「受け取る影」

人一

「受け取る影」

「ふぅ……」

仕事の合間、路地裏でタバコを吸っていた。

「ほんとにこんな所に自販機なんてあるのか?」

「確かあるんだって、この先に。」

学生2人が連れ立って目の前を通り抜け、路地裏に消えて行った。

こんな所に学生2人とは珍しい。

それに自販機を探してるだと?

俺も見たことがない。

少しばかり興味を惹かれたので、こっそりついて行くことにした。


あとをつけると学生達を見つけた。

彼らは1台の自販機と無数のロッカーがある空き地にいた。

路地裏探索なんてしたことないが、それでもこんな場所があるなんて知らなかった。


「これが例の自販機か?」

「そうそう、そうらしい。

なんでも1000円入れたら、自分が失くしたものが出てくるって噂だ。」

「魅力的ではあるけど……何回聞いても信じられないな。」

「まぁ、とりあえず目の前にあるんだしやってみようぜ。」

迷いなく1000円を自販機に投入した。

――カタン

「おっ、出た出た。番号は……28番か。」

そういった学生の1人は自販機から出てきたであろうキーで、ロッカーを開いた。

「おっ!マジかよ!これ俺の失くしてた財布じゃんかよ!」

「えっ?お前が失くして大騒ぎしてたやつか?」

「そうそう!いやマジかよ。噂って本当なんだな!

お前も早くやってみろよ!」

「まぁそうだな。」

――カタン

もう1人もお金を入れてキーを受け取ったようだ。


「俺は11番か。ってことは……ここか。」

「何入ってた?」

「……消しゴム」

「え?」

「だから消しゴムだって!確かに失くしたかも知れないけど……もっと他になんかあるだろ!」

「あっはっはっは、やっぱり噂は本当なんだな!

けっこう"個人差"あるみたいだけど!」

「くっそ~納得いかね~」

学生らは思い思いに話しながら、来た時とは別の道で路地裏に消えて行った。


俺は意を決して件の自販機の前に立った。

遠目で見ていた時と印象は変わらず、とくに特にコメントもない普通の自販機に見える。

「彼らは本当に失くしたものが戻ってきてたっぽいけど……やっぱり信じられないな。」

口では文句を言うが手はすでに、財布を開き今にも1000円札を取り出そうとしていた。


ジッジジジ……

ピッ

――カタン


「出てきた。鍵の番号は、2番か。」

2番のロッカーの前に立った。

そして鍵を差し込み取っ手に手をかけた。


――……ぁ

――……ぎゃあ

――おぎゃあ!

――おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!……


バタン!――


俺は扉を叩きつけるように閉め、鍵を放り投げた。

そしてロッカーの前から、振り返ることなく走り去った。

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「受け取る影」 人一 @hitoHito93

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