29.七年ぶりの魔王
カータスが案内したのは謁見の間ではなく、魔王の執務室だった。
唖然としていると、執事が優しく微笑んだ。
「アーデルハイド様はここにいらっしゃるのが大好きでしたよね」
彼の言うとおり、孤独だったアーデルハイドはいつも魔王からの愛を求めてここへやってきた。
今となっては忌々しい思い出でしかないが。
謁見の間ではないということは、これは非公式に行われているのだろう。
ルーカスのことは周りにどう説明しているのか想像もつかない。
中へ入ると、黒髪赤眼の美しい男が手元の書類から顔を上げた。
「やあ、僕の愛しいアーデルハイド。おかえり」
魔王はルーカスの目の前まで歩み寄り、両腕を広げて抱きしめようとしてきた。
反射的に後方へ下がると、ハグが空振りした彼は困ったように笑う。
「小さい頃はアーデルハイドの方から可愛くおねだりしてくれていたのに、反抗期になったの?パパ寂しいな」
パパ、という言葉に過敏に反応してしまう。
この男は七年前の出来事をなかったことにしようとしているのか。
「……陛下が僕を正式な後継者として任命したとお聞きしました。何故ですか?」
「愛息子に陛下呼びされるのは嫌だな。昔みたいにパパと言ってほしい」
「魔界を追放された際に陛下との親子関係は切れています」
「あの時は仕方なかったんだよ。ごめんね、許しておくれ」
へらへらと笑う魔王に、怒りで頭がおかしくなりそうだった。
殴りつけたい衝動に駆られるが、簡単にあしらわれることが明白なためどうにか堪える。
「質問に答えてください。どうして承諾なしに僕を正式な後継者にしたんですか?」
「お前が初代魔王と同じ黒髪と黒い瞳を持っているからだよ」
「……それだけですか?」
「逆に、アーデルハイドはそれ以外何かあるの?」
にこにこ顔で問いかけられ、言葉を発することができなかった。
黙り込んでしまったルーカスを見て、魔王は目を細める。
「僕はお前をかなり甘やかして育てたから勘違いさせてしまったのかもしれないけど、……『魔界をぶっ潰す』なんてふざけた戯言はシャルルに勝てるようになってから言いなさい」
そんな日は永遠に来ないけどね、と朗らかに笑う魔王。
我慢するのもアホらしい。
ここまで誰かに激しい嫌悪感を抱いたのは初めてだった。
「……分かりました」
全ての感情を押し殺して、完璧な微笑みを浮かべる。
どれだけ憎らしくても魔王より弱いルーカスでは何もできない。
自身の無力さが恨めしくて仕方がなかった。
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