安納シオリと山岡夏美の恋と葛藤

　高校3年生の安納シオリは、ミレニアムガールズプロレスリングに所属する18歳の女子プロレスラーだ。身長155cm、短く切り揃えた黒髪に、リング上ではキリッとした目つきで観客を魅了する売れっ子スターだ。しかし、リングを降りた彼女はどこかおっちょこちょいで、恋愛には不器用な少女。

　一方、彼女の1年後輩である山岡夏美は、高校レスリング部の有望なアマチュア選手で、17歳の高校2年生。身長160cmのスラリとした体型で、シオリを尊敬しつつも、その成功に嫉妬を抱いている。

　夏の暑さがピークに達した7月28日、シオリと夏美の心に複雑な感情が渦巻いていた。クラスメイトの佐藤悠斗、18歳のサッカー部員でシオリと夏美の両方に好意を抱かれる存在も、この物語の鍵を握る。シオリは悠斗に淡い恋心を抱き、夏美は悠斗に熱烈な片思いを抱いているが、それぞれの「蛙化現象」が三角関係をさらに複雑にしていた。

第一章：リングと恋の始まり

　朝の練習が終わり、汗だくになったシオリは、体育館の片隅で水をがぶ飲みしていた。「お腹空いた〜！」とつぶやきながらトレーナーから渡されたおにぎりを頬張る。そこへクラスメイトの佐藤悠斗が近づいてきた。悠斗は長身で爽やかな笑顔が特徴のサッカー部員で、シオリが密かに「かっこいいな」と思っていた相手だ。

「おはよう、シオリ。今日の試合、応援に行くよ」と悠斗が優しく言う。シオリの心臓はドキッと跳ねた。

「え、ほんと!? う、うん、ありがとう…頑張るね！」と、顔が熱くなるのを隠そうと俯いた。

　その日のミレニアムガールズプロレスリングの試合、シオリは得意のドロップキックで観客を沸かせ、リングサイドで悠斗が手を振る姿に胸が高鳴った。しかし、試合後、悠斗が「シオリ、めっちゃカッコよかった！俺、惚れちゃったかも」と照れ笑いすると、シオリの気持ちは急に冷めた。「え…？惚れちゃったって…？」と頭が混乱する。これは「蛙化現象」だ。理想の悠斗が現実の甘ったるい言葉で崩れていく感覚に、シオリは戸惑った。

　一方、レスリング部の練習を見ていた山岡夏美は、シオリの試合を遠くから眺めていた。夏美は悠斗に片思い中で、彼がシオリに近づく姿に嫉妬が湧いていた。だが、悠斗がシオリに好意を示した瞬間、夏美の心は逆に熱くなった。「悠斗くんがシオリ先輩に惚れるなんて…私も負けない！」と、蛙化とは逆に、相手の好意が自分の気持ちを燃え上がらせるタイプだった。

　売れっ子プロレスラーのシオリに嫉妬する気持ちも強く、夏美の心は複雑に揺れていた。悠斗が夏美に「応援するね」と笑顔で言った日、彼女は一瞬幸福を感じたが、すぐに「シオリ先輩と比べられるのが嫌だ！」と嫉妬が爆発した。

第二章：理想と現実のギャップ、そして三角関係

　シオリは部屋で蛙化現象を調べ、好きな人に好意を持たれると冷める心理に納得した。悠斗の「惚れちゃったかも」が、クールなイメージとのギャップを生み、嫌な感じを覚えたのだ。

「私、こんな自分を好きになるなんて…ちょっと気持ち悪い？」と鏡を見つめる。ミレニアムガールズプロレスリングのスターとしての自信と、恋愛での不器用さが交錯していた。

　翌日、悠斗が手作りのクッキーをシオリに渡した。形がぐちゃぐちゃでチョコが溶けた姿に、シオリはさらに冷めた。「え、これ…自分で作ったの？」とつい口に出すと、悠斗が「うん、頑張ったんだから！」と笑う。理想の悠斗が崩れていく。悠斗はシオリの反応に少し傷ついた様子を見せたが、すぐに「じゃあ、夏美にもあげようか」と気を取り直した。

