再結成パーティと、斬鉄のブラッディベア再戦〜
新たな刀と再会
究極の刀を腰に携えたヒカリは、鍛冶ギルドを出ると、すぐにブラッディベアへの再挑戦を決意した。単独で挑むことも考えたが、リーネの忠告とブラッディホーク戦での経験から、強敵相手には連携が必要不可欠だと悟っていた。
彼はすぐにグレイとアミーに連絡を取った。二人は快くヒカリの誘いに応じてくれた。
「ブラッディベア討伐ですか!ヒカリさんなら、今の刀があればきっと大丈夫ですよ!」
アミーは励ました。
「俺はモンクとして、ブラッディベアの攻撃を必ず引きつけてみせます。今回は5分チャージも狙えますね!」
グレイはやる気に満ちていた。
ヒカリの腰には、初期装備とは比べ物にならない、漆黒の鞘に収められた『斬鉄の刀』が差されている。
「ありがとうございます。今回は、あなたたちのおかげで、最高の武器を手に入れました。俺の役割は、確実に一撃で仕留めること。あなたたちの力を、存分に使わせてもらいます」
6層ボスの扉前
三人は、再び『無限の宝物庫』へと潜った。ヒカリは3秒居合で雑魚を瞬殺し、グレイが周囲を警戒する。アミーは万全の体調を維持するために常にバフと回復を準備する。完璧な連携だった。
そして、彼らは迷うことなく5層を突破し、ブラッディベアが待ち受ける6層ボスの扉の前に足を揃えた。
目の前にそびえるのは、ヒカリが前回、横取り犯に邪魔され、空虚な5分チャージを終えた因縁の扉だ。
ヒカリは静かに刀の柄に触れた。斬鉄の刀の柄は、ヒカリの手に吸い付くように馴染んでいる。
「この扉の奥にいるのが、初心者潰しのブラッディベア。あいつの毛皮と筋肉は、普通の居合斬りじゃ断ち切れない」
ヒカリは冷静に情報共有した。
「ですが、俺の刀は、あの鉄壁を打ち破るために、古の勇者の知恵と、俺の覚悟を込めて作られました」
燻製チーズと、Sランクの証明
グレイは拳を構え、深く呼吸した。
「俺が、全力で引きつけます。アミーさんのバフがあれば、前回ブラッディホークにやったように、5分間耐えることも不可能じゃない」
アミーは静かに頷き、バフの準備を始めた。
「私は全力で、グレイさんの耐久力を上げます。ヒカリさん、心置きなく最大集中をしてください」
ヒカリは、二人を見つめた。単なる利害関係だけではない、信頼の絆がそこには生まれていた。
(ブラッディベア。お前の鉄壁は、俺のSランク居合斬りのゴリ押しを否定した。だが、俺は最高の武器と、最高の連携を手に入れた)
ヒカリの脳裏に浮かぶのは、ブラッディベアの首を切断するイメージではない。その先に待っている、タマキが作ってくれる最高の燻製チーズの味だ。
「よし。行こう」
ヒカリは、刀の柄に親指をかけ、静かに構えを取った。
グレイが重い扉を力強く押し開ける。
奥には、彼らの再戦を待つように、巨大な黒毛の熊、ブラッディベアが静かに座っていた。
ヒカリのSランクの力が、斬鉄の刀を得て、ついに「初心者潰し」という名の壁に、再び挑む時が来たのだった。
ブラッディベアの猛攻開始
グレイが扉を押し開け、ヒカリ、グレイ、アミーの三人が6層のボス部屋に足を踏み入れた瞬間、ブラッディベアが低い咆哮を上げた。その唸り声には、前回ヒカリに浅い傷をつけられたことへの怒りが込められている。
「グレイさん!お願いします!」アミーが叫ぶ。
アミーはすぐに【エンデュランス・ブースト】と【パワー・フォーカス】のバフをグレイにかけ、ヒカリは刀の柄に手をかけたまま、5分チャージの準備に入った。
グレイは間髪入れずにブラッディベアに向かって突進し、【恨みの波動】を発動。
「ガアアアアッ!」
ブラッディベアの赤い眼光が、すぐにグレイに集中した。巨体はその重さを感じさせないスピードでグレイに迫り、強烈な前足の攻撃を仕掛ける。
グレイはバフで強化された身体で、その一撃を受け止め、ブラッディベアをその場に引き留めることに成功した。
「よし!ヒカリさん、チャージを!」グレイが叫んだ。
チャージタイム:1分経過。
全体範囲攻撃の予兆
ヒカリは、グレイとアミーの連携が生み出した時間を利用し、全神経を刀に集中させた。
(ブラッディベアは、このままグレイさんを倒しきれないと判断すれば、必ず広範囲攻撃に切り替える。その隙を、回避ではなく離脱に使う!)
ヒカリが予感した通りだった。ブラッディベアは、グレイへの連続攻撃を諦め、突如として巨体を地面に押し付け、低い唸り声を上げ始めた。
「まずいです!全体範囲攻撃の予兆です!」
アミーが警告する。
ブラッディベアの足元から、赤い魔力が地中へと染み込んでいくのが見えた。
「これは、床から棘を生やす攻撃だ!範囲が広い!アミーさん、グレイさん、一旦後退してください!」
ヒカリが叫んだ。
グレイとアミーは、すぐにブラッディベアから距離を取ろうとするが、攻撃の速度は速い。
チャージタイム:2分経過。
ドゴオオォォォン!!
