第五話 通此比武以集当世好手
「天王だっけ」
「いや大王すよ」
「喧しい!」
ガン!
「おい!レイ!」
ドタ
「鎖筋の境を一瞬で到達した体、その筋骨は誉めよ。」
「おう、ありがとな。」
(いきなり話変わったな、まぁ変人だしこいつ。)
「だがしかし!世界で見ればその才能いくらでもある!」
「お....おう...」
「故に戦い方を弁明し、己が力を増やすべき勤勉に励むがよろし。」
「...そう。」
「...肉体か...」
「そうだ、次は音だ、動く時の摩擦音が雷鳴の如しあればすなわち、強者の入り口。」
「お前にはそれが」
「ふん、侮るな、肉が強さよりも気を高めしものであれば、技が全て。ただお前に合わせただけだ。」
「なるほど、まだ武術を隠していると。」
「そうだ。」
「そうだ。」
「ん?」
「お前が教えてくれ、レイ」
「...なんだピ?....にしても嫌な名前だ...」
「そうか?俺はプリなんとかの略称って聞いて気に入ったがこれが」
「うるさい、俺がつけてやろう、せめて...そうだ、フォンでどうだ。」
「……フォン、ね。悪くはないか。」
「だろう?ピだのプリなんとかだの、貴様に似合わん。強者は呼び名すら刃だ。」
「……いや、名前で斬れるかよ。」
「斬れるとも。名はまず“気”を整える。気が通れば肉は従う。肉が従えば――」
「はいはい、世界がどうとか言うんだろ。」
「言おうとしたのだが?なんだその先回りは。」
「さて、フォン。旅の間、お前には最低限の“基礎”を叩き込む。鎖筋の境、そのさらに先――強者の入口の、入口だ。」
「入口の入口かよ……。」
「いや待てよ?俺よりも弱いあんたがなんでこんなに先を」
「私は気だ、気を使う、お前のような筋骨系とは違う。」
「にしてもしゃあべりが」
「大王を目指す道だろう。そんなものだ。」
レイは歩き出してから、ふっと息を止めるように振り返った。
「それと……覇大王...へ行くのか。」
「行く。会わなきゃいけねぇ理由がある。名が欲しい…フォンがいやってわけでもない。有名になって俺の正体を知りたい。」
「....理由……まあいい。」
「だが覚悟しろ。覇大王、“あの男”はただ頭皮が光っているだけの大王ではない。」
(へぇツルツルなんだ....)
「ツルツルなのは...だ。それは“摩擦ゼロの肉”という意味でもある。」
「は?」
「お前と同じ筋骨系と思えば」
「....筋骨?」
「雷鳴の如き摩擦を纏う強者の対極だ。己の肉を、完全無音に沈めている。あれは……異常だ。」
「フォン。覇大王に挑む前に、まず“歩く音”を変えろ。お前の摩擦はまだ雑音だ。強者のそれではない。」
「……できるのか?旅の途中で。」
「迎えるまで長い、護衛すら多くいる。」
「できるんだな」
「できるとも。俺ならば、お前を強くできる。武術を隠しているのを言ったろうに。」
「今はその一つだけ教えてやる。」
レイは自らの胸を指一本で叩く。
骨が――まるで獣の雄叫びみたいに鳴った。
(虎?豹...?雷..?ゴロゴロする?奇怪な音がするな。」
「音は外じゃない。内側で決まる。次の一歩で、お前はそれを知れ。」
「……次の一歩?」
「そうだ。」
レイが指差す。
荒れた街道へ、風に砂の舞う一本道。
「行け、フォン。歩みで己を鍛えろ。」
「……なら、頼むぜ。師匠。ってあんたなにもコツ言ってないじゃん。」
「誰が師匠だ。俺はレイだ。」
「いやコツ教えろ!!!おいヤマお前もなんかいえ!」
「ビノブボボ!!!」
「あ...悪い....そういえば顔.....グシャんグシャンだったな....」
「....グ」
「喋れないか。」
(この構成でいけるか...?)
