③エンターテインメントの本質

次に考えられる問題は、「作業」ではなく、「エンターテインメント」の分野にAIが進出してきたことです。


小説でもイラストでも映像でも音楽でも、すべてはエンターテインメント、すなわち芸術の分野であり、受け手が「楽しむ」ためのものです。



創作者がどういった人物でも、制作物さえ良ければそれでいい。


……とは簡単にいかないのが、エンターテインメントの一側面でもあります。

実際には、「誰が」関わったものか、というのが選択の決め手になることも多いでしょう。

ドラマやアニメで、「この俳優さんが主役に!」「この声優さんがあの役に!」という部分が宣伝されるのはそういうことです。



手癖や色選び、ちょっとしたミス、使いがちなフレーズ。

作品を通して創作者の本質を垣間見て、それをさらに楽しむのがエンターテインメントです。


創作者がこれまでの人生で得たものが、無意識に出てくることも少なくありません。



自分の世界を作りだし、それを多くの人に楽しんでもらう。

それが、創作者から見たエンターテインメントの本質だと思います。


誰かの世界を楽しむことが、芸術の楽しみ方ではないでしょうか。




ただ、少しばかり疑問に思うこともあります。

AIって、要するに誰かの創作を学習してデータとして取り込み、そのパターンを使って組み合わせ、何かを作るんです。


それは、わたしがこれまでの人生で大量に読んできた本によって蓄積してきた文章力や想像力と、何が違うのかな?と。

絵を描くにも、音楽を作るにも、過去に自分が見たもの・聞いたものがベースにあると思います。

大先輩のものをトレースして学ぶことだってあります。


そう考えると、プログラムが学習するのはだめで、人が学習するのはいい、とも聞こえますね。


違いは何かな、と。


努力していないから?


でも、AIのプログラムってめっちゃくちゃ大変な創作物です。

あれはかなりの知識と時間と労力を要しているはずです。

ほんのりSEをしていたことのあるわたしには、おおよそのことしかわかりませんが、あんなものは作りたくありません。

データベースは苦手なので。


ということは、使う人がちょろっとプロンプトを書くだけだから?


それは多少ありそうです。

でもそれだって、便利なものを使う方法を知っているだけです。





では何が嫌がられているのか。


それは、創作の定義を踏みつけにしているからだと思います。


②でも書いたように、AIは誰かが作ったものをデータとして処理して組み合わせて、それっぽいものを作る。

加味されるのは、同じようにデータとして取り込んだほかの誰かの創作物。


AI自身が思考して、「これは良い」と判断したわけではありません。

エンターテインメントの「良い」は人の感情でしかないのです。


つまり、創作者(この場合はAI)が良いものだと判断して作ったのではない。


それは、エンターテインメントにおける創作ではないと考えます。




では、プロンプトを入力した作業者が、できあがったものを「良い」と感じた場合は?


これは微妙です。

プロンプトを詳細に入力したとしても、「こういうものを作りたい」と想像した通りに作られることはありません。

入力した条件をもとに「それっぽいもの」を作るだけで、作業者の想像ピッタリのものは作れないのです。

AIに、作業者の頭の中は覗けません。


思ったものをそのまま出力させるプロンプトを書くなら、多分自分の手で作った方が早い。

そういうものです。



わたしが想像した物語があったとして、その設定やあらすじ、一話のプロットを作ってAIに読み込ませ、物語を書いてもらっても、思い通りにはなりません。

何度か試しましたが、わたしの頭の中で作り上げた世界を、完全に再現して文章化してくれたためしはありません。

むしろ、まったく違う作品が出てきます。


それはそれで面白いものかもしれないです。


ただ、「わたしの創作」ではない。




創作とは、「誰かの自己表現」なんだと思います。


作者がAIでもいいんです。

でもそれは、「AIの創作」であって、「プロンプト入力者の創作」ではない。


「自分の表現」として創作したものを見せるエンターテインメントにおいて、その創作部分をすべてAIにさせることが、創作者の想いを踏みにじるように感じられるんだと思います。



それは「技術」であって、「創作」ではない。


エンターテインメントとしてそれを許容するのかどうか、今後の動向を見守りたいです。

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