誰が為の騎士
神宮絵馬
第1話
ピピピピ!ピピピピ!
俺、佐藤一玄(さとうかずはる)は、耳元で鳴り響くアラーム音で目を覚ます。
スマホの画面には7時30分の文字。
「あー、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ...」
部活をやってない所謂帰宅部の俺は、特別朝早く起きる必要がなく、最悪8時までに家を出れば間に合う。しかし7時50分に友達が迎えにくる。だから支度の時間も考え10分後にアラームを再設定し、目を瞑る。
...。
......。
トントン
「起きてる?ともや君が来たわよ」
もう少しで寝られそう。そんなタイミングで母親が扉越しに伝えてくる。
俺はその声に慌てて起き上がりスマホの画面を見る。
アラームが鳴った記憶も、止めた記憶もない。しかし画面には7時50分の文字。
「やっべ」
時間的に学校には余裕で間に合う。しかし友達を待たせてしまうことに、反射的に声が漏れ出ながら慌てて起き上がる。
慌てて壁に掛けてある制服に着替え、ちょっとした寝ぐせは軽く水で濡らしなんとか直す。歯磨きをしている時間なんてない、いや、面倒くさい。だからマウスウォッシュでいつも通り簡単に済ませる。
ここまでで3分。男の支度なんてこんなもんだろ、と思いながら玄関に常に置いてある鞄を持って家を出る。
玄関を開けて外に出ると、やや茶色帯びたオシャレにワックスをかけたツーブロックヘヤーの男、小林智也(こばやしともや)がスマホを弄りながら玄関前の階段に座り込んでいた。
「ごめん、待たせた」
俺がそう声をかけると、智也はスマホをポケットに入れながら立ち上がる。
身長は俺よりもやや高く運動もやっていることから筋肉質のため、立ち上がると少し見上げる形になる。
「全然待ってねぇから大丈夫よ!」
元気に答えてくる智也に感謝しつつ、智也と供に歩き出す。
家から学校までは約20分程度。距離的に自転車通学が良いのだろうが、智也と話しながら登校するとなると徒歩の方が都合がいい、あとは智也の勧めで運動不足解消のために徒歩で通学している。
10分程度住宅街を歩くと大通りにでる。徒歩や自転車など同じように登校、出勤している人達を横目に見ながら、変わらず歩きなれた道を智也と雑談しながら歩く。
学校がすぐ目の前というところで赤信号に引っかかった。
いつもこの信号で引っかかるんだよなぁ、と思いながらも雑談しながら信号を待つ。
「おっはよー」
徐々に信号待ちしている人が増えうるさくなってきた時、後ろから聞きなれた声が聞こえ二人で振り返る。
そこには俺たちと同じ制服を身にまとい、長く伸ばした黒髪をゴムでまとめ、女性にしては身長が高めのスラっとしたボディーラインをしている女性、新川和葉(あらかわかずは)が数名の友達と供に立っていた。
「おはよ、相変わらず朝から元気だな」
「そういうカズ君は元気がないねぇー、寝起きかな?寝ぐせが直ってないぞー!」
和葉は軽く背伸びしながら、髪の毛を触ってくる。どうやら直ってない寝ぐせがあったようだ。ニヤニヤしながら触ってくる和葉を鬱陶しく思い、遠ざかけるように首を軽く横に向ける。するとそこには、同じようにニヤニヤしていた智也が立っていた。
「なんだよ、寝ぐせ直ってないなら教えてくれてもいいだろ...」
「そういうことじゃないんだが…。すまんすまん!可愛くぴょこっと出てたもんでさ!俺だけが見るのは勿体ない気がしたんだよ!」
「ね!可愛いから直すなんて勿体ないよ!」
智也の最初の方の声は周りの喧騒に被せられ聞こえなかったが、和葉が意気投合しながら色々と言ってくるので、寝ぐせを手で何とか戻そうとしながら適当に流す。
そんなこんなしていると青信号に変わった。せめてもの抵抗だと、青信号に変わったことに気づいていない二人を置いて早歩きで渡っていく。
後ろから二人がやりすぎたと思ったのか謝りながら追いかけてくるのを感じ、怒ったふりでやり返せたことにニヤニヤしながら振り返る。
慌てた様子で和葉と智也が駆け寄ってきていた。
「あー!もう!やりすぎちゃったかと思ったのに!心配して損したよ!損!」
「引っかかるほうが悪い」
「流石我が弟子、成長したな!」
ほっぺを膨らませながら怒ってくる和葉と、先ほどまでの慌ててた様子はどこに行ったのか、腕組しながら頷いている智也。そんな二人との会話を、どこか心地よく思いながら学校につく。
今日も今日とて、いつもと変わらない何気ない会話、いつもとなんら変わりない一日が始まった。
そう思っていた...。あの時までは...。
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