師範代の試射と、唯一の弱点〜


居合斬りの初披露

ヒカリは特訓ギルドの受付で、リーネの特訓を申し込んだ。驚く受付をよそに、リーネは静かにヒカリを特訓エリアの中央へ招いた。タマキは訓練場の隅で、ヒカリの無謀な挑戦を心配そうに見守っている。


リーネは弓を構えながら、静かに尋ねた。

「アサクラ・ヒカリ君ね。タマキから話は聞いているわ。あなたのスキルは【居合斬り】ただ一つ。そして、その力で私の矢を避け、その後の隙を突く技術を磨きたい、と」 


「はい。お願いします。ただし、俺の居合斬りはチャージが必要です。まずは、俺の最速の攻撃を試してもらえますか?」


「最速、ね。やってみなさい」


リーネは余裕の表情で弓を構えた。彼女にとって、チャージが必要な一撃など、避けるのは容易いことだと考えているのだろう。


ヒカリは目を閉じ、刀の柄に親指をかけた。


チャージタイム:3秒開始。

リーネはヒカリの微動だにしない姿を見つめる。そして、3秒が完了した、その刹那。


シュウッ!ドォン!


Sランクの居合斬りが炸裂した。空間が切り裂かれるような轟音と共に、ヒカリは光の筋となって、リーネに向かって一直線に迫る。


リーネの顔から、一瞬にして余裕が消えた。


(速い…!予想の三倍は速い!これでは、初見の者は反応できない!)


リーネは、長年の経験と反射神経だけで、かろうじて身を捻り、ヒカリの刀を紙一重で避けた。ヒカリの刀は、リーネの真後ろの訓練場の壁を深々と断ち割った。


ヒカリは即座に納刀し、リーネから数歩離れて体勢を立て直す。


訓練場にいた他の特訓生や、見学していたタマキでさえ、その速さに言葉を失っていた。


「……これが、あなたの最速の攻撃。噂に違わぬ速さだわ。普通の魔物なら、骨まで両断されているでしょうね」


リーネは息を整えながら、ヒカリを評価した。


師範代の指摘


「では、次は私の番よ」


リーネは静かに弓を番えた。その矢には、うっすらと緑色の魔力が纏われている。


「あなたの狙いは、納刀後の隙を狙う私の攻撃を躱すことね。しかし、その前に一つ言っておきたいことがあるわ」


リーネはヒカリに向けて矢を放った。矢はヒカリの背中を狙い、『風纏いのホーミングショット』として軌道を曲げながら迫る。


ヒカリは、間一髪で『無の回避』を使い、最小限の動きで矢を躱した。


「今のは、私の本気のホーミングではない。でも、今の回避で気づいたでしょう?」


リーネは弓を下ろした。


「あなたの居合斬りの真の弱点は、納刀後の隙ではないわ」


ヒカリは息を呑んだ。


「あなたの弱点は、居合斬りを発動する直前、そして発動した瞬間にある」


リーネは訓練場の壁を指さした。ヒカリが最速で斬りつけた跡が、深く残っている。


「あなたがチャージを始めた瞬間、あなたの周囲の空気が変わる。そして、抜刀する刹那、刀が空間を切り裂く音が鳴る。あなたが最速の3秒で放ったとしても、私たち経験者には、その『音』と『空気の変化』で、攻撃の『軌道』と『タイミング』が、一直線だと丸分かりなの」


リーネは静かに言った。


「その一直線の抜刀で、正面から受け止める準備をされると、あなたのSランクの力も分散させられる。そして、あなたの居合は一撃しか使えない。一度受け止められたら、あなたは無防備なまま納刀の隙を晒すことになるわ」


ヒカリの顔から血の気が引いた。


「私があなたの敵なら、わざと初撃を避け、あなたが納刀するのを待ってから、確実にカウンターを放つわ。居合斬りしか扱えないというのは、一度外したら終わりという意味なのよ」


ヒカリは、リーネの厳しい指摘を受け止め、刀の柄を強く握りしめた。彼のゴリ押しは、Sランクの力だけでは、強者には通用しない。


真正面からの一撃では、いずれ誰かに止められる。

彼は、この難攻不落の弱点を克服しなければ、タマキが作る燻製チーズを食べるどころか、『無限の宝物庫』にすら挑めないことを悟った。

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