『なんでこんなところにいんのよ!』
校門のところにいた守衛さんに入校許可証を見せて高校に入る。俺の通ってた高校には守衛さんなんていなかったけど、まあ学校によっていろいろか。俺の地元田舎だったしな。都会の高校とはやっぱり違うよな。
高校の面積自体はそんなに大きくない。校舎も二棟しかないし、グラウンドも野球をするにはちょっと狭いかなというくらいだ。まあそのかわりか何か知らないけど、むき出しの土じゃなくて人工芝に覆われてるけど。ここ公立高校だよな……?
外来用の入り口から入ってスリッパに履き替える。高校の授業参観なんて誰も見に来る親なんていないだろなんて思ってたけど、意外とここまで来るのにも何人か公開授業を見に来たであろう親御さんを見かけた。
まあ何歳になっても自分の子供の授業風景を見たいって親もいるか。俺の高校にはそもそも公開授業みたいな授業参観みたいなのなかったけど、もしあったら何人か見に来るような親もいたのかもしれないな。
公開授業は五時間目の授業中ずっとだ。一応昼休みに被らないように授業が始まる時間ぴったりを狙って高校に来たおかげで、見知らぬ高校生と鉢合わせるなんてことにはなっていない。いや、別に会ったところでどうなんだって話なんだけど、なんか気まずいじゃん。
教育実習生でもないのに俺くらいの年齢のやつが来ることなんて無いだろうし。話しかけられるとは思わないけど、なんかじろじろ見られそうな気がする。
階段を上って三階まで上がっていく。日葵の教室の位置は事前に聞いてきた。グラウンド側の校舎の三階、その真ん中の教室だ。
今日俺がここに来ることは日葵には何も話していない。だって話したら絶対「来ないでよ!」とか言われるだろうし。寂しいじゃん、そんなの。
……まあ、ここに来るのなんて俺のわがままで、それ以上でもそれ以下でもない。日葵に何か確認を取ったわけでもないし。日葵の心の内なんて実際のところよくわからない。
親でも家族でもなんでもない俺がここに来ることに、日葵がどう思うかなんて。迷惑に思うのか? 邪魔に思うのか? 嬉しいと思ってくれるなんて俺が思うのは、ただの自惚れだろう。
それでも俺はここに来たのだ。ここに来たことで何かが変わるわけないし、日葵にとって今回のことが本当に良いことなのか、必要なことかなんてわからない。
でも、俺がそうしてあげたいと思ったのだ。だからここに来たんだ。日葵が怒るならそれはそれでいいよ。自分の授業風景を見られて恥ずかしかったって言えるのは、日葵にとってこれが最後だと思うし。
そんなことを考えながら俺は日葵の教室のドアを開けた。あまり音をたてないようにそーっと開けたけど、ドアが開いたことに気付かない人は少ない。
ドアを開けた俺のことを何人かの生徒が不思議なものを見る目で見てくる。明るい教室の中、俺より先に来ていたであろう親御さんと一瞬目が合って、俺は軽く頭を下げた。
それから教室に足を踏み入れる。担任の先生にも頭を下げたかったけど、先生はこちらを特に気にする風もなく授業を続けていた。
だから俺は教室の後ろの空いているところに立って、とりあえずきょろきょろと教室を見回して日葵を探した。流石に日葵がどのあたりの席に座ってるとか聞いてないし。
そうして視線を右から左に移動させて――窓際の席に座る日葵と目が合った。
目を丸くして驚愕の表情を浮かべている日葵。鳩が豆鉄砲食らったような顔、みたいな表現は聞くけど、今の日葵はまさにそんな感じの形容詞が似合う顔をしていて。
俺と目が合った後、日葵は何故か壊れたブリキのオモチャみたいな錆びついた動きで視線を黒板の方に向けていった。日葵の中でどんな思いが湧き上がったのかは気になるところだ。『なんでこんなところにいんのよ!』くらいは思ってるかもしれない。
……驚くとは思ったけど、なんかマジで驚いてるところを見るとちょっと嬉しくなるな。まあ、なんかあの様子だと後で怒られそうな感じがするけど。
もう一度教室の中を見渡す。俺が通っていた高校ではないけど、教室の雰囲気はなんとなく似ている。整然と並んだ机と椅子に生徒が座っていて、教室の前後に黒板があって、ロッカーがあって、雑然と掲示物が貼られていて。
全然違う高校だし、卒業してから二年しか経ってないのに何故か懐かしさすら感じる。俺も大人になっちまったな……。
なんて適当なことを考えてると、なんかちらちらと視線を感じた。教室の中の生徒が先生の目を盗んで俺を見てるっぽい。
俺なんか見ても何にもないんだけどな……なんて思うけど、まあさっき考えた通り俺くらいの年の人間がこんなところにいるのは珍しいしな。気になる気持ちもわからなくもない。俺が生徒だったらまあ気になるし。視線を向けるかどうかは微妙なところだけど。
見世物になっているわけではないし、少しだけ注目されるかもな、なんて思ってたから別に見られるのは不愉快でもなんでもない。ちょっとだけ視線が気になったりはするけど。普段人から注目されることなんて無いし。
……うん。ちょっと居心地が……日葵の方でも向いておくか。授業内容自体はとっくに俺が通り過ぎたところだし、別に俺が聞く必要があるものでもないし。
そう思って日葵の方に視線を戻すと、日葵もちょうど俺の方を向いていて。偶然にもまたバッチリと目が合ってしまった。
それが少しおかしくて、俺は思わず笑ってしまう。もちろん声は出さないように。
日葵は俺と目が合うとは思ってなかったのか、一瞬固まった後パッと前を向いてしまった。なんか肩が少し震えているように見える。も、もしかして怒ってたりする……?
日葵の態度にほんのちょっとだけ不安になりながらも、俺はその後も公開授業を見続けた。途中何度かさっきみたいなやり取りを日葵としてしまったのは、まあ……うん。そういうこともあるよねってことで!
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