第2話アート①

プロのフリー写真家阿部は、ちょっと気になる

着物作家がいて、近づきたかった

創作着物作家のRENーMEGUROと言う男だ

彼の作品には独特な味わいがあると思っていた

古典柄を何とも現代的な感覚に仕上げる不思議な魅力で、今までの京友禅とは全く違い、世の中に理解されたら、世界中に通用するのではないかと感じ、

どうしても自分がカメラに収めたいと考えていた

「是非写真に収めさせてほしい」

と何度も頼んだが、 変人と思われ断わられ続けた

「写真なんて平坦な中で 私の絵が輝くとは思えない、無理だ!写真なんかじゃホントの意味は伝わらない、ホントの心は伝わらないんだ!」

有る経験からRENは吐き捨てる様に言った

そう言われた阿部は 写真家魂に火がついた

『…なんか?写真を平坦なんて冗談じゃない!写真は宇宙なんだ! 分からせてみせる!この偏屈!』

阿部はその日から毎日RENーMEGUROに張り付いた

仕事を見て、食事も共にし、夜は一緒に呑んだ

彼の生き方、考え方、何から何まで吸収したかった

そして自分の撮る写真の息吹や情熱も分かってもらおうと語りかけ続け、意固地なしつこい奴と思われ

たが、いつしかお互いはお互いを分かりだした

阿部はRENーMEGUROをただの偏屈な頑固者と思っていたのが申し訳ないと思う様になって行った

彼は着物作家という枠では括れない人間だった、

芸術家なのだ、しかし古いしきたりの中で異端とされ認められず もがき苦しんでいた

それでも自分であり続ける為 おのれを曲げず、

アートにも似た新しい物を作り続けようとしていた

阿部はその熱意と苦悩を理解し始めて毎日作業場の

RENーMEGURO自体を被写体として撮り続けた

自分の写真に対する考え方と通じる所が有る気がし

て…自分が写真に命を与え、その音さえも聞こえるものを目指している事をRENに話し 撮り続けた

RENも段々阿部の写真に対する姿勢を分かりだした

そして、写真を平坦と言ったことを反省していた

人によるんだと理解しだしていた

「俺は切り取ったものを見せる為だけに写真を撮ってるわけじゃない!そこから感じる人間の呼吸、

景色が醸し出す音や香さえ分からせたいんだ」

そしてRENも 阿部が意固地な変わり者だと決めつけたのを反省し、撮る写真の意味を知っていった

ある日裏路地のおばんざい居酒屋で2人はそんな話をしながら しこたま呑んだ

「俺が今描く鏡は、神の持つ八咫(やた)の鏡なんだ

だから地色は宇宙を感じさせる荘厳な輝きのあるものでなくちゃダメなんだ、そこに神の乗る澄んだ雲、人が仰ぎ眺め 拝みたくなる様なね、だけど、親方はそんな物語よりもお客が素晴らしいと分かる様に単純に描けと言うんだなー」

「RENさんの作品…」

「RENでいいよ、俺も阿部さんの事 あべちゃんと呼びたい…いいか?」

阿部はうなづいて微笑んだ

2人はそう呼び合い嬉しくなって飲み過ぎていった

「RENの作品発表して、俺が写真集にしたいなぁ

…うん、作業中のRENの姿もその中にいれて…」

「写真集かー 撮るならあべちゃんしか駄目だ、

くだらないやつが わかった顔で撮った写真なんか

絶対駄目だ、クソ喰らえだ!ふざけるなだ!

でもまだ無理だな1点や2点じゃ、考えては いる

御所車とか四君子、扇面、鼓、山河、寺社や城…

古典柄の題材は沢山有る、それらに意味を持たせ、

その物語を感じる様に描くんだ、

でも加賀の様に全て1人で納得するもを作りたい

分業じゃ駄目なんだ、自信と責任を持って描きたい

そして北欧の美女に着せたい、先ずはヌードに羽織らせる、そしてそれをあべちゃんに撮ってもらおうそれからきちんと着付けて格式高く…」

そんな話の途中 入り口の格子戸がゆっくり開き

「2人 いいですか?」

男の声がしたと同時に、その2人を押しのけて1人の女が勢いよく入ってきて 小上がりまで来た

「REN!なんでこんな所で呑んでんのよ!

