第2話
「は...?」
ふと気が付くと、純白の世界にいた。
俺から漏れ出た声が、この世界に反響する。
ここがどこなのか。悪夢かと考えるも、無理やりにでも理解させられる。
感覚が、意識が、否定する。
まさしくここは、悪夢でもなんでもないと。
現実、なのだと...。
何故ここにいるのだろう。ここに来る前は何をしていたのだろう。
思い出そうとするもぼんやりとしか思い出せない。
まるで小さい頃にみた深夜アニメのように、物語は何となく覚えているが、どんなキャラがいて、どんな関係性だったのか忘れてしまっている。そんな感じ。
俺なのに、俺じゃないような違和感。
考えすぎたからか頭が痛くなってきた。これ以上は考えないほうが良いと警鐘をならすかのように。とりあえず気を紛らわせるとする。
軽く走ってみた。景色は変わらない。純白な真っ白の世界まま。
大きな声で叫んでみた。誰からも返答はない。こだまする自分の声のみ。
適当にとりあえず一通り試してみたが、何も変わらなかった。
少し疲れた。そう思い、その場に座り込む。
ぼーっと座り込んでから、どのくらい経っただろうか。
座るのも疲れた。ちょっと横になってみる。
目の前に広がるは相も変わらず真白な地平線。するとどうだろう、徐々に瞼が重くなってきた。
...
......。
「ねぇねぇ、ここでナニしてるの?」
聞いたこともない、どこか驚きを含めたような少女の声が聞こえ、飛び上がる。
そこには白い布だけを身にまとった10歳程度の女の子が、じっと、何かを観察するように、こちら見つめながら立っていた。
おかしい、今まで俺しかいなかったはず。それはまるで、どこからか瞬間移動してきたかのように、急に現れた。
「え、いや。特になにも」
「ふーん...。気になる?ここがどこか」
全てを見通すような透き通る水色の瞳が、こちらをじっと見つめてくる。
人間離れした綺麗すぎる瞳。まるで人形なのではないかと思うほどの。
全身から鳥肌が立ち、喉が急激に乾く。
感動?驚嘆?興奮?いや、そんな素晴らしいものではない。単純な恐怖。
何に対する恐怖なのかはわからない。
カラカラに乾いた喉へ、何とか作り出した唾を飲み込み湿らし、なんとか頷く。
「ここは、神界。君は今から生まれ変わる。」
初めてあったはず。なのに少女は、先ほどと打って変わってどこか悲しそうに、そして辛そうに伝えてくる。
分かりやすく。だが、言葉足らず。
言っている言葉は分かる。しかし意味が分からない。
認識している。しかし理解が出来ない。
ただただ俺は、いつもと変わらない、なんの変化もない一日を過ごしていたはず。授業中に寝てさぼったり、食堂で○○と過ごしたり。時折隣のクラスから○○がやってきて、ちょっかいをかけてきてはすぐに帰るだけ。
何度同じような日を過ごしたか分からないほど、代わり映えのない日だった。
だが、思い出せない。一緒に過ごしてたのは誰?顔も、名前も。
学校が終わったあとに俺は、俺は...。
思い出せない、何も思い出せない。
この純白の世界に来てから何度も思い出そうとしたが、今現在に至るまで思い出せない。
これは以上ダメだと、警鐘を鳴らすように頭痛が酷くなっていく。頭が割れるように痛い。しかし一度思考の渦に飲み込まれ、囚われて、抜け出せなくなってしまった。
グルグルと、色々な記憶が頭の中を巡る。
中学卒業の日、 保育園に入園した日、いつかの誕生日の日、初めて立った日。
しかしやはりどれも、俺以外の登場人物の顔や声、名前が何一つ思い出せない。
思い出せない、思い出せない、思い出せない......。
「大丈夫、落ち着いて」
生きているのか心配になるほど冷たく、何が出来るのかと思うほど小さい掌で、少女は俺の顔を優しく包み込んできた。
どこからか湧いてくる、恐怖、痛み、不安、悲しみ、怒り、孤独。それら負の感情が、一瞬にして無くなった。自然と瞳から零れ落ちる涙。
その涙が示すは何か、わからない。分かりたくない。
「思い出さなくていい」
少女はこぼれ出た涙を優しく拭き取った。
「無理しなくていい」
少女はその小さな体で優しく包み込んできた。
「大丈夫。私が、守ってあげるから」
少女は誘惑するように耳元で囁いてくる。
俺はただ、泣きながら頷くことしかできなかった。
分からないことしかない。だからこそ目の前の、分かるものに縋ってしまう。
なんと心の脆いことか。
これほどまで小さき少女にまでも頼らないと壊れしまう自分が、自分で嫌になる
「次こそは、大丈夫だから」
「失敗、させないから」
今までの少女の雰囲気はより後悔のような、悲しそうな声色が色濃く乗っていた。
その時だった。俺の身体が光りだす。
特にこれと言って何かした訳ではない。ただ、何だか疲れた。
俺にはもう抵抗するような気力は残っていない。
ただただ静かに、受け入れる。
光の輝きが強くなるほど、少女の包み込んでくる力が強くなる。
もう絶対、離したくないという思いが伝わってくる。
目が開けないほど、閉じてても瞼を通して眩しく思えるほど光はより一層強くなる。
それと同時に、意識が段々と薄れていく。
あぁ、そうか。君は...。
...
......。
「愛してる」
少女のその言葉を最後に、俺は意識を失った。
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