　同じ頃、夏美はレスリング部の練習後に悠斗に声をかけた。「悠斗くん、シオリ先輩の試合良かったね…私も頑張るから、見ててくれる？」と勇気を振り絞る。悠斗が「夏美もカッコいいよ、応援するね」と笑うと、夏美の心は大喜びだった。だが、シオリへの嫉妬が頭をもたげ、「売れっ子で目立つのってずるい…」と嫌悪感が湧く。これは蛙化現象の逆で、シオリの成功や悠斗の好意が夏美の感情を増幅させていた。

　三角関係が動き出す。シオリが悠斗を避け始めると、夏美はチャンスとばかりにアプローチを強めた。ある日、悠斗が「夏美、最近頑張ってるね。シオリみたいにプロになれるかも」と言うと、夏美は一瞬喜んだが、「シオリ先輩と比べられるのが嫌だ！」と内心反発。悠斗の言葉に励まされつつも、シオリへの嫉妬が募り、夏美の心はさらに混乱した。

第三章：蛙化を超えて、対峙

　ある日、シオリはミレニアムガールズプロレスリングの練習中に転倒し、膝を軽く打った。悠斗が駆け寄り、慌てて絆創膏を貼ってくれた。「シオリ、大丈夫？不器用だね」と笑う悠斗の優しさに、シオリはハッとした。「不器用…か。私も最初は失敗ばかりだった」と自分の不完全さを認め、蛙化を乗り越えようと決意。

「ねえ、悠斗。完璧じゃなくていいから、ありのままの自分で付き合ってみない？」と提案すると、悠斗は少し驚いた後、温かい笑顔でうなずいた。「シオリ、素直になったね。俺も頑張るよ」と言い、シオリの手をそっと握った。この瞬間、悠斗の不完全さを受け入れることで、シオリの心は少し軽くなった。

　だが、その場面を遠くから見ていた夏美は、嫉妬が爆発。「シオリ先輩がまた悠斗くんを独占するなんて！」と、レスリング部の試合でシオリに挑むことを決意した。夏美はシオリに直接対決を申し込み、ミレニアムガールズプロレスリングのリングを借りて、特別なエキシビジョンマッチが組まれた。観客には学校の仲間や悠斗も含まれる中、試合が始まった。

　リングに上がったシオリは、プロレスラーとしての経験を活かし、軽快なフットワークで夏美を翻弄した。ドロップキックを繰り出し、夏美をコーナーに追い詰める。観客から歓声が上がる中、夏美はアマチュアレスリングの技術で対抗。素早いタックルでシオリの足を捉え、テイクダウンを決めた。夏美の目は燃えていた。「先輩、私だって負けない！」と叫びながら、シオリをマットに押し倒す。

　しかし、夏美の嫉妬と蛙化の逆が抑えきれなくなった。彼女はアマレスでは許されないプロレスの高度な技を繰り出すことを決意し、岩谷麻優の得意技である「ドドンパ」へと移行した。夏美はシオリの右腕をロックし、両足で左腕を挟み込み、勢いよく体を回転。シオリを後頭部からマットに叩きつけ、そのまま両腕をクラッチしてエビで押さえ込み、フォールを狙った。この一連の動きは、夏美がシオリを圧倒しようとする意気込みの表れだったが、プロレスのリングでの反則行為に近い荒々しさもあった。観客が驚愕の声を上げる中、シオリは一瞬気絶しそうになったが、プロレスラーとしての本能で耐え抜いた。

　この瞬間、シオリの頭に血が上った。プロレスラーとしてのプライドがズタズタにされたと感じ、怒りが爆発した。「何！？お前、こんな技を俺に使う気！？」と叫び、立ち上がると、夏美に猛然と突進。シオリは同じく「ドドンパ」から派生する技、岩谷麻優が得意とする「ドドンパからのドラゴン・スープレックス・ホールド」を繰り出した。シオリは夏美の右腕をロックし、両足で左腕を挟んで回転を開始。勢いよく夏美を後頭部からマットに叩きつけ、そのままフルネルソンの体勢に移行。強靭なブリッジで夏美を仰向けにホールドし、ドラゴン・スープレックスの形でフォールを狙った。

