第30話 閑話 スノーと幸村の雑談

俺と藍音が大学で必修科目の講義を受けている間の出来事。


​スノーと幸村は、普段は立ち入り禁止だが藍音の特権により許可を得た、教室の一番隅のスペースで、俺と藍音の講義が終わるのを待っている。


​幸村の衣装は、藍音が何故か持っていた子供用の浴衣を藍音が「武士っぽい」と喜んで着せたものだ。


スノーは、葵に作って貰った空色のワンピースを着ていた。スノーの真っ白い毛並みに合っていて、とはても可愛らしい衣装だった。


​今日のスノーは、その空色のワンピースを着て、控えめなティアラを光らせていた。


​その間、二匹の口はモグモグと忙しなく動いていた。 何故かって?それは、うちの大学の学生、特に配信をチェックしている女子学生から、お菓子やパンを大量に貰ったからだ。


どうやら、俺の配信を観てくれたコアなリスナーさんが大学内にもいたみたいで、二匹はちょっとした人気者になっているみたいだ。もちろん、配信を観てくれていない人も、二匹のあまりの可愛さに一目惚れし、献上品(お菓子やパン)を持って列を作っていた。


​深紅の武士と純白の姫。全くタイプの違う二匹のコボルトは、まるでアイドルのように、講義の合間に黄色い声援を浴びていた。


​そして今、二匹はもらったばかりの高級なクッキーとメロンパンを頬張っている。




(小声で)

​「モグモグ……ゴックン。ねぇ幸村」


​スノーは高級クッキーを丁寧に食べ終え、喉を鳴らしてから、冷静な口調で幸村に尋ねた。


​「何故貴方は、あんな危険なオークの階層に居たんですか?貴方のいた場所から、あの階層まではかなり距離があったはずですが」


​幸村は、両手いっぱいのパンをモグモグさせながら、至福の表情を浮かべている。


​「おっ、この○ッキーという菓子は旨いで御座るな。サクサクとした食感と、このミルクの濃厚さが堪らぬ」


​「ちょっと、私の話聞いていますか?」


​スノーは片耳をピクピクさせながら、少しだけ苛立ちを見せた。


「ちゃんと聞いてるで御座るよ姫。 某があそこに居た理由で御座るよな。 某は部隊を抜けて武者修行の旅に出てたで御座るよ。 そして偶々、あの魔物の吹き溜まりのような階層に来た時にオークの軍勢に囲まれてしまって、某も抵抗したで御座るが、多勢に無勢。 あえなく袋叩きにあったという訳で御座る」


​「そうだったんですね。 武者修行の旅にですか。 最近見ないと思ったらそんな事を……。 でも、私たちコボルトに武者修行って必要ですか?」


​スノーの質問は至極当然だった。


​「……何となく浪漫があるで御座ろう? やってみたかったで御座るよ」


​幸村の答えに、スノーは深いため息をついた。


​「……やっぱり貴方はアホですね……はぁ。 この武士口調といい、行動の衝動性といい、全く理解できません」


​「そういう姫こそ、何でお館様と一緒に居るで御座る? 某と姫は、今は同じお館様の仲間に加わった身で御座る。 姫の過去を詮索したいわけではないが、何故あの場所で倒れていたのか、仲間として聞いても罰は当たるまい」


​幸村の言葉に、スノーは頬を膨らませた。


​「……内緒です。貴方には関係ありません」


​「それはずるいで御座るよ。某の事を聞いておきながら姫だけ黙りは無いで御座る! 同じ仲間に加わった者同士、秘密は少ない方が良いで御座ろう!」


​「……分かりましたよ!言えば良いんでしょ言えば! 馬鹿にしないという約束ですよ!」


​スノーは観念したように周囲を見回し、さらに声を潜めた。


​「私は、少しお散歩のつもりでブラブラと歩いていたら、道に迷ってしまって。 そして不運か魔物に追い回されるし、探索者の皆さんに『珍しい色のコボルトだから倒して皮を剥げ』って、酷い言葉で狙われてボコボコにされてしまったんです。 命からがら逃げて、もう駄目だと思った時に翔真様と出会って命を救って貰ったんですよ。 私は命の恩人の翔真様に尽くす事を決めて一緒に居るんです」


​「……散歩で道に迷うって……姫、もしかして方向音痴で御座るか?」


​幸村はパンを食べる手を止め、顔を近づけて、ニヤニヤとした表情を浮かべた。


​「うっ!」


​スノーは一瞬、言葉に詰まった。


​「どうで御座ろうか姫?」


​幸村は容赦なく追撃する。


​「……ああ、もう! そうですよ! 方向音痴ですよ! それが何か!? だから言いたく無かったんですよ! 貴方に馬鹿にされるから!」


​「某は馬鹿になんてしてないで御座るよ(ニヤニヤ)。ただの事実確認で御座る」


​「いいえ、その顔は絶対に馬鹿にしてます!」


​「してないで御座るよ(ニヤニヤ)。 しかし姫が方向音痴だなんてwww。 姫は某の事をアホだと馬鹿に出来ないで御座るなwww」


​幸村は深紅の毛を揺らしながら、心底楽しそうに笑っている。 その笑い声は、講義中の教室の静けさに、小さくも確実に響いていた。


​「……カッチーン!……分かりました! 幸村、覚悟しなさい! 貴方の罪を数えなさいな! 燃えよ、私の小○宙よ!」


​スノーの瞳の奥に、怒りの炎が宿った。


​「ひ、姫!?それは本当にヤバいで御座る!! 某、今は丸腰で御座る故! 某、死んでしまうで御座る!」


​幸村は一瞬にして顔面を蒼白にしたが、時既に遅い。


​「問答無用!! ペ○サス○星拳!!(極小)」


​「ギャアアアアア!!」


​スノーと幸村が居る方向から、講義中の教室とは思えない、「バキッ」という結構大きな音がした。


​俺達はバッと後を振り向いたが、そこには何食わぬ顔をしたスノーが、皆から貰ったお菓子をモグモグと食べながら、何事もなかったかのように座っているだけだった。


​幸村が着ていた浴衣だけが、一瞬にして煤(すす)けたように見えたが、特に変わった様子は見られなかった為、俺達は気のせいだとして、講義に戻る事にした。


​……あれ?そういえば、幸村が居なかった様に見えたが気のせいか? いや、気のせいだろう。あんな音がしたんだ、どこかに吹き飛ばされたとしても、それはあり得ないだろう。


​俺は気のせいだと自分に言い聞かせ、目の前の難解な量子力学の板書に意識を集中させるのだった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


もし宜しければ コメント レビュー ♡ ☆評価を宜しくお願い致します。


おかしな点があれば指摘をお願いしますね。


今後とも拙作を宜しくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る