第29話 幸村の得物をチョイスする

次の日の朝。俺、藍音、スノー、そして新しく加わった幸村の四人(二匹)は、アパート近くにある早朝の公園に来ていた。


​俺と藍音は何故か上下グレーのジャージ姿だ。 特に意味は無いが、なんとなく「特訓!」という雰囲気を出したかったのかもしれない。


​で、今俺の目の前でスノーと幸村が二匹ペアになってストレッチをしている。 スノーは身体を柔らかく使って軽々と屈伸しているが、幸村は不慣れな様子で深紅の毛をプルプル震わせている。 何だかシュール極まりない光景だなぁ。


​二匹のストレッチが終わった頃合いを見て、俺は口を開いた。


​「じゃあ幸村、お前の戦闘スタイルを見せて貰おうと思う。 先ず、お前はどんな戦い方を今までしてきた?」


​幸村は深々と頭を下げる。


​「お館様も知っての通り、某コボルトゆえ噛み付きと爪で引っ掻くしかしていないで御座る。 それしか、知らぬで御座る」


​「やっぱりそうか。 まあ、仕方ない。 基礎体力と素早さの差は、スノーを見ていれば分かるだろう」


​俺は水を飲んでいたスノーに声を掛ける。


​「スノー」


​「はい。どうしましたか翔真様?」


​スノーは首を傾げ、ティアラをキラキラさせながら俺に近付いてきた。


​「幸村、よく見ておけ。 スノー、少しお前の戦い方を幸村に見せてやってくれないか」


​「分かりました。 では……」


​スノーはその場でキュッとファイティングポーズを取り、真剣な表情になった。


​「行きます!」


​「ヒュッ」と空気を切る音と共に、スノーは素早い動きでシャドーボクシングを始めた。 先ずは鋭い右のジャブ、そして流れるような左ジャブ。 時折、ワンツーストレートと、腰を入れたアッパーカット。 その動きを軽快なステップを踏みながら何回も繰り返し、フィニッシュには全身の体重を乗せた右のスマッシュを繰り出した。


​「はぁはぁ…こんな所でしょうか?」


​少々息を切らせながらスノーが答えた。 その動きの流麗さ、そしてスピードは、初めて見る者にとっては驚異的だろう。


​「ご苦労様スノー。ありがとう」


​「いえ、これ位はいつでも」


​「スノーちゃんお疲れ様♪ はいフカフカのタオルとキンキンに冷えた水ね」


​シャドーが終わったスノーに藍音が素早く駆け寄り、フェイスタオルとペットボトルの水を優しく手渡していた。


​「ありがとうございます藍音様」


​「どうだ幸村、お前にスノーがした動きは出来るか?」


俺はあんぐりと口を開けてスノーの動きを棒立ちで見ていた幸村にそう問い掛けた。 すると我に返った幸村が、まるで全身が拒否しているかのように全力で否定してきた。


​「無理で御座る! 某はあんな素早い動きは無理で御座るよ! あれは獣の域を超越している!」


​うん。何となく分かってた。 あの速度は、スノーの特有の動きだろうなと思っていた。


​とりあえず噛み付きと爪で引っ掻くだけでは地下に潜れば潜る程厳しくなってくるのが容易に分かるから、幸村にも何か異なる戦闘スタイルを憶えて貰う必要があると思うんだよな。


​う~ん。幸村に似合った戦闘スタイル……。 喋り方が武士みたいな感じだから……もしかしたら……。


​俺は思い付きで、たまたま(本当にたまたまだぞ)持ってきていた、修学旅行の時に買った木刀を幸村に差し出した。


​「幸村、もしかしたらお前、この木刀使えたりする?」


​「……やった事は無いで御座るが……やってみるで御座る。 では少々拝借して」


幸村は俺が渡した木刀を静かに受け取り、スッと構えを取った。


​こ、この構えは平正眼の構えじゃないか!?


​腰が低く、木刀の切っ先が相手の喉元を正確に捉えている。 武芸の素人とは思えない、無駄のない、完成された構えだ。 お、お前何気に格好良いなおい!


​幸村は呼吸をするように自然な動作で、払い、突き、切り上げ、切り下ろしを難なくこなしていく。


一連の動作には、力任せではない、計算された動きが見て取れた。


​……かっけー。 まるで新撰組みたいだ。幸村と名付けたが、名前のチョイス間違えたかな?


​刀が扱えるなら、もしかしてこれもいけるんじゃね?


そう思った俺は、竹で作った槍を幸村に渡した。


​「次はこれを使ってみてくれないか?」


​「何で竹槍なんて持ってるんだよ!」 と思った人もいると思う。 それは、高校生の頃に何となく「最強の武器はやはり竹槍」だと思い込み、休みの日に暇を持て余して作ったからだよ! しかも、案外出来が良かったからそのまま保管しておいただけだよ! そうさ!ああそうさ! 厨二病だったんだよ俺は! 何か文句あっか!? ……ええい、黒歴史を掘り返すな!


​「承知したで御座る」


​幸村は木刀を俺に返してから竹槍を持ち、両手でしっかりと握りしめる。


​「ふっ!」


幸村は地を蹴り、鋭い突きを放った。


すると突きを放った時に「ゴウッ」という音と共に、風圧が槍の前に飛んだ。まるで見えない刃が付いているようだ!


​その後幸村は、払い、突き、打ち上げ等を軽々とこなしていく。 その姿は、まるで戦場を駆け抜ける一騎当千の武将そのものだった。


​「ふぅ。こんな所で御座るか。 某は木の棒よりこっちの方が扱いやすいで御座るな」


​……成る程。 喋り方そのままで、幸村は刀術と槍術に長けているみたいだ。しかも、槍の方が動きがさらに洗練されている。


​これで決まりだな。 幸村の得物は槍と刀だ。メインは槍で、サブに刀を持たせる様にしよう。


「お館様、お返しするで御座る」


​幸村が竹槍を俺に返そうとするが、俺はそれを制した。


​「幸村、その竹槍はお前が持っておけ。 お前はその竹槍と木刀を使ってこれから戦う様にするんだ」


​俺はそう言って木刀も幸村に渡す。 すると幸村は、その二つの得物を両腕で抱えて、瞳を輝かせた。


​「お館様!! 有り難き幸せで御座ります!! この幸村、全身全霊を持って精進する所存で御座ります!!」


​まるで最高の宝物を与えられた子供のように喜んでいた。


​「幸村良かったですね。 これから私と一緒に頑張りましょうね♪」


​スノーが幸村にそう声を掛けた後、俺に向かってトコトコと歩み寄ってきた。


​「あの~翔真様? 出来れば私も武具が欲しいな~なんて思ったりして。 駄目……ですかね?」


​スノーはキラキラのティアラを光らせ、上目遣いで、袖をクイクイと引っ張る。


​……分かりました。そんな可愛いスノーの頼みだ。断れるわけがない。 スノーの為に藍音に頼んで、彼女の戦闘スタイルに合った『手甲』でも作って貰うとしよう。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


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今後とも拙作を宜しくお願い致します。

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