1話 フラレ、一宿一飯の恩を返す語 壱

 播磨の男、フラレという男がいた。


 彼は悪魔の国『デイマー帝国』を飛び出し、世のため人のために能力を使う旅に出た。


 そして彼は今、田園風景の広がる田舎の道を歩いている。


 彼の格好は、人間社会に出ても目立たないように、ぼろぼろの紫布を全身に纏っている。デイマーではもっと豪奢な衣服を身につけていたが、今のフラレは悪魔の世を捨てた身である。


 彼は行く当てもなく、ふらふらと歩いている。当然、金銭も食料もないのでほとんど限界だ。


「流石にまずいかな。食べ物がなければ……」


 力なく笑い、フラレはその場に倒れてしまった。





 *





「……大丈夫ですか?」


 目が覚めると、フラレは豪華な部屋の布団に横たわっていた。


 目の前には、見慣れない衣服を纏った女性が、フラレの看病をしているようだった。


「あら、たふと。」

「とおと……、異国の言葉ですか?」

「いえ、気にせず。それよりも、ありがとうございます。行き倒れの私のようなものを救ってくださるなど。」


 フラレは心の底から感謝した。今のフラレの肉体は齢十六ほど。前世よりも短い人生になるところだった。


「倒れている人を放ってはおけませんよ。食事も用意しましたので、どうぞ食べていってください。」

「あら、たふと……」


 フラレはただただ、感謝した。


 この女性は、辺境の地に住む侯爵の令嬢らしい。名をマリィという。年齢はフラレと同じで十六。それゆえに惹かれて助けたというのもあるようだった。


 彼女の用意した食事を愉しんだあと、私は人間世界の風俗を学ぶために、マリィとしばらく話した。


 その後、マリィは庭で紅茶を愉しんだ。その折、マリィのすぐ横に、前世の烏丸に似た黒い鳥が、マリィのすぐ横に穢土フンを落とした。


 それを見かけて、フラレはマリィが何者からか呪いをかけられていると確信した。私はマリィに駆け寄り、言う。


「不躾に失礼いたします。マリィ殿。あなたは何者かに呪いをかけられています。」

「えっ……? 私が?」

「はい。これではどうして明日の朝を迎えられましょう。私が呪いから守護して差し上げましょう。では、家へ。」


 私はマリィを家に連れて、親に教わった悪魔の術を行なった。

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