10. 撃ってくれない?

魔王の子どもは七人いるが、母親は皆異なる。

フリードリヒの母親は淫魔だ。

そのせいか彼は性格はいいが、そちらの噂を聞くこともあった。

さすがに十代の少年には手を出さないと思うのだが……。



「あなた、大丈夫?」


遠い目をしていると、知らない女の子に話しかけられた。

黒髪に紫色の瞳の綺麗な子だ。

思わずじっと見つめていると、不思議そうに首を傾げた。


「どうかされましたの?」


「僕が怖くないのかなと思って」


「……まさか。貴方の瞳の色、とても綺麗ですわ」


優しい彼女の笑顔から目が離せない。

とにかく彼女のことが気になって仕方がなかった。

それはまるで魔法のように突然のことで。


まさかなと思いながら全身に封魔の力をみなぎらせ、彼女を見ると髪と瞳の色は同じだが、先程までのキラキラしたオーラが完全に消えている。

誰もが見惚れるような美貌が一瞬にして可愛らしくも素朴な顔に変わった。


「魅了の魔法……?」


ルーカスが問いかけた途端、少女の顔が驚きの色に染まる。

黙りこんでしまった彼女に声をかけようとすると、


「美少女顔はいいですわよね!!」


こちらの顔を見ずに駆け出した少女の後ろ姿を、呆気に取られて眺めることしかできなかった。






今年の合格者はルーカスを含めて六人らしい。

その中には先程の少女やワーグナーもいる。


少女からそっぽを向かれるのは別に構わないのだが、問題はワーグナーだった。


「お前、フレア先生の弟って本当か?」


「フレア先生?」


「さっき俺たちに声を掛けてきた、超美人な先生だよ」


「……僕が先生の弟って誰から聞いたの?」


「フレア先生だよ」


今朝そんな会話をしてからワーグナーが構ってくるようになったのだ。


「フレア先生って恋人いる?」


「いるよ、男女合わせて二十人くらい」


だからやめておけ、暗にそう言ったつもりなのだが、


「俺を二十一人目に加えてくれねーかな」


「本気で言ってる……?」


「もちろん。なぁ、協力してくれよ。なんでもするからさ」


なんでも、という単語に耳が反応し、身を乗り出した。


「君の魔法属性ってなに?最上級魔法は使える?」


「火なら使えるけど、なんで?」


同学年で最上級魔法の使い手がいるなんて、やはりこの学校に来てよかった。

ここでなら、あっという間に全属性の耐性を得られるかもしれない。

期待に胸を膨らませながら、ワーグナーの手を取る。


「その最上級魔法で僕を撃ってくれない?」


そう言った瞬間、和やかだった教室の空気が凍った。

この反応には慣れたし、今更気にならない。

でもワーグナーにまで変態を見る目で見られたのは、かなりショックだった。









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