それも男と 昼間っから酔っ払って!」

女は ゆきね と言う元芸妓だった

早くから時代を先取りしSNSに芸妓の日常という動画を上げて世界に発信し、人気インフルエンサーとなり、大層儲け、有名になった女だ 

今は儲けた金で芸妓を辞め 高級マンションに住み

『雪の音』と言う割烹店を開き女将となり、そしてRENの着物を見て 素晴らしさに入れ込んでいった

本気でRENーMEGUROという男に一番惚れているのは自分と思っていたし、彼もこんな凄い私に一番惚れていると思っていた、

すごい者同士 相思相愛だと信じていた

だから自分のインスタグラムに RENの着物を着た自分を載せ、その素晴らしさを発信していた

「ユキネさん綺麗ー!」とか「白い肌に素敵な着物のユキネさんとても美しい!」とか かなりの反響で、RENの親方の工房にまで人が押し寄せた

しかしRENはその全てが気に入らなかった

描かれた絵の良さを本当に分かる者など誰一人いなかったし、工房にも迷惑をかけヒンシュクをかった

インスタの写真なんかに撮られたくなかった

皆 ゆきねを褒めればゆきねファンとして認められる それくらいにしか思っていないフォロアーばかりで不愉快だった

「ほら、この着物の写真 1万イイネよ」

ゆきねはRENの描く着物の評価だと褒めちぎった

RENにはウザかった、何もわかってないと思った

一時は抱き合った仲だが、今はウザいと思って

店にもマンションにも寄り付かなかった

ゆきねにはお金も有った、店も出した、マンションも買った、ファンも沢山居た、出した写真集も売れまくったし、芸妓時代よりもずっと豊かになっていて、自分は勝ち組だと豪語した

RENーMEGUROの高価な着物も随分買った

しかし愛がなかった…欲しいと思った

そしてRENを彼氏にした、

RENに愛を求めたかった

だがRENの愛はゆきねには向かず作品に向いていた

ゆきねにはそれが何に向いているのかは分からなかったが、RENの愛が自分に向いていない事だけは分かった

だから新しい女が出来て、その女と来ていると思って、急いで店に入ったのだ

「こんな所とはご挨拶どすなあ」

そう言った店の女将も以前芸妓だった中年の女性だ

「うちはあんさん所と違ごおて ホンマモンの京のおばんざいで長年商売しとります、失礼な事言わんといておくれやす、

RENさんかて美味しいから来てくれはるんどすえ、なあ、…RENさん?

おたくの店 居心地悪いんとちゃいますの?」

さすが元芸妓同士、互いに一歩も譲らない強さだ

言い合いははんなりを越え、段々喧嘩腰に発展した

小上がりのRENと阿部が仕方なく止めに入った

RENが後日『雪の音』に行く事で決着した

ゆきねは女将に皮肉混じりの言葉を吐いて帰った

入り口にいた観光客2人は店の男衆にカウンターへ案内され、様子を見守り、何かを見ながらヒソヒソと話をしていた

女将がカウンターの外に出てきて小上がりに行き

「年甲斐もなく声荒げて堪忍な、阿部さん、

RENさんにも悪い事してしまいましたな

大事な彼女さんに悪態ついて…」

頭を下げ、煮物の小鉢をサービスしていった

それからカウンターの観光客の2人にも謝っていた

RENと阿部も酔っていたが、小上がりから降りて、迷惑をかけたと言って その観光客に頭を下げた

そして小上がりに戻り、あぐらをかきなおした

「女将、アイツは彼女じゃ無いからね、違うから!

あべちゃん、飲み直しじゃい!」

「おう!」

RENと阿部は大きな声でそう言いあって、少し大き

目の杯を飲み干し、酒を追加した


            ① つづく






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