第四話 彼が特異体質

「なるほど...でぇ二手五口ってやつがいる?」


「...ああ、東王ズウ、朱(ズウ)はあいつは硬氣功の名手だ、さらにさっき言ってたやつらを部下に...あれだけの部下を携得ている。」


 「さっきって殺し屋とか?ゲルビダンとかも?」

 

「...ああ、“ゲルビダン”[(ヴグウンス語)訳として(“戦争屋”、“ウォーメイカー”)]

さっき言ったようにその部下の一人が四代目ガルゥン(訳:鴉、クロウ)...腕の関節が、人の口並みに器用で...別では五臂と十肢のヒバウズ(妖怪)って呼ばれている。」


「つまり有名だなぁ...」


「そうだ、ゲルビダン(戦争屋(ウォーメイカー)と呼ばれるほどにな。」

 (...にしても殺し屋に...軍隊...さらには頭が硬すぎて...不死身と...あとゲルビダンってなんのことだっけ...そこ教えてくれんの?)


 「まぁ、じゃ、東王...朱(ズウ)の情報をくれ。」


「知ってるのは硬さを利用して自分を飛ばすことを硬、氣功ミサイルと呼んでるだけだ。事実それぐらいの威力があるだろう」


 「ふーん、面白い。武器持ち、硬いやつも未経験だしいいね!」


 「案内しろよ、城下町、やってるんだろう。覇天王殺すのを。」


 「なっ!」


「大義とかなんとか知らないが、やりたいなら俺の言うことを聞けよ。」


 「レイ!」


「...わかった....なんでも聞こう....我が義に背かん限り...」


「随分偉そうじゃねぇか!奇声拳法野郎!」


 ざっ


「おい、ヤマ!レイ!大人しくしろ!」


 「あ、す、すいやせん...兄貴...」


「ふん」


 「なんだその態度は!!」


「落ち着きって!おい!レイ!お前もいい加減にしないと殺すぞ!!」


「好きにしろ...だがひとつ聞く...お前は誰だ...」


 「...俺もわからない...記憶がないんだ...目が覚めたら吐いている服がぴっちりして尻がよく見えるとかでプリケツマン略してピとかなった...が俺は誰か知らない...」


 「...」


「だが一つだけ言える、俺は強い、お前の技を瞬時に真似して超えるほどに。」


 「そうは認めない、速さではない...あれは速いとか、技の類いではない...私は認めんぞ。」


「どうでもいえ」


 「なんだこのやろう奇声マン!兄き」

「よせ!」


 「所詮は田舎もの、あとはなんなりと殺せ!」


「...教えてやる、おい!ヤマ!こいつが納得できるように俺がやる。俺たちがやる!」


「え!?」

 「...もう一回だ..もう一回見せてやる...俺の技を...速さでは決して身につかない...あとからくるのに先手をよる...」


 「え?後出しで先手って兄貴...?」


「決めるのはこちらになる、受け身の技なのに、決断は俺にある...ヤマ、お前が打って来い、レイがよく見えるように。」


 「ええ!兄貴に手出しはさすがに」


「やれぇ!!!」

ピの怒声がヤマの声を遮る。



ヒュ

 ヤマの喉が、ひゅ、と鳴った。


 ピの怒声が胸骨にまで響き、それだけで呼吸のリズムが狂う。もうやるしかない。


「再戦といこうではないか!ヤマ!」


 足裏の感覚が地面へ深く沈み、筋肉が蛇のように巻き上がり、ヤマは拳を握った。


 「……行きます。兄貴、すんません」


 返事の代わりに、ピはつまらなさそうに片手を上げ、ひらひらと振る。

 “来いよ、全部拾ってやる”——そんな態度。


 レイは横で腕を組み、瞳孔だけが異様に開いている。


(...?なんかの特技?)

それにピは気づいて不思議そうに眺めだす。

 (……見せてもらおう。後出しが先手を取る、その理を……)


轟ッ!

 ヤマは息を爆ぜさせるように踏み込んだ。

 一歩で地面が揺れる。

 二歩目で拳が風を裂く。


 ——最速の正拳。

 殺す気ではないが、強者なら骨を砕く威力。


 だが。


 ガチィン!


