)

リリサ「はぅっ!? すごい破壊力……っ!! 買ってあげる!!」


(釣竿を抱えてレジに向かうリリサ)

(ティナは机に突っ伏して真っ赤なまま)


ティナ「(この悪魔……もう絶対“お姉ちゃん”なんて呼ばない……)」



---


(レジを終え、外に出る二人)


春の風が、湖畔の街をやさしく撫でていく。

白い花びらがひらひらと舞い、鳥の声が遠くで響いていた。


リリサは釣竿の包みを抱えて上機嫌。

ティナは隣で、俯いたまま顔を真っ赤にしている。


ティナ「……ちくしょう……なんで“お姉ちゃん”なんて……」


リリサ「ふふっ、似合ってたわよ?」


ティナ「ぐぬぬぬぬ……!」


(リリサ、楽しそうに鼻歌を歌いながら歩く)


ティナ「(覚えとけよリリサ……! 次は絶対仕返ししてやる……!)」


(握りしめた釣竿が、カタリと音を立てる)


――春の風が吹き抜ける。

ティナの転生生活は、まだ始まったばかり。

そしてこの日、彼女の“復讐リスト”に最初の名前が刻まれた。


次回【湖の奇跡】

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