第32話 3回目の配信

​「よし。今日はここでゲリラ配信をしようか」


​俺は幸村の着流し姿を見て、この興奮をリスナーと共有したいという思い付きで、今から配信をすることに決めた。


​「えっ!?今から!?でも翔真、Webカメラは?持ってきてないよね?」


​藍音の疑問はごもっともだ。確かにWebカメラはアパートにある。 しかし何か忘れていませんか? そう、俺たちにはまだ配信ができる便利なアイテムがある。 そのアイテムとは、現代人なら誰でも持っている物。 そう、スマホだ。


​「スマホだよスマホ。 シロモフチャンネルはチャンネル開設時にスマホからでも配信できる設定にしてただろ? 忘れたのか藍音?」


​「ああ! そうでした! すっかり忘れてた!」


​本当に忘れていたみたいで、藍音は思い出したかのように「ポンッ」と自分の手を打った。


​「でも何で今から配信?」


藍音がキョトンとした顔で質問してきた。


​「リスナーの皆にスノーと幸村の新しい可愛い姿を見せたいからだよ。 今なら葵もいるから、着流しを含めた洋服の説明なんかをして貰えるしな」


​「成る程ね~! 流石翔真! 最高のアイデアだよ!」


​「わ、私も配信に出るのか!」


​葵は自分も配信に出るとは思っていなかったので、かなりびっくりしている。


​「オフコース。 この際だから、葵には俺たちシロモフチャンネルの衣類担当になって貰おうと思う。良いよな? 答えは聞いてない!」


​俺は勢いで葵に専属デザイナーのポジションを押し付けた。


​「グッドアイデアだよ翔真! 葵姐さんも私達のチャンネルに巻き込んじゃえ!」


​「そんな!? 無茶苦茶だよ~。 聞いてないよ~。 人権侵害だよ!」


​葵は抵抗するが、俺は決定的な一言で追い詰める。


「でも葵、良く考えてみろ。 これで葵は好きな時に好きなだけスノーや幸村の衣類を作って二匹に着せることができるんだぞ? お前は洋服が作れてHAPPY。 俺たちは只でスノーと幸村の洋服が手に入るからHAPPY。 正にWin-Winだろ?」


​葵の顔が、デザイナーとしての欲望と理性の狭間で揺れる。


​「た、確かに……翔真達の話に乗れば、私は好きな時に好きなだけスノーちゃんと幸村君の洋服が作れて着替えさせ放題だ。 こんな理想的な環境、他にはない……!…………よし。 その話乗った! 私がシロモフチャンネルの専属デザイナーとなるよ!」


​「おお! やってくれるか葵!」


「ああ。でも、ちゃんと約束してくれよ? さっきの話を(好きな時に服を作らせるという話)」


​「勿論だって」


​(ふっ。 チョロいな。 好きなことのためなら合理的な判断をするのは、昔から変わらない)


​スノーは「やった!新しいお洋服が着れますね!」と喜び、うってかわって幸村は「勘弁して下され……」と誰が見ても嫌そうな顔をしていた。


​……本当に何があったんだ幸村?


​それからさっさと配信の準備をし、被服室の布が散乱していない壁際にスマホを固定し、配信をスタートさせる。


​「シロモフチャンネルの翔真です! 皆さんこんにちは!」


​「助手の藍音です! 皆さん元気にしてましたか?」


​「コボルトのスノーです。 リスナーの皆様こんにちはです」




​” 藍音ちゃんとスノーちゃん  キタ━(゚∀゚)━!  翔真はイラネー ”


” それな www  藍音ちゃんとスノーちゃんだけでおけ ”


” お? 今日はダンジョンじゃないんだな? 珍しい ”


” 翔真は雑音 ”




……皆俺にだけ冷たくないか? まぁ良いけど、これも人気者になるための試練だ。


​「今日はダンジョンじゃなくて、とある場所から配信しています。 こんな感じの配信も良いでしょ?で、今日は新しいシロモフチャンネルのメンバーを紹介しようと思っています」




​” 新しいメンバーだと? ”


” 男? それとも 女?  頼むから女であってくれ ”


” メンバー増えるの早くね? ”





​「ではご紹介致します!どうぞ!」


​俺はそう言ってスマホのカメラを幸村に向けた。


​幸村は着流しの乱れを正し、一つ息を整えてから、カメラに向かって挨拶をした。


「新しくお館様の家臣になり申したコボルトの幸村で御座る。 皆々様宜しくお願い申し上げまする」


​幸村は、深々と頭を下げた。




​” ファッ!? ”


” 赤いコボルト!?  また珍しいな赤いコボルトって ”


” しかも喋ってるし。そして喋り方が武士 www ”


” 藍音ちゃんの翻訳機のお陰かな? ”


” 着流しカッコよすぎだろ ”




​「そしてもう一人」


​俺は幸村から葵にカメラを向ける。


「皆初めましてだ。私はこのシロモフチャンネルの専属デザイナーを勤めることになった葵だよ。 これからスノーちゃんと幸村君の可愛い衣装を沢山作っていく予定だから期待していて欲しいな」




​” 専属デザイナー!?  凄いのが来た! ”


” 黒髪ポニテ美少女  キタ━(゚∀゚)━! ”


” 羨ましいぞ翔真!!  そこ変われ!! ”


” 赤いコボルトが着流し着てる。 葵ちゃんの作品かな? センス良すぎ ”




​リスナーの皆は葵の姿を見て大興奮だ。 コメントが物凄い速さで流れていく。 もはや何を書いているのかが分からない位だ。


「さて紹介も終わったことだし、今日はダンジョンじゃ無いので、雑談と質問に答えていこうと思います」


​俺がそう言うと、早速質問コメントが。



 

​” 葵ちゃんは彼氏いるの?可愛いね! ”




「それはプライベートな事だからノーコメントで良いかな?」




” 藍音ちゃんと葵ちゃんのスリーサイズ教えて ”




「通報しました」


​(この手のセクハラは即座に排除する。 葵も藍音も俺の大切な仲間だ。 これ以上、不快な思いはさせない)




​” コボルトの二匹に質問!白い毛並み、赤い毛並みが居るなら、他に珍しい色のコボルトは居るの? ”




「はい。居ますよ。黒、緑、金、銀と様々ですね」


「某が出会った中で珍しい色のコボルトは虹色が居たで御座るよ」




​” 虹色 www ペンキでも溢したか www ”


” ほえ~。色々な色のコボルトって居るんだなぁ。知らなかった ”


” 白コボルトと赤コボルト、どっちが強いの? ”




​等の質問コメントが次々と流れてきた。 藍音と葵に対するセクハラコメントをしたリスナーは勿論問答無用で通報したけど。 当然でしょ?


そしてコメントの返事を返したり、三人(翔真、藍音、葵)と二匹(スノー、幸村)で雑談をし、約一時間程の配信は無事に終了した。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


もし宜しければ コメント レビュー ♡ ☆評価を宜しくお願い致します。


おかしな点があれば指摘をお願いしますね。


今後とも拙作を宜しくお願い致します。


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