見習いコックの特訓と、エルフの師範代〜


調理と狩りの二足のわらじ

ヒカリはタマキの忠告を受け入れ、彼女に連れられて特訓ギルドの巨大な建物の前に立っていた。


ヒカリは尋ねた。

「ここが特訓ギルドか。レベルは選べるんですか?」

 

「せや。特訓ギルドでは、訓練相手や難易度を師範代、師範、達人、覇者の四つのレベルから選べるんや。アタイもたまに来るで」


タマキは自身の胸元の調理ギルドのエンブレムを指差した。


「アタイもシルバーコックになるには、新しい食材の調達や、未知の魔物から高品質な部位を狩る技量が必要やからな。昨日アンタがポテト食べた後、アンタの評判がギルド内で騒がしくなってたから、心配でついてきたんや」


ヒカリは納得した。タマキは食材確保のためにソロで採取や狩りに出ているらしい。


「タマキさんは、どうやって戦うんですか?調理スキルばかりだと、危険じゃないですか?」


タマキは腰に提げた弓を軽く叩いた。

「アタイは弓矢使いや。遠距離から迎撃するんが基本やけど、スキルツリーのほとんどを『調理スキル』と『採取スキル』にブッパしてるせいで、攻撃スキルはほんのオマケ程度や」


彼女は続けた。

「ダンジョンも完全にクリアせんと、ある程度時間が経ったら来た道を引き返すだけで安全に帰れるんや。だから、アタイはいつも危険を侵さん程度に、食材だけを狙って帰ってくる。でも、たまには強敵に遭遇するから、技量を上げるためにここに通っとるんや」


ヒカリは感心した。

「なるほど。美味しいご飯を作るのも、命懸けなんですね」


師範代クラスの見学

ヒカリは、タマキに同行してもらい、まずは自分の限界を知るために「師範代クラス」の特訓を見学することにした。


受付で許可を得て、二人が訓練場へ入ると、そのエリアは緊張感に包まれていた。師範代の特訓は、単なる基礎訓練ではなく、実戦に近い形で行われる。


タマキが小声で解説する。

「師範代は特訓ギルドの中でも、高い実力と経験を持つんや。アタイも、師範代に勝てたことはまだないな」


訓練場の奥で、一人の人物が静かに弓を構えていた。スラリとした長身に、流れるような金色の髪。耳の先端は尖っており、特有の優美さを纏っている。


エルフの弓使いだ。


「あれが、師範代のエルフの弓使い『リーネ』や。彼女の弓は、風を操って獲物を追尾するホーミングショットを使う、厄介な相手やで」タマキがヒカリに耳打ちする。


ヒカリは、リーネから発せられる集中力と、洗練された剣士のような雰囲気に、思わず刀の柄に手をかけた。


(これが、プロの戦い方……。俺の居合斬りの一直線の軌道が、どれだけ通用しないか、よく分かる)


タマキはヒカリの様子を見て言った。

「どうや、怖くなったか?アタイはポテト代を出すから、まずはブロンズコックの料理を堪能するだけでもええと思うけどな」


ヒカリは首を振った。

「いいえ。彼女のホーミングショットは、俺の納刀後の隙を狙うカウンターに最適だ。俺の居合斬りをさらに進化させるための、最高の壁です」


ヒカリの瞳には、すでにリーネのホーミングショットを、自分の最短瞬動で回避するイメージが描かれていた。そして、その訓練こそが、後にヒカリが最短居合の反動を経験する場となることを、彼はまだ知る由もなかった。


「タマキさん。俺はあの師範代と特訓します。燻製チーズ、楽しみにしていますね」


決意を固めたヒカリの言葉に、タマキは驚きながらも、どこか嬉しそうに頷いた。

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