第4話 遭遇
「あ」
「あ」
「あれ」
それから数日後の日曜日、夕暮れ時に近くのスーパーに出かけた私は、あの二人とばったり遭遇した。
くぬぎさんと、はるまさん。
くぬぎさんはこの間のスーツ姿とは違ってラフなTシャツにパーカー、はるまさんは逆にちょっとお洒落なロングスカート姿で、前は雑にお団子にまとめていた黒髪をきちんととかして三つ編みにしている。
「あ、えっと……お、お久しぶりです、あのときはあの、本当にありがとうございました」
私がぺこりと頭を下げると、「あー、いいっていいって」とはるまさんはからっと笑って手を振る。
「あんとき大丈夫だった? 結局あのあとは、大家さんに任せっきりにしちゃったけど」
「あ、いえ、ほんとに色々していただいて!」
くぬぎさんが呼んできてくれた大家さんと一緒にはるまさんの部屋を出て自分の部屋に戻るとき、私が吐いてしまった通路が綺麗に掃除されていることに気づいた。
私がはるまさんについてもらってトイレにいる間、くぬぎさんがやってくれたんだと思う。
それに翌日は一日寝込んでしまったけど、大家さんから、私が寝ている間にくぬぎさんとはるまさんが何度も来てくださったって聞いた。
夕方には差し入れのプリンが「おだいじに」と書いた可愛い付箋と一緒に枕元に置いてあって、食べながらぼろぼろ涙が止まらなくなってしまって、慌ててやってきた大家さんが背中をさすりながら「よかったねえ、よかったねえ」としわくちゃの顔で笑っていた。
「あの、プリン、すごく美味しかったです、えっと、ほんとに、嬉しくて」
「おー、そりゃよかった」
「アレルギーとか好き嫌いとかわかんなかったから、嫌だったらちゃんと残してねって言ってくださいって大家さんには言ったんだけど……大丈夫そうだった?」
「あ、はい、私アレルギーないですし、プリンは大好きなので」
「そっか、ならよかった」
くぬぎさんはあの湯たんぽの笑顔をしたあとで、そうだそうだ、と思い出したように手元を見る。
「えーっと、あなたは……ごめん、名前知らなかったね、そう言えば」
「あっ、
名乗った反射で一礼すると、くぬぎさんは「みなとさんね。みなとさん、みなとさん、よし覚えた」とぱっと顔を明るくする。
「どういう字書くの?」
「えーっと……さんずいに奏でる湊に
「あー、了解了解。えっとねー、俺は
「あ……あっ、そういう!?」
一拍置いて理解して声をあげると、はるまさんが露骨に眉を顰めてくぬぎさんに肘鉄を食らわせた。くぬぎさんは「痛いっ!」と悲鳴を上げてその場にうずくまる。
「こいつ自己紹介するたびにこのネタやんだよ、もう聞き飽きたっつーの」
「鉄板ネタだからね。晴間さんは聞き飽きてても、湊都さんは聞くのはじめてでしょう。あ、そうそう、俺みんなからは片仮名のクヌギって呼ばれてるから、湊都さんも片仮名で呼んでいいよ」
「あ……はい、じゃあ片仮名で呼びます」
片仮名で呼ぶとは、と思ったものの、私は一応頷いた。
続いて、はるまさんが蹲っているくぬぎさんの前に立つ。
「私は晴間かの。晴れ間って書いてはるまって読むんだ、縁起いいだろ。名前はそのまま平仮名でかのだ」
「は、晴間、かのさん。よろしくお願いします」
教えてもらった名前を繰り返して、ぺこっと頭をさげる。
晴間さんは白い歯を見せてにいっと笑った。
「なあ湊都、晩飯決まってるか?」
「え? ああ……いえ、それを買いに今来たところで」
「まだ何も買ってない?」
「はい、まだこれから決めようかと……どうしてですか?」
確認するたびにますます笑みを深める晴間さんに怪訝そうな顔をしてみせると、クヌギさんが「いやー、あのねー」と復活して立ち上がる。
こうしてみると、晴間さんも背が高いけど、クヌギさんは晴間さんより頭半分くらい長身だ。
「今から晴間んちでファストフードパーティーやろうかって話しててさ。よかったら来ない?」
一拍置いて、私はばっと顔を上げた。
「え、行きたいですっ!」
プリンが大好き、なのは嘘じゃない。
けどそれ以上に、私はハンバーガーとか、ピザとか、とにかくファストフードが大好きなのだ。
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