　この一撃はあまりにも強烈で、夏美は意識を失い、KOされてしまった。リングに響く審判のカウント3が終わり、観客が静まり返る中、シオリは息を切らしながらも夏美を見下ろした。「お前…プロの技を舐めるなよ」と呟き、悔しさが混じった表情を浮かべた。悠斗がリングサイドから飛び上がり、「シオリ、夏美！やめてくれ！」と叫んだが、時すでに遅しだった。試合はシオリの勝利で終わり、夏美は担架で運ばれたが、大きな怪我はなく、意識はすぐに回復した。この出来事は、シオリの怒りと夏美の嫉妬がぶつかり合った結果だった。

エピローグ

　試合後、控室でシオリ、夏美、悠斗の3人が向き合った。夏美は額にアイスパックを当てながら、申し訳なさそうにうつむいていた。悠斗は真剣な表情で口を開いた。「俺、シオリも夏美も大好きだよ。カッコいいし、頑張ってる姿に惹かれる。でも、二人を争わせたいわけじゃない。俺だって、もっと自分を磨いて、二人にふさわしい男になりたい。今回の試合…俺がもっと早く止められればよかった」と、自己嫌悪を込めて言った。

　シオリは少し考えてから、深呼吸して口を開いた。「悠斗、謝らなくていいよ。俺がやりすぎた。夏美、悪い。あの技でKOしちまって…プロのリングで感情に流されたのは俺のミスだ。だけど、お前がドドンパをかけてきたときは、正直ムカついた。でも、今は冷静になって、お前の気持ちもわかるよ。プロレスラーとして認められたいって気持ち、俺も昔は同じだった」

　夏美は涙を浮かべながら、ゆっくりと頭を上げた。「先輩…ごめんなさい。嫉妬してた。プロレスラーとして売れてる先輩がうらやましくて、悠斗くんを取ろうとして…ドドンパは練習で覚えたけど、反則だってわかってて使っちゃった。恥ずかしいけど、負けた今、素直に認めたい。先輩、すごいよ」

　悠斗が二人の間に立ち、「じゃあ、俺から提案がある。シオリはプロで輝き続けて、夏美はレスリングで夢を追ってほしい。俺はサッカー部で頑張るから、二人を応援するよ。もし許してくれるなら、友達としてずっとそばにいたい。恋愛は…今は置いといて、3人で支え合えたら最高じゃない？」と提案した。

　シオリは笑顔でうなずき、「それ、いいね。悠斗、お前の優しさが俺を救ってくれた。夏美とも友達になれるなら、リングで競い合って成長したい」夏美も涙を拭い、「うん…ありがとう、先輩。悠斗くんも。次は正々堂々と戦うから、そのときは応援してね」と笑った。

　和解の象徴として、3人は控室で握手を交わした。その後、シオリはミレニアムガールズプロレスリングの試合でさらに輝きを増し、夏美はレスリング部で全国大会を目指すようになった。悠斗はサッカー部での活躍を続け、3人の絆は友情として深まった。試合の余波でシオリと夏美はプロレスとアマレスの技術交流を始め、互いに高め合う関係に発展した。

　シオリはSNSに「まじ自分に蛙化してましたw でも、夏美と悠斗のおかげで乗り越えた！次は友情のリングで！」と投稿。夏美も「私も蛙化の逆でバカみたいだったw 先輩にKOされちゃったけど、友達になれて嬉しい。悠斗くんもありがとう！」と返し、悠斗は「二人とも最高の仲間だよ！これからも一緒に頑張ろう！」とコメント。フォロワーからは「感動的！」「友情が最高！」と温かい反応が溢れ、3人の新しい一歩が始まったのだった。