武装集団を再び倒した後、彼らは半分泣き、半分呆れた顔で道案内を買って出た。
「い、命は……助けてくれるんだよな……?」
「うわけむ」
荒野の風は、鉄粉と砂と血の匂いを運んでいた。
ヤマが足元で転がる鉄塊――つい先ほど叩き伏せた武装集団の砕けた外骨格を蹴ると、鈍い音がした。
「こげなべそ!ぐぞそう!(こんなくそ装備)ゲホぉ!!(咳」
「聞いたか!こんなくそ装備あったところで勝てんだろぉ!」
レイは叫ぶ二人を横目に、倒れた男の襟首をつまみ上げる。
「案内だけしろ。変な真似したら車ごとひっくり返す。」
「....なんで役割果たしてくれないやつに...」
それを聞いて首領らしき男が立ち上がり飛び蹴りをかました
「おい!この方々に謝罪しろ!ゴミカスが!!!」
震え声の男たちが差し出したのは、錆びた装甲の車。
動力機関は歯を噛みしめるように鳴り、荒野の砂を巻き上げて埋まっている。
「案内してもらうぞ。お前らの“街”までだ。」
「ひ、ひぃ……許しくれよ……!道さえ教えりゃ生かしてくれるんだろ……!」
「余計なことを言わなければな。」
脅しではなく、ただの事実として淡々と告げるレイに、武装兵は首を縦にぶんぶん振った。
ピン
そして、砂塵に半ば埋もれた彼らのを指さした。装甲板はひしゃげ、タイヤはところどころ弾痕で裂けている。
しかし、野盗や強者が跋扈するこの“覇大王領の外縁部”では、それでも貴重な足だった。
「カスが。」
車内にでも乗り込むと、エンジンは泣き叫ぶような音をあげながら起動した。
「おいヤマ!乗れ。歩くよりは百倍マシだぞ。」
「わかってる。……にしても、お前ら、こんなポンコツでよく襲ってこれたな。」
そう言って外骨格をてにmpつ。
「しょ、しょうがねえだろ……!強奪して塗り替えただけだ……!武装もなにも大王が俺らにこんな代物くれるかよ!」
「なるほど。弱さが滲み出てんな。」
ヤマがつまらなそうにそれを投げれば、運転していた武装兵は何も言えず肩をすぼめ、黙った。
「……ま、俺も便利だから乗るけどよ。もっとこう……かっこよさ?乗り心地?お前がいえば多分...あれだ威厳あるのが欲しいけど」
「威厳は強さに付属する。今乗ってるこれはただの雑魚の足だ。」
レイはそう言い、窓の外だけを見ていた。
(なに言ってんだこいつ)
車は荒野を走り出す。砂が後方に噴き上がり、太陽は赤鉄色に沈みかけている。
道なき道を進めば進むほど、景色は微妙に変化していった。
最初はただの荒れ地だった。
だがやがて、朽ちた建築物の残骸が点々と現れ、さらに進むと、金属製の監視塔、落書きまみれの貨物、取引と書かれた小屋などが散在しはじめた。
「ここらはな……覇大王様の“外門縁”。兄貴みてぇな武闘者も、荒事屋も、レイみたいなアホも皆ここ通っていくんだ……。」
「へぇ、お前もなんかないの」
沈黙
「おい!お前だ!」
「え?」
運転手の武装兵は思わずに自分を指差す。
「お前だよ!」
「はい、そうです」
武装兵の返事は震えていたが、嘘はなさそうだった。
「待て。」
レイは窓の外を見つめたまま呟くように言う。
「……徐々に濃くなっていくな。この空気、力の濃度だ。」
「え?わかるのか?」
「匂いだ。血、鉄、汗、そして“期待”。強者が一堂に集う気配は、遠くからでも感じられる。」
ヤマはそれを聞きながら口を尖らせた。
「そりゃまた便利な鼻だな、お前の嗅覚。」
「嗅覚ではない。“気”だ。強い者ほどそれを無自覚に撒き散らす。……ほら。」
「匂いの間違いだろ、気持ち悪いな。」
「....」
レイは不機嫌そうに眉を顰めた。
車がさらに進むと、今度は人影が増え始めた。
外骨格を肩から足までにつけて歩く武人、変異したのかよくわからない外見の獣を引きずる賞金稼ぎ、屋台で腕?義肢を売る商人、そして、奇妙に整った軍服の一団――。
ヤマは思わず眉を寄せる。
「おい、なんか急にまともな服着たヤツら増えてねぇか?あの外套、刺繍まで入ってるぞ。」
「布告隊です、覇大王...様の直営。です。」
人が多くなるほど、街の“輪郭”がはっきりしていく。
