第16話 イベリア歴622年 鍛冶
鍛冶屋の仕事の合間に通信機を製作していた。本来は防具や武器を作りたかったが、内容を確認すると通信機よりも時間がかかることが判明し、まずは通信機を優先することにした。連絡さえ取れれば、防具や武器も手に入る可能性があるし、アンドロイドを派遣することもできるかもしれない。
一ヶ月ほど経った頃、問題が発生した。武器の大量注文――それも業物を含む上級品が中心だ。アントニオから「始まるのか?」と聞くと、カスティーリャ王国とアラゴン王国が揉めているらしい。もともと結託していて、両国でこの国を攻める可能性もあるため、国境付近を守る準備をしているという。「武器は良いものの方がいいだろ」というわけだ。
さらに両国の軍隊が北の平原に向かっているらしい。平原は国境から三十キロ南にあり、非常に微妙な距離だ。今は国中の鍛冶屋が大忙しだという。私は材料さえあれば苦もなく作れるが、材料が足りない分はすべて作り終えてしまった。アントニオがさっそく納品すると、軍の武器を管理する部署が驚いていたそうだ。
そんなある日、珍しい人物が訪ねてきた。あの貴族――アルトゥーロ・ガルシーア騎士団長の次男だ。腰には私が作った業物をぶら下げている。
「久しぶりだな、イザベル。結婚したと聞いたよ、おめでとう!さて、要件だが私の知り合いに剣の達人がいる。その方に、これよりすごい剣を鍛えてくれ。」
そう言って自分の剣を叩いた。私は迷った。
「そんな難しい顔をしないでくれ、美人が台無しだぞ!……これを超えるなど簡単とは思っていない。」
少し上なら可能だが、なんだか違う予感がする。
「業物より少し上なら可能だけど……違う依頼か?材質を変えるのか?どうなんだ?いずれにしても依頼者に話を聞かないと。その達人を連れてきてよ。」
「もう来ている。私の後ろで荷物持って待機している。」
私は驚いた。
「えー、このお嬢さんが!てか、どう見てもアルトゥーロ様のお付きの人だと思ったよ。服装も軽装だし。てっきり剛腕で顔に傷があり、ムキムキの男性かと……」
「すまない、今日は稽古着で来ている。私は第二騎馬隊団長のイレーネ・マルティネス男爵だ。よろしく。」
私と同じか、あるいは下かもしれない。――またイレーネかよ、と考えているとアルトゥーロが続けた。
「男爵は伯爵家の令嬢なのだが、剣の達人ゆえに独立して爵位を授かった天才剣士だ。(沈黙)このまま戦争がなく平穏であれば、私と結婚して……私が婿になる予定だ。」
「はー、おめでとうございます。……本題のほうを。」
「すまない、この素材を見てくれ。」
折れた剣と鉱石?
「これはアダマンタイトの鉱石とミスリルの剣だ。剣は祖父から頂いたものだが、今はこのとおりだ。強くて重いアダマンタイトを加えて作ってくれないか。」
ああ、業物で本三枚仕上げか……なるほど!
「わかりました。可能です。」とすんなり答えた。
「ありがとう。……あなたの腕は以前、ミスリルの短剣を見て信頼していたが、今回の依頼を受けてくれて感謝する。」
その後、一通りの話をして二人は帰っていった。
数日後、完成した剣をアントニオに届けてもらう予定だったが――軍服姿のイレーネが外に立っていた。どうやら待ちきれなかったようだ。
「おはようございます!イレーネ様」
「あー!おはよう、イザベル。どうも、待ちきれなくてなー」
「こちらです。」と仕上がった剣を差し出した。イレーネが剣を手にした瞬間、空気が張り詰めた。真剣な表情で無言のまま剣を見つめている。
「ヒュ!……ヒュ!ヒュ!……試し切りを!」
私はあまりの迫力に無言で藁束を指し示した。先ほどまで軍服姿の少女だった彼女が、戦場を支配する剣士へと変貌する。藁束を斬る音は鋭く、まるで空気そのものを断ち切るようだった。
「シュ!シュ!シュ!……気に入った!ベストな仕上がりだ。これは礼だ、受け取ってくれ。」
そう言って金貨の袋を渡し、鼻歌を歌いながら上機嫌で帰っていった。
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