第2話  はじまりの日常

撮影と言っても、本当にただの路上だった。

古いビルの壁。落書き。錆びた看板。

なのに、男は「ここ、光がいいんだよ」と言って立ち止まった。


「じゃあ、そのまま立ってみて」


「……立つだけ?」


「立つだけ」


なんだそれ、と思いながら壁に背中を預ける。


男はスマホを構えながら、どこか楽しそうだった。


「目線は俺。逃げんなよ」


言われて、視線を向けた。

正面から人を見るのは得意じゃない。でも、弓道では的を見続けるのは慣れている。


じっと見返す。


カシャッ。

カシャッ。

カシャッ。


数秒だけど、妙に長く感じた。


撮り終えると、男は画面を差し出す。


「……ほら」


そこには、私がいた。

"かっこつけてないのに、絵になる"自分。


「…………」


言葉が出ない私を見て、男は口元だけで笑った。


「な? 言ったろ」


「……別に、かっこよくない」


「うん。かっこいいじゃなくて、“強い”って言ったじゃん」


当たり前みたいに言う。


なんでそんなに、人のことをちゃんと見れるんだろう。


男は篠崎 陸(しのさき りく)と名乗った。


「俺のことは軽く“シノ”って呼んでよ」


「……わかった。シノ」

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