 ピの掌が、大空から落ちてくる鉄塊のようなその一撃を止めたまるで花でも摘むように、あっさり受け止めた。


 ヤマの全力を乗せた重みが、まるで空気。


散ッ!

 衝撃が拡散し、威力が地面へ流される。


 「……なっ」


 息が漏れた瞬間、ピがふっと後方へ重心をずらす。

 たった数センチの移動なのに、ヤマの次の攻撃方向が全部読み取られているように感じる。


 「まだだ!」


 ヤマは拳を引き、肘から捻りを増し、二撃目を弾丸のように放つ。

 脇腹、顎先、鎖骨、こめかみ、いくつもの狙い筋を即興で織り交ぜた——一瞬の連打。


 ドドドドドッ!


 だが、ピの身体が「回り始めた」。

先ほどの少しの動作の流れを繋ぎ止めたような不思議さ。

 最初は微細な回転。

 肩甲骨から、腰椎から、踝から、螺旋が連鎖して立体的な渦を作る。


 (……ベイゴマだ)

 レイが内心で呟いた。

 (重心が一個に潰れてない……向きが常に変わっている。死角が……ない)


 ヤマの拳が放たれるたびに、ピの腕・肘・手首の角度が微妙に変化する。

 その全てが、ヤマの軌道に「あとから」差し込まれる形でぶつかる。


「バカな!まさか!」


 ガチン! バチン! パキィッ!


摘む?

違う!


(そうか!あれはあれは!叩かれていまい!動きをずらして空気圧を利用して弾き飛ばしたか!手のひらの先に防御できる空間を歪みで作った!)

 

 受けているようで受けていない。

 止めているようで止めていない。

 ヤマの拳の進路を、ピが後出しで“潰している”。


 「うそだろ……俺の、拳が……全部止まる……?」


 ヤマの腕が痺れる。

 拳骨が割れそうな痛み。

 ピはまだ一歩も動いていない。ただ、腕や体を不思議に回転しているだけ。


 レイの耳に、ピの呼吸が聞こえた。


 スゥー……ハァ。


 その一定の呼吸が、回転の状態と完全に一致している。


「...がむしゃらじゃない...」

 呼吸が軸の芯、筋肉が軸の縄、骨格がくり抜いた木芯のように、ひとつの回りを維持している。


 (……打ち込むほど、相手の重心回転を助けるだけだ……!まさに武芸!)


 ヤマは三撃目の連打へ移る。

 今度は騙しをかけ混じり、足技、肘打ちも織り込む。

殴る寸前に軌道を変えて速度こそ落ちるもの対応もそれ以上にいる。

力を借りるだけであれば単調な軌道として、変形する技を受けきれまい。



 しかしヤマの身体には多関節式の“しなる打撃”が備わっている。


「おうぉ!」

ヤマの変化する拳。


彼はそれを“弱い化け物”と呼んでいる。


(死ね!ピ!)

 本来なら読み切れないはずだ——普通の奴には。


 だがピは。


 バンッ!


 返しの肘で軌道を潰し、


 ガツン!


 手首で角度を変え、


 ズッ!


 背中の回転だけでヤマの蹴りを外す。背中をぶつけた。


 コツッ。


 最後は指先でヤマの手甲を軽く弾いただけで、その拳を失速させた。


 全部、「後出し」。

 けれど先手のように完璧に潰す。


 レイは肌が粟立つのを止められなかった。


 (……後から打つとは、反応が速いという意味ではない……

  “回転”があるから、どこから殴られても迎撃の角度を作れる……

  攻撃側より、一手多い……その上で、選択権はあいつの側にある……)


 ヤマの呼吸が荒れ始める。


 「クソっ……てめぇ!……いいとこ見せられねぇのかよ……!殺す!」


 ヤマが最後の踏み込みをした瞬間、ピの足元の砂埃がスッと流れた。


 ピの身体が正面に戻る。


 「……終わり」


 そのたった一言の後、ピの拳がゆっくり、ゆっくりと前に出る。

 速くない。むしろ遅い。

 しかしその拳が触れた瞬間、ヤマの全身の関節が「逆巻き」に揺れた。


 ゴッ——!


