26.招かれざる客
[今のアーデルハイド様が聖属性の最上級魔法を受けるのは極めて危険です。闇耐性を獲得してから撃たれることを強く推奨します]
無意識に封魔の書を持つ手が震えた。
クリスの聖魔法が尋常でないレベルで痛かったので、興味本位で最上級魔法を受けていいか尋ねたところである。
「なんで今まで教えてくれなかったの?」
[うっかりしていました。(´>ω∂`)てへぺろ☆]
「……もう伝え忘れてることはないよね?」
[はい、ありません。申し訳ございませんでした]
それきり完全に黙ってしまった封魔の書。
次にてへぺろって言ったら燃やすからね。
「クリスに撃ってもらう前に闇耐性をつけなきゃいけないらしい」
「闇属性となると、フリードリヒ様にお願いできないんですか?確か殆どの魔族が扱えましたよね」
「兄上って魔法使えるのかな。よく教師を撒いて遊びに行ってたらしいけど」
ルーカスの前では良き兄でいてくれるが、昔はかなりやんちゃしていたらしい。
魔力量はそこそこあるだろうが、最上級魔法まで習得かは疑わしかった。
「ではイザヤ様は?」
「絶対にできると思うけど、どこに行ったらいいか分かんない」
「ルカ様の強火担なんですから、呼びかけたら出てきたりしませんかね」
「あはは、それはさすがに」
冗談を笑い飛ばしかけて、言葉を止めた。
かつて四六時中アーデルハイドの様子を監視していた兄のことだ。
可能性はゼロではない。
おもむろに軽く咳払いをして、虚空を見つめた。
「あー、イザヤ兄上にすごく会いたいなー。ほんとにかっこいいから、アイクに自慢したいなー」
「…………棒読みにも程がありますよ」
「え、だめ?」
アイザックに神妙な顔で頷かれて肩を落とす。
丁度そのとき家のチャイムが鳴った。
まさか本当にイザヤが来てくれたのかと二人で顔を見合わせる。
「どれだけルカ様ラブなんですか?日ごろから盗聴してるって怖すぎるんですけど」
「今回はありがたいけど、フリードリヒ兄上に言って叱ってもらおう」
そんなことを言いつつ、アイザックが玄関のドアを開ける。
しかし、そこには誰の姿もなかった。
「兄上?」
「………………」
「仕方ありませんね。やはり一度フリードリヒ様に相談してみましょう」
少し険しい顔をして扉を閉めたアイザックがこちらを向いた瞬間、彼の背後に黒髪の魔族が現れた。
鮮やかな赤色の瞳に見下ろされて、思わず息を呑み込む。
すぐにアイザックが攻撃を仕掛けるが、ナイフが彼の胸元に触れる寸前でその動きを封じられた。
「貴様、人間のくせになかなかやるな」
そう言って愉快そうに笑う魔族を見上げることしかできないでいると、アイザックの鋭い声が飛んでくる。
「ルカ様、逃げろ!」
「先に言っておくが、お前が逃げたらこやつは殺すぞ」
「俺に構わないで早く行け!」
彼がルーカスの専属護衛である以上、ここは彼の言葉を信じて逃げるべきだ。
しかしこの魔族が何者かを知っているため、アイザックを置いていくことはできなかった。
「何が目的ですか?」
「ルカ様!?」
「今すぐ魔界に帰ってこい。そして十八になるまで魔王の後継者としておとなしくしていろ」
「……分かりました」
少なくとも今の状況でこの男に逆らうのは賢明ではない。
───彼は魔界の第一王子で、史上最強の魔族なのだから。
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