20.フェリクス来訪

氷属性の最上級魔法は四日目まで無事に終わった。

あの日以来リアは訓練場に姿を見せなかったが、謎の緊張感はずっとあった。


アリス先輩に見惚れてもアプローチはしない。

浮気警察アイザック監修のもと、徹底管理された。


「きっとフリードリヒ様が幸せにしてくださいますよ」


「いや、絶対に遊んで捨てられるだけだよ」


「仮にそうだとしても、婚約者のいらっしゃるルカ様には関係ないことですよね?」


「……うん、そうだね」


少なくとも不誠実な人間にはなりたくない、その一心で残りの三日間は耐えた。


美少女顔だの可愛いだの散々な言われようだが、自分を好いてくれる女の子は大切にしたい。

不本意にも、それはルーカスに数多の恋愛作品を見せたアイザックの教育の賜物だった。

なお、彼は未だに彼女募集中である。


「ルーカス・カディオだね」


学校からの帰り道、突然見知らぬ上級生に声をかけられた。


橙色の髪に同じ色の瞳で負けん気が強そうな見た目をしている。


「そうですが、何か……?」


基本的に陰キャなルーカスは穏便に済ませようと愛想笑いを浮かべた。

普段であれば「え、最上級魔法撃ってくれるんですか?ありがとうございます!」と言うところだが、今回は相手が悪い。


「君、最上級魔法撃ってくれる奴探してるんだよね?俺と勝負して君が勝ったら、何発でも撃ってあげるよ」


「え、本当ですか!?四発で結構ですけど」


「ただし、俺が勝ったらフェリクス・カディオに弟弟子として紹介してくれ」


「分かりました!いつにしますか?」


こちらにとってなんのリスクもない約束に思わず食いついた。

フェリクスだったら上目遣いで頼めば一発だろう。

冷酷で知られる元勇者はルーカスに甘々でチョロいのだ。


「明日の昼過ぎに、俺が訓練場を借りておくよ」


「ありがとうございます、ではそれで!」


上機嫌で帰途に着く彼は、明日の戦いを極めて楽観的に考えていた。











「ルカ、おかえり」


「フェリクス?来るのは三日後だったよね」


「お前に会うのが待ちきれなくてな、予定を前倒しして来ちまった」


そう言ってルーカスの額にキスを落とすフェリクス。

やめてくれと手であしらうと、強く抱きしめられた。

完全に思春期男子の敵である。


「アイザックから聞いたが、魔族の兄と和解したり婚約者といちゃいちゃしたり、楽しそうじゃないか」


「兄上と和解はしたけど、リアといちゃいちゃしたことはないよ」


「リアっていうのか。今度俺に紹介してくれよ」


うざ絡みしてくるフェリクスに嫌な顔をしながら、先程の上級生のことが頭をよぎった。


「フェリクス、もしかしたら弟子をとってもらうかもしれない」


「弟子?いらねーよ」


「明日上級生と勝負するんだ。それで負けたらフェリクスに弟弟子として紹介しろって言われてて」


「俺はお前とアイザック以外の弟子を取る気はない」


意外に頑固なフェリクスに頭を悩ませることになるルーカスだった。





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