 衝撃は一点ではなく、螺旋で入り込んだ。

 ヤマは地面に叩きつけられ、砂が爆ぜる。


 「——ぐはっ!」


 肺の空気が全部抜け、声にならない音が喉から漏れる。


「なっ!なんだその体!」

動きが奇怪すぎる。

 レイは理解した。

 (……受け身の技? いや、あれは……“最初から全部受けている状態”を作る技……

  攻撃が開始される前から、“迎撃の形が回転の中に用意されている”……)


(やつの特殊体質で、やつは特殊体質だ!だから勢いつけて体!腕を動かしてはさらにその流れを繋ぎ止めてたり!動かしてたり止めたり変えたりできる!そうか!)


 ピが回転を止め、退屈そうに腕を伸ばした。


 「……ほらな。後からでも先に触れるんだよ。

  別に速くない。お前らが遅いだけだよ」


 レイが噛みしめるように言葉を絞る。


 「……後手で……先手を取る、か……」


 ピは鼻で笑った。


 「お前らが勝手に殴りに来る分、選択肢は全部こっちにあるんだよ。

  俺はただ“どの路線を潰すか”を後から決めてるだけだ」


 「く、そ……」

 ヤマが起き上がりかけるが、腕が震えている。


 レイの中で、ある結論が形になる。


 (……俺の武術...が“速さ”の極致を求めるなら……

こいつは待ちかめる...いや、認識するもの、自分自身で判断をする。ただ変わりない速さではない、速さを変えている!

いわば可変の硬さ。

   こいつのは“可変の硬さ”、いや“運動硬度”……運動時にある硬柔度合い....

   攻撃の瞬間に硬くなるのではなく……

   攻撃を導くために硬さの角度を変えている……)


硬度、レイが言うそれは人が運動時にある体の肉のしなりであり、時には和らいだりして、時には硬くなっていき、打撃の頃合いで変わるなどを指す。

かくして武術においては様々であり、変える時刻も違う。

重要な要素。

 武芸を知るものであれば皆口を揃って言う。

筋肉の硬さを変えることこそ、何時(なんとき)も戦いにおいてはもっとも重要な物の一つである。

 

ならばこの技を使えるピは、ピはその本質をすでに掴んでいた。

戦いにおける本質が一つ、それを身についたと言うべきだろう。


速さとか、相手の動きとか関係ない。自分で最適を選ぶだけ、打撃の力点が変わりことはない。


ならばその全てを覆えるほどに体を準備しておけば良いと。


「ふぁぁ」

 ピは面倒くさそうにあくびした。


 「ほら、どうだ、それともまだ見たいか?」


 レイは考えこそ多いが何も答えられなかった。


「...」


沈黙



 ただ、“理解した恐怖”だけが場に残った。



 「わかった...確かに納得した...この技に関してはお前が上を行く....」


 「おお、やっとわかったか...」


「故に一つ頼みたい..」


「なんだ?」


 「この捕縛を解いてくれ...」

「いいぞ、ヤマ手伝ってくれ。」


「ええ....いいすけど...」


 「覚えてろよこのクソが!奇声野郎!」


「...」


「ヒャオ!ハ!」


轟ッ!

 「なっ!」


「止めたか...」


 「おい、ピ、目的は、何をしたい。」


「?俺?まぁ...今んところは悪いやつ、世間で言う悪いやつが気に入らないことあれば殴って倒す。」


 「そうか。」


「それがどうした?お前俺につくか?」


 「たわけ、あるかそんなこと」


「うそうそ、うそぉ!照れちゃって!」


 「...黙らっしゃい!私が貴様に礼儀作法並びに大義を教えてくれる!」


 「ヘイヘイ...ヘイヘイ...ヘイヘイイェイどうわぁ!」


 「っていきなりなになぐ!」


ザ ズサ


「うえい!奇声野郎のあほぼぉ!」

 レイの拳が顔面に直撃してはバタンと倒れていくヤマ


 ドッドっ

「貴様ぁ!それ以上踊るな!」


 依然としてレイの怒りを前にして踊り続けるピである。

「ヘイヘイホー!ホー!」


 「貴様ぁ!私を愚弄しおって!斬空!」


 「おい!やめろ!仲間だろ!」


「うわああ!」


 そうしてまた戦い、それは暫く続いた

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