最初は廃墟の寄せ集めだった建物が、次第に整った鉄骨と石材に変わり、街路に灯る光源には炎か、炎らしき存在が揺れ、道の幅も広がっていく。
(広くなればなるほど...街って、人がいるって感じはするな)
次第に荒野の匂いより、酒の匂い、人の体温、食い物の匂いが勝り始める。
そして――さらに奥へと進んだ時だった。
急に、視界が開けた。
人の密集、騒音、活気、怒号、交易、闘い、笑い……。
「闘いの音って物騒だなおい」
今までの荒野の静けさが嘘のように辺りがうねり始めた。
ヤマが思わず声を漏らす。
「……何だよ、ここ……人、急にたくさんかよ……。」
武装兵は喉を鳴らした。
「ここが……“前街区”だ……武闘者も商人も全部、ここを通る……。近くじゃ有名なひとつだ。」
レイは静かに息を吐いた。
「ならば目的地はすぐだ。降りるぞ。」
車から降りた瞬間、熱気が肌にまとわりつく。
「殺せ!やれ!」
人々は武器を担ぎ、傷を誇り、声を張り上げ、腕試しの短い乱闘があちこちで起きていた。
「ん?あれは..?」
通路の真ん中でひときわ目立つ一団が目についた。
豪奢な布で縁取られた台の上。
刺繍入りの外套をまとい、光沢のある手袋をつけた男が立つ。
その胸には、巨大な龍の紋章。
男は深呼吸し、腹の底に力を込め――
街全体に響く声を解き放った。
「さらに聞けい!覇大王さま主催――!」
ヤマが思わず耳をふさぐほどの声量だった。
「――『通此比武以集世好手』!
ここに、開催なさるッ!!」
街は一斉に沸いた。
怒号、歓声、武器を打ち鳴らす音、人のざわめき、強者の咆哮が重なり合う。
「今年も始まったか!」「覇大王様直々だぞ!」「出ろよお前も!」「いや死ぬわ!」
レイは静かに目を細めた。
「……なるほど。雑な名だ、性格が読める。というかこいつ、学がなさそうだな。」
「いや、あれ名前なのかよ。内容をそのまんまタイトルにしてねぇ?」
ヤマのツッコミに、レイは肩を竦めた。
「言葉を飾らぬ者こそ強者、というわけだ。
“来られるものは来い、名手よ集まれ”――それ以上でも以下でもない。」
外套の布告官は続ける。
「腕に覚えある者はすべて参加を許す!富、名誉、栄達、覇大王様の御眼前で手にせよ!
己が武を証明したき者、前へ、前へ進めいッ!!」
「遅れたがこれを聞けるなんて!!!」
人々が押し寄せ、布告台の下には列ができ始めていた。
通行証、闘士登録、賭場の申し込み……混沌と秩序が入り混じる“強者の入口”だ。
「慌てるなぁ!!再びの宣告だ!まだ余裕はある!!」
「名だたる猛者よ、強さを証明せよ!
富を求む者は来い!
名声を求む者は来い!
覇大王はすべてを見届ける!!」
「うぉおおおお!」
「なぁ」
ヤマがレイを見る。
「……どうする?行くのか。」
「行く。当然だ。」
「お前がきめんな、兄貴どうしますか?」
レイはヤマの胸を指先で軽く押す。
「お前が聞いたはずだろう、ヤマ。まぁ、覇大王に近づくには、この大会を通るのが一番早い。」
「……まじか。」
「恐れるな。フォン!お前はすでに“入口の端”には立っている。あとは踏み出すだけだ。」
「おう」
街の喧騒はさらに増し、遠くでぶつけ合う一団が小規模な爆発を起こしている。
「殺せ!!!殺せ殺せ殺せ!捻り潰せ!」
「....」
強者の匂い。富の匂い。血と鉄の匂い。
あらゆる欲望と殺意が渦巻くこの場所
「実にいやである。」
重い思いを吐き出すように、フォンこと我らがプリプリ野郎は一度だけ深く息を吸い、叫び声と喧騒の中心を見据えた。
「……よし。行くか。」
レイは静かにうなずいた。
「通此比武以集当世好手――あたりを見れば....強者が集う場だ。」
「ここを越えねば、覇大王の“姿すら”拝めん。」
二人は人波の中へ足を踏み入れた。
「声もなる」
「本大会にて勝利後した猛者には何でも我らが大王がくれる!」
覇大王の元へ向かう、その最初の一歩として。
二人の足の先は。
「何にぃ!!!!予選の予選の序戦がまだあるとぉおおお!!!」
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