ブラッディベアが大地を叩きつけた瞬間、三人の足元を含めたボス部屋の広範囲から、岩石と魔力が混ざった鋭い棘が、凄まじい勢いで突き出してきた!
離脱の回転回避
グレイは瞬時に防御体勢を取り、アミーも回復と防御魔法の準備に入った。しかし、ヒカリの居る位置は棘の発生源の真上だ。
ヒカリは、チャージを続けるか、回避に専念するか、極限の選択を迫られた。
(避けるためにチャージを解くのは最悪だ!リーネ師範代との特訓を活かす!)
ヒカリは、チャージを続行したまま、咄嗟に最短3秒チャージで得られる瞬動を、棘が突き上がる0.1秒前に発動させることを決断した。
刀は鞘に納まったまま。チャージタイム:3分突入。
『居合斬り・瞬動(離脱)』
シュッ!ドオォォン!
ヒカリは、刀を抜かずに加速の力だけを使い、棘の発生範囲から脱した。棘はヒカリが立っていた場所を無情に突き抜ける。
ヒカリは、瞬動の勢いを殺すため、前回リーネとの特訓で習得した急回転を使い、身体を制御した。
くるり、くるり。
ヒカリは高速で回転しながら反動を殺し、回転が止まるのと同時に、再び5分チャージへと集中力を戻した。彼の視線は、一瞬もブラッディベアから離れていない。
「な……すげえ!」グレイが驚愕の声を上げた。
ブラッディベアは、広範囲攻撃が当たらなかったことに苛立ち、再びグレイへと注意を向けた。その隙を逃さず、グレイは【恨みの波動】を再度発動。
「まだだ!ヒカリさん、行けます!」グレイの叫びが、ヒカリの集中をさらに深めた。
ヒカリの身体は、すでにブラッディベアの全体攻撃すらも、「居合斬りのための離脱の機会」として利用できるレベルにまで適応していた。
時間経過と雑魚の乱入
ヒカリがブラッディベアの全体攻撃を躱し、再び5分チャージに集中を戻してから、さらに時間が経過した。グレイとアミーの連携は完璧だったが、ブラッディベアは頑強で、グレイへのヘイト集中を途切れさせない。
チャージタイム:3分30秒経過。
「グレイさん!回復します!」アミーが必死に回復魔法を重ねる。グレイは既に全身傷だらけで、アミーのバフと回復がなければ、とっくに倒れていただろう。
その時、ボス部屋への扉が開く音が響いた。
「まずい!時間経過で、下の階層の雑魚が流れ込んできた!」
グレイが叫んだ。
扉から、5層でヒカリが狩り尽くしたはずのオークと、2層のゴブリンが数匹、続々とボス部屋へと乱入してきた。彼らは、ボス戦の魔力の波動に引き寄せられたのだ。
「雑魚のヘイトも取れない!アミーさん、回復に集中してください!」
グレイが叫んだが、ブラッディベアを引きつけている彼には、乱入した雑魚を処理する余裕はない。
乱入したオークとゴブリンは、真っ先に魔法使いであるアミーに向かって突進した。
逃げながらのチャージ
チャージタイム:4分00秒経過。
「くそっ!」
ヒカリは歯噛みした。今チャージを解けば、グレイとアミーのこれまでの努力、そして自分の4分間の集中が全て無駄になる。
ヒカリは、チャージを維持したまま、納刀した刀の柄を握りしめ、アミーに向かって突進するオークとゴブリンから目を離さなかった。
「【無の回避】!」
ヒカリは、チャージを維持したまま最小限の動きで左右にステップし、アミーに迫る雑魚の攻撃を自分の体で引き受けながら、アミーを守る。
だが、ヒカリは納刀したまま。彼が動けるのは、一撃の居合斬りか、その反動を利用した瞬動による離脱のみ。
(納刀の隙を晒せない!だが、雑魚を放置すればアミーさんがやられる!)
ヒカリは、雑魚の攻撃を受けながらも、チャージを維持するため、部屋の中を絶えず動き回ることを強いられた。その動きは、まるで絶えず舞い続ける居合の予備動作のようだった。
タンクの限界とモンクの悲鳴
ヒカリの動きに気を取られた一瞬。
ブラッディベアの猛攻が、ついにグレイの防御を破った。
「ぐあああッ!!」
ブラッディベアの巨大な爪が、グレイの肩を深々と切り裂いた。グレイの身体が大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。【エンデュランス・ブースト】も解除された。
「グレイさん!」
アミーが叫び、ヒカリも反射的にグレイへ目を向けた。
ブラッディベアのヘイトが、一気にヒカリとアミーの二人に分散した!
ブラッディベアは、重い体を起こし、ヒカリに向かって一歩踏み出した。
ヒカリは、迫るブラッディベアと、アミーを襲う雑魚の二方面から攻撃を受けそうになっていた。
チャージタイム:4分30秒経過。
(くそっ!この状況で、あと30秒も集中を維持できるか!?)
グレイは、壁にもたれかかり、震える手で拳を握りしめた。彼はヒカリの5分チャージの重要性を理解している。
「ヒ、ヒカリさん……!俺を、トリに使ってください……!とにかく、5分を……!」
グレイの目には、涙と決意が滲んでいた。ヒカリの「ゴリ押し」は、仲間の「命懸けの覚悟」を要求する状況にまで追い込まれていた。
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