21.情報収集

「どうしてもダメなの?約束したのに」


「ルカがその上級生に勝てばいいだけじゃねーか」


「絶対に勝てる保証はどこにもないよ」


「いや、勝たないと許さん」


ぴりっとした空気を纏うフェリクス。

完全に親バカモードから師匠モードに切り替わっている。

これ以上縋っても無駄だろう。


「封魔の力で魔法を無効化して体術で攻撃することを徹底できれば、そうそう負けませんよ。俺が保証します」


安心させるように微笑むアイザック。


こんな良い奴なのに、なんで素敵な彼女がいないんだろう。


「僕が勝ったら、兄上に頼んで可愛い女の子紹介してもらおうね」


「……フリードリヒ様と比較して捨てられる未来が見えるので、お気持ちだけ受け取っておきます」


「大丈夫だよ。僕が女の子だったら絶対にアイザックを選ぶから」


「ルカ様……。一生ついていきます!」


そんな気持ちの悪い会話をしながらも、ルーカスの漠然とした不安は拭いきれなかった。




せめて彼が何者か知ろうと思い、翌日ワーグナーに聞いてみた。


「オレンジ色の髪と目で、ガタイがよくて、なんか強そうな」


「それクリス様だよ。え、お前まさかクリス様と戦うのか?」


「有名なの?」


「逆になんで知らないんだよ。次の勇者候補って言われてる人だぜ?」


ワーグナーの言葉で、全てが繋がった。


おそらく彼は以前カディオ邸まで赴き、フェリクスに弟子入りを申し込んだが、昨日の調子で取り付くしまもなく断られ、一方的にルーカスに対して敵意を抱いているのではないか。


「ルカって全属性の最上級魔法受けないと、強くなれないんだろ?今やって大丈夫なのか?」


ワーグナーに心配されて、うーんと唸ってしまう。


「師匠から体術は叩き込まれてるからそこそこ戦えるとは思うけど、僕は基本的にアイク以外を相手にしたことがないから自分がどのレベルか分からないんだ」


「アイクってあのイケメン護衛だろ?まぁ、弱そうには見えねえけど」


めちゃくちゃ強そうにも見えねえな、という心の声まで聞こえ、思わず苦笑した。

アイザックが実力者に見えないのは普段から彼がおちゃらけているせいだろう。


「アイクはああ見えてフェリクスに鍛えられてるから、相当強いはずなんだけどね」


「そのフェリクスって人強いのか?数年前に引退した勇者と同じ名前だけど」


「うん、その元勇者フェリクス・カディオだよ。僕とアイクの師匠」


「………………え、マジで言ってる?」


「僕は嘘つかないよ、だいたい」


「じゃあ元勇者の弟子と次期勇者候補の対決ってことか?」


盛り上がってきたー!と一人で叫ぶワーグナーを前に、ルーカスの不安は次第に大きくなっていく。

強敵であることは想定していたが、問題はここからだ。


「クリス様の魔法属性は知ってる?」


妙な高まり方をする鼓動に知らぬふりをして問いかけるルーカス。

するとワーグナーは突然上げていた腕を下ろした。


「…………聖属性だ」


奇しくも嫌な予感が的中してしまった。

魔族に対して最も有利な聖魔法を操る勇者候補クリス。

───これは相当厳しい戦いになりそうだ。








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