6. 20X5/11/04 いい推しの日 と、会社の推し

経理課のサトミ(25歳)は、朝から憂鬱でした。土日の連休と、月曜の振替休日を挟み、今日11月4日から仕事再開です。


「あぁ…なんで世界には連休が存在するのに、仕事に戻らなきゃいけないの…」


サトミは会社のエレベーターに乗りながら、3(通称THritter)を開きました。TLは、今日が「#いい推しの日」だと祝う投稿で溢れています。推しを語る投稿に、サトミは少しだけ元気をもらいました。彼女の「本当の推し」は、某アイドルグループのセンターです。


会社に着くと、サトミはふと、フロアで誰も見ていないことを確認し、心の中で決めました。


(今日だけは、連休明けの私の心を救ってくれる、「会社の推し」に頼ろう…!)


サトミの「会社の推し」は、営業部のホンダ主任(30歳)です。彼は仕事はできるが少し天然で、いつもどこかドジなエピソードを提供してくれる、癒し系の存在でした。


サトミは席に着くと、ホンダ主任の動向をそっとチェックし始めました。


ホンダ主任は今日、連休ボケのせいか、珍しくペットボトルのお茶をパソコンのキーボードの上に置いて作業しています。サトミは「あ、危ない!」と心の中で叫びましたが、主任は気づいていません。


そして案の定、ホンダ主任が電話に出ようと勢いよく立ち上がった瞬間、ペットボトルは倒れ、お茶がキーボード全体にドバァッ!


「あーっ!」と叫ぶホンダ主任の姿を見て、サトミは思わず噴き出しそうになりました。


サトミの3には、こんな投稿がされました。


サトミ(鍵アカ): 連休明けの絶望が、推し(会社の主任)のおかげで消えた…。推しは今日もやってくれた。キーボードが水没。最高。ありがとう、私の生きる糧。 #いい推しの日 #会社の推し #尊い水没




【別視点:ホンダ主任】

営業部のホンダ主任(30歳)は、キーボードを水没させてしまい、顔面蒼白になっていました。


「最悪だ…。連休ボケってレベルじゃねぇぞ、俺!」


彼が必死にキーボードを拭いていると、上司のサカモト部長がやってきて、大きなため息をつきました。


サカモト部長:「ホンダ、お前なぁ!連休明け早々、何やってんだ!」 ホンダ主任:「すみません!部長、本当にすみません!完全にボケてました!」


部長に怒鳴られ、ホンダ主任は深く落ち込みました。


しかし、その直後、経理課のサトミさんが彼のデスクにそっとやってきて、新しいキーボードの箱を置いていきました。


サトミさん:「ホンダ主任、新しいのこれ、使ってください。予備があったので。…ドンマイです!」


そして、サトミさんは、ホンダ主任に向けて心底嬉しそうな笑顔を向けました。


(…え?なんでサトミさん、そんなに嬉しそうなの?)


ホンダ主任は、自分のやらかしに激怒されるかと思っていたので、サトミさんのこの屈託のない、輝くような笑顔に戸惑いました。


ホンダ主任の3(公開アカウント)の投稿


ホンダ主任: 連休ボケでキーボードを盛大に水没させた。部長に怒られ、絶望の淵にいたが、経理のサトミさんが新しいキーボードを笑顔で持ってきてくれた。あの笑顔に救われた。天使か…? #連休明けの絶望 #天使のキーボード #今日の癒し


ホンダ主任は、サトミさんが自分のミスを見て、連休明けの憂鬱から解放され、心から癒されているとは夢にも思っていませんでした。彼は、自分のミスが、サトミさんの優しさを引き出したのだと、完全に勘違いして感謝